▼ Chapter1
何となく、そんな気がして、私は夢の中から意識を取り戻す。
窓の外には漆黒の闇が広がる。雲一つない、月だけがこちらをひっそりと照らしている。空虚のような静寂を裂くように、遠くからスクーターのエンジン音がする。
…やっぱり、きた。
スクーターのエンジン音が、長屋の前で止まった。階段を上がる足音に、私の心臓は跳び上がるように音を立てる。
二、三と扉を叩く音に、私は起き上がり玄関へ向かう。扉を開け目に入ったのは、フワフワとした銀色の髪。鼻を掠める僅かなアルコールの匂い。私を見つめる据わった瞳。銀髪と夜空とのコントラストに私は心の奥が、ジンと温かくなった。
「…万事屋さん」
そうして、私は今夜もまた、この男に抱かれる。
紅色の涙
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