beniiro tear | ナノ


▼ Tulip / チューリップ : 恋の宣言


私にはどれだけの選択肢があるのだろうか。
そしてその全てには、彼を失う結末しかないのだろうか。

_



「十四郎、お待たせ」

「…行くぞ」


前回真選組のみんなと食事をしてから、一ヶ月ほど経った頃。仕事を終えた私の携帯に、十四郎から着信が入った。

ファミレスの時に近藤さんが言っていた「飲みにでも行きましょう」という社交辞令が、とうとう現実になったそうで、屯所で飲み会が開かれるからお前も来い、との事だった。少し悩んだ私に十四郎は『近藤さんが、お前を誘えって聞かねェんだ。頼まれてくれ』なんて珍しくお願いしてくるものだから、承諾する他なかったのだ。

長屋まで迎えに来た十四郎と合流して、屯所までの道を並んで歩く。あたりはもう夕暮れ時だ。


「悪かったな、突然呼び出しちまって」

「十四郎にお願いされるなんて、滅多にないことだもの。それに、きっと近藤さんも私に気を遣ってくれてるんだろうし、ね」

「酒は飲むなよ」


十四郎は私がお酒に強くないことを知っている。何度か迷惑をかけた経験があった私は、思わず肩を竦めた。私の家からさほど距離のない屯所に到着すると、まだ開始間もないはずなのに、すでにどんちゃん騒ぎをしているようだった。


「おー、トシィ!戻ったか!それになまえさんも!すまないな、突然呼び出してしまって」

「いえこちらこそ、わざわざお声をかけてくださって、ありがとうございます」

「遠慮せずにどんどん飲んでくれ!」

「近藤さん、こいつにゃ飲ませないでくださいよ」


もう既に出来上がっているであろう、真っ赤な顔の近藤さんは、笑顔で私を迎えてくれた。あまり知った顔のいない真選組の飲み会に、部外者の私がお邪魔をするなんて図々しいのでは、と心配をしていたのだが、無用だったようだ。


「なまえ、こっちに来い」


グラスを持った十四郎に手招きをされて、言われるがまま隣に座った。十四郎の奥には総悟くんもいたようで、ぺこりと頭を下げられた。


「姐さん、こんなむさ苦しいとこにいねェで、二人で抜けやしょうぜ」

「そうね、考えとくわね」

「うるせーぞテメェら。ホラ、お前ェらはオレンジジュースな」


三人でグラスを合わせ、私はぐいっとオレンジジュースを飲み込んだ。隊員に引っ張りだこの十四郎は、すぐに私の傍から離れてしまい、手持ち無沙汰になってしまった私に気を利かせて近藤さんが隣に座ってくれた。


「あれから、どうですか。少しは気分は良くなりましたか?」

「おかげさまで。こんなに賑やかな会に誘っていただいて、本当に感謝しています」

「そんな堅ェこと言わんでください!美人にゃ笑っていてほしいですから、出来ることがあれば何でも言ってくださいよ」


そんな近藤さんの優しい言葉に、少しばかり救われた気持ちになった。「ありがとうございます」とお礼を言うと、近藤さんの後ろから総悟くんが顔を覗かせた。


「近藤さん、浮気ですかィ?こりゃーあっちの姐さんに報告が必要でさァ」

「おい待て総悟!俺ァ浮気なんかしてねェ!お妙さんが一番だ!」

「…ってこたァ、こっちの姐さんは二番目ってことですかィ」

「そ、そういうわけじゃねェよ!!なまえさんはなまえさんで、いいところがたくさん…」


慌てて取り繕う近藤さんに、意地悪をする総悟くんのやり取りが可笑しくて、思わず笑ってしまう。お妙さん、とは確か近藤さんの想い人だと聞いている。こんなに男気溢れる人が片思いを続けているなんて、どこか親近感が湧いてしまう。

暫く三人で談笑をしたり、他の隊員に挨拶をされなりしているうちに、いい時間になったようで、十四郎に「送ってくから、行くぞ」と手を引かれて屯所を後にした。




prev / next
bookmark

[ back to main ]
[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -