Dolce | ナノ


▼ それでも君を離したくない / 坂田銀時

鬼畜胸糞系です。苦手な方はご注意ください。



『もう別れた方がいいと思う』


2ヶ月ほど前にそう切り出されてから、俺は何度もなまえを引き止めてきた。色んな言葉を使い、懇願して頭を下げて、それでもなまえは首を縦に振ることはなかった。

この数年ずっと隣にいたやつが、突然いなくなるなんて想像もできなかった。昨日まであんなに楽しそうに笑ってたじゃねェか。気に入らねェことがあんなら朝まで話し合えばいいじゃねェか。今までだって何度もそうしてきたってのに、何で離れるなんて言うんだよ。俺はもうお前がいねェと生きていけねーんだよ。こんなに愛してるってのに、何でお前は。

意地が悪ィと思いながら、神楽や新八を引き合いに出したり、普段は言いもしねェ顎が外れるような愛の台詞を並べてみたり。それでも固めた決心を変える気のないなまえに、俺は打ちひしがれた。何を伝えようとも変わることのないなまえの気持ち。どうしても戻ることのない俺への思い。万事屋からなまえん家までの道を歩きながら、この2ヶ月拒絶してきた別れの言葉を受け入れることにした。


「…わかったよ。お前がそれだけ言うなら、…別れりゃいんだろ」

「…そんな言い方しなくてもいいでしょ」

「…もう俺に気持ちはねーのか?」


長屋の前についたなまえは俺の問いには答えず押し黙った。あぁ、そうかよ。俺の目ェ見て答えてくんねーくらい、もう冷めちまったってことかよ。女ってのは勝手な生き物だよな。好きだ何だって舞い上がってる時ゃ色っぺー顔ですり寄ってくるくせに、テメーの気持ちが冷めたら相手の気持ちも考えねーで背向けやがる。…俺の気持ちも知らねェで。


「あいつらにはまだ言わねーからよ。時間ある時にでも荷物取りにこいよ」

「…わかった」


そう呟いてこちらに振り返ることもなく小走りで部屋に入っていくなまえの背中を見届けたところで、くるりと振り返り長屋の陰に静かに歩み寄った。


「なァ、兄ちゃん。ちっと頼まれごとしてくんねェか」


物陰に身を潜めていた男は、俺の声に心底驚いたように肩を揺らした。


「な、…なんだお前…っ!」

「気付いてねェとでも思ったか?毎日毎日人の女をコソコソ付け回しやがって。…まァ今回だけは目ェ瞑ってやるよ。その代わり頼まれごとしてくんねェ?」

この男はこの数ヶ月なまえの部屋を覗いたり、後をつけたりを繰り返していた所謂ストーカーだ。なまえは気付いてなかった様子だったが、何度も長屋や万事屋周辺で見かける顔に俺は薄々気付いていた。実害がないところを見ると、俺の存在にそれ以上の行為を働くのを躊躇していたんだろう。男は笑みを浮かべる俺の眼差しにガタガタと震え出して萎縮している。


「……頼まれてくれるよな?」






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あれから数日。荷物を取りに行くとなまえから連絡を受けた俺は神楽や新八、定春を外に連れ出した。


「銀さん、今日はどこにいくんですか?依頼入ってないですよね?」

「あー、たまには外で飯でも食いてぇなって」

「なんだヨー!それならなまえも誘えばよかったアル!」

「本当ですよ。なまえさん今日お休みじゃないんですか?」

「今日は急遽仕事が入ったらしくてよ」


ふーん、と残念そうな二人から目を逸らして、しばらく黙って町中を歩いた。そろそろか、なんて心の中で呟けばわざとらしくあ、と声を上げる。


「わりー、忘れもんしてきた」

「えぇ?それじゃあ戻りますか?」

「いやお前らは先行ってろ。ちゃちゃっと済ませてくるから、お前ら妙でも誘いに行ってくれば」

「姉御も誘うアルか?ヤッホゥ!」

「いいんですか?それじゃ姉上とうちで待ってますから、銀さんも早くきてくださいね」

「おー。すぐ戻るわ」


ふらりと手を上げて来た道を戻る俺は、今どんな顔をしているだろうか。…俺は真面目に仕事をしているわけでもなけりゃ、特段いい男なワケでもねェ。それでも俺を選んでくれたあいつを心から大切にしてるつもりだった。本当に愛していたし、ずっと一緒にいられると思ってた。同じようになまえも考えてくれてると思ってた。手放すなんてこと、少しも考えたことはなかった。それなのに。

すぐそばまで迫った万事屋までの道を俺は静かに呼吸を繰り返しながら歩いた。俺がしたことはきっと間違ってる。それでも俺は、なまえを。静かに階段を上り、玄関の戸の前に立ち尽くした。目を閉じ深呼吸をしてすぐに戸を引いた。寝室の方からすすり泣くなまえの声と、男の声が僅かに耳に届いて寝室へと向かった。

なまえに跨り腰を振る男とやめて、やめてと力なく抵抗するなまえ。畳に僅かに血が滲んでいるのが見えたところで、俺は思い切りその男を襖の方へと殴り倒した。いざその様子を目にすると全身が逆毛立つほどの怒りが込み上げて、一心不乱にその男を殴り続けた。予定外の俺の行動に男は驚いたように抵抗したが、構わず何度も何度も拳を振り落とした。なまえが制止するように声をあげ、ようやく俺はその拳を止めた。

静かに振り返れば、着物が乱れてガタガタと震えるなまえが涙を流しながら俺を見つめた。そんななまえに何度も心の中で謝った。名前を呼んで肩に手を伸ばせば、先ほどの乱暴のせいか大きく肩を震わせるなまえを静かに抱き寄せた。


「…怖かったろ。もう大丈夫だからな…」


そんな俺の言葉になまえはうん、うんと頷きながら「怖かった」と呟いて大きく声を上げて泣き出した。なまえ、ごめんな。こんな男でごめんな。最低のクズ野郎だと俺自身もそう自覚してるよ。


「…なまえ、やっぱりお前のこと手放すなんてできねェよ。ずっと俺の見えるとこにいてくんねェか。お前に何かあったら、…俺」


どんなことをしてでも、俺はお前を手放したくなかったんだよ。お前を傷つけることになっても、お前が俺から離れることの方が、よっぽど耐えられなかったんだよ。


「…うん、…ごめんね…っ銀時。やっぱり私には銀時がいてくれなきゃ、ダメだよ…」


そうだろ?お前を守ってやれるのは俺だけなんだよ。世の中どんな奴がいるかわからねェだろ?お前は気は強ェけど、抜けてるところがあるから、心配なんだよ。お前には俺が必要なんだよ。なぁ、なまえ。


「もう、離れるなんて言うなよ」


腕の中でなまえが小さく頷いた時、俺の口元は思わず緩んでしまった。






それでも君を離したくない
(…どんな手を使っても)




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