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▼ Linaria / リナリア : この恋に気付いて 1/2



『また気が向いたら、抱かせてくれよ』

何度その言葉を繰り返し思い出しても、胸が締め付けられるように痛くなる。
まるで、遊び慣れしているかのようなその言葉に、私は奇しくも翻弄されていて。
彼に会うたび、割り切っていたはずのこの気持ちが、どんどん膨らんで溢れそうになる。

私たちにはこの関係がちょうどいい。
身体だけで繋がれたこの関係が。

なのに、なぜこんなに心が痛むんだろう。

_



…それにしても、私はここで何をしているんだろうか。


春の日差しが心地よい、昼下がりのかぶき町。
昼時ともあれば、ほぼ満席のこのファミリーレストラン。
隣に座る隊服を着た十四郎、向かいには総悟くん、そして近藤さんという摩訶不思議なメンバーで、食事が運ばれてくるのを待っていた。


「いや〜久しぶりになまえさんとお食事が出来るなんて、なぁトシ!」

「いや俺は別に久しぶりじゃないんで」

「土方さん、さてはサボって姐さんに逢いにいってたんですかィ?隅に置けねェヤローでさァ」

「バッ、ちげーよ!!!」

「本当にお久しぶりですよね、二人とも。お元気そうで何よりです」


十四郎を介して出会ったこの二人は、こんな私によくしてくれる。近藤さんは、やれ野菜だ果物だと、それこそ田舎の親のような振る舞いで私に差し入れをくれたり。(十四郎曰く、ゴリラの猫可愛がり…だそうだ。)
総悟くんは、あのビジュアルで意外とサディスティックな所があるらしいが、私にはそんな素振りを見せることなく、姉のように慕ってくれている。

何度となく顔を合わせているこのメンバーだが、わざわざお昼の休憩に呼び出されて、一緒に食事をとるなんていうのは、初めてのことだった。


「鈴さんがお前のこと心配してたぞ」

「えっ?鈴さんが?」

「ここ最近ぼんやりしてることが多くて、ため息ばっかついてるってな」


成る程、合点がいった。
鈴さんが私を心配してわざわざ十四郎に連絡をしたのだろう。それでこの不思議な会が開かれたというわけか。
…本当、鈴さんには頭が上がらない。戻ったらちゃんとお礼を言わなくては。


「何かあったのか?俺たちでよければ何でも言ってくれ」

「いえ、そんな取り立てて何かあったなんてこと…」

「そうですぜ、姐さん。いつでもこのマヨ…土方さんを好きにコキ使って下させェ」

「オイ総悟テメェ!いまマヨって、マヨって言いかけたろ!!」


そんな二人のやり取りが可笑しくて、思わずクスクスと笑った私を、近藤さんと総悟くんは安心したような顔をした。十四郎はチラリと私を見るなり、すぐに視線を逸らした。


「十四郎も。大丈夫よ、私は。ちょっと最近仕事疲れがたたってただけ」

「…ならいいけどよ」

「なまえさんお疲れなんですか?それじゃ、たまにはパーッと飲みにでも行きませんか!」


全く腑に落ちていない十四郎をよそに、満面の笑みで近藤さんが割って入ってきたものだから、私の話はそこで終わった。…きっと十四郎は薄々気付いている。私が、性懲りも無くまた恋をしているということを。流石にその相手が、十四郎のよく知る人物だということには、たどり着いてはいないはずだけど。




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