Dolce | ナノ


▼ やっぱり君から離れられない / 坂田銀時


※やや裏 モブ無理やり表現あり 苦手な方はご注意ください。


しんと静まった万事屋の和室で、私も同じように口を閉ざしながら私物を紙袋に入れる作業を繰り返していた。いつも賑やかにしているみんなは、今日は依頼で出かけている。定春も一緒に行っているということは、大きな案件ではないのだと無意識に安堵していた。…もうそんな必要はないというのに。


私は銀時と付き合っていた。つい数日前までは。
比較的仲は良かった方だと思う。言いたいことを言い合う仲だったし、互いの愛をちゃんと伝え合っていた。それでも何年もこの関係を続けてきても、何も互いが成長していないことに気づいてしまった。

別に私は結婚がしたいだとか、子供が欲しいだとか、そんなことを求めていたわけじゃない。きっと今の銀時の経済状況や置かれている立場を見ていれば、私もそんなことを快諾するはずもなかった。ただ、この関係がマンネリ化していた。朝万事屋に向かい新八くんと家事をして、みんなでご飯を食べたり散歩したり。今のように依頼に行ったみんなを見送ったり、たまに着いて行ったり。夜はまたみんなでご飯を食べて、帰りは銀時に送ってもらって、私の家で愛の交わりを交わす。

それだけの日々をこの数年、何度繰り返してきただろう。

最初は本当に幸せだった。それだけで十分だと思っていた。でもきっと私はそんな日々に飽きていたんだと思う。もっと新しい世界を知りたくなってしまったのだ。


「もう少しかかるな…」


ぼそりと独り言が溢れた。
別れを切り出したのは2ヶ月ほど前。銀時は当たり前だというように反対した。
「今更お前以外の女を好きになんてなれねェ」「俺にもあいつらにもお前が必要なんだよ」「考え直してくれねェか」…「俺は今でもなまえを愛してんだよ」

今思い出しても少しだけ胸の奥が軋みだす。銀時は悲しそうな苦しそうな、今まで見たことのない表情で自身の気持ちを訴えた。それでも私の決意はもう変わらなかった。そんな私の決意に折れてくれたのが数日前の話だった。

銀時のことが嫌いになったわけではない。もちろん神楽ちゃんや新八くんのことだって大好きだ。だけど、このままだと嫌いになってしまいそうだった。それだけはどうしても避けたかった。私の中ではとても大切な思い出だったから。


不意に玄関の方からカタンと音が聞こえて、下げていた顔を上げた。いつもだったら飛び込んでくる神楽ちゃんの声がしない。それに続くみんなの足音も。不審に思って和室からひょこりと顔を出した。じっと廊下から居間を繋ぐ戸を見つめていると、すりガラス越しに見えたのは、見たことのない着流しの柄の男。まさか、空き巣?そう思ったのとほぼ同時にガラッと戸を引いたのは、やはり見覚えのない下卑た笑みをした男だった。


「…え、…ちょっと…っ」

「やっぱりお姉ちゃんはいつ見てもかわいいねぇ」

「は…?」


私を捉えた瞳がくっと三日月型に変わり、男はずんずんと和室から顔を出す私に近づいてきた。やっぱり?いつ見ても?何この人、知らない。怖い。逃げなきゃ。そう思っても突然のことに萎縮してしまった私はそこから動けずにいた。そんな私に気づいてか舌なめずりをして、私のすぐ前に立ちはだかって勢いよく手首を引き、和室の奥へと引きずり込んだ。


「こんなおぼこいお姉ちゃん抱けるなんざ、ツイてるなぁ」

「いや、…離して…っ!!」


何をされるのか理解した途端、急に体に力が入り掴まれた手首を振って抵抗をした。そんな抵抗も虚しく押し倒されればそのまま馬乗りに跨がれてしまった。ガバッと襟元を開かれれば露わになる胸元。その瞬間私は大きく声を上げた。


「いやぁあっ!!やめて、やめて…!」

「おっと、声は出すんじゃねぇよ」


声を上げた途端思い切り頬に拳が振り下ろされて、痛みが広がって恐怖に無意識に身体が震え出した。嫌だ。なんで、なんでこんなこと。痛みとまた殴られるかもしれない恐怖でそれ以上声を上げることができずに、ガタガタと震える手を口元へと運んで目をギュッと瞑った。ポロポロと目尻から流れる涙を息の荒い男の舌が舐めとって、小さくひいっと声を上げる。

ガバッと無理やり股を開かれて私の恐怖は頂点に達した。嫌だ、嫌だ。助けて、銀時、助けて。別れたと言うのに、私は心の中で何度も何度も銀時の顔を思い浮かべていた。勢いよく下着を剥ぎ取られれば、すぐに熱いそれを充てがわれて大きく首を振った。


「痛めつけるのは趣味じゃねぇが、時間がないもんでな。恨まないでくれよ、恨むなら……」

「……ぅうっ……っ!!!」


少しも濡れてもいないそこに勢いよく欲情したそれを突き入れられて、私は目を見開いて涙を流した。何か言っていた男の声なんて、少しも届かなかった。痛い、身体に槍を貫通させられたような痛み。慣れてもいない中を乱暴にそれが出し入れされるたび、痛みにくぐもった声が無意識に漏れた。…こんなひどいこと、なんで。痛い。やめて。


「く、締まるじゃねぇか…お姉ちゃん、俺ァずっとお姉ちゃんとシたかったんだよ、なぁ…、気持ちいいだろ…」

「…いやぁ…助けて、…助けてぇ…っ」


ずんずんと奥を目指して突き進むそれが、私の心を擦り減らしているようだった。痛みで何も考えられない。全身を襲う吐きそうなほどの痛み。銀時との行為はいつもいつも銀時が時間をかけて私を愛でてくれて、蕩けそうなほどの快感に包まれていた。本当に幸せな時間だった。それなのに、こんな男にこんなに乱暴にされるなんて。悲しくて悔しくて、だけど怖くて、ただ涙を流して痛みと恐怖に耐えることしかできなかった。…銀時。助けて。虫がいいかもしれないけれど、やっぱり私は銀時じゃなきゃ。

と、その時、ガタンと玄関の方から音が聞こえた。少しだけ間が空いてすぐにドタドタっと荒っぽい足音が室内に響き渡る。そんなこと気にも留めないように一心不乱に腰を振る男を思わず見上げれば、次の瞬間その男が私の視界から消えた。それと同時に襖の方に大きな音が響いた。思わず襖の方へ目をやれば、男に跨って黙って拳を振り下ろす銀時の姿があった。


「ぎ、…とき…」


銀時は少しも容赦することなく、ただ怒りに任せてその男に一心不乱に拳を振り下ろした。男は最初こそ呻き声を上げていたが、だんだんとその声も小さく弱々しいものへと変わって行った。いくら別れているとはいえ、付き合っているときは本当に嫉妬深い男だった。このままじゃあの男を殺しかねない。


「銀時…っ!もうやめて、死んじゃうよ…」


震える肩を必死に抑えながら、私は少しだけ上体を起こして震える声を上げた。私の声に銀時はピタリと振り下ろす拳を止めた。そして静かにこちらに振り返った。怒りなのか悲しみなのか、虚な瞳で私を見つめる銀時。見慣れた心の底から安心できる相手だと言うのに、先ほどの出来事のせいで体の震えが止まらずに、ボロボロと涙を流して銀時を見つめた。


「…なまえ」

「……っ」


低く優しい銀時の声に私の瞳からはさらに雫が溢れ落ちた。静かに私に近づき震える私に手を伸ばした銀時の手が私の方に触れた瞬間、私は反射的に肩をビクッと震わせた。銀時が怖いわけじゃない。先ほどの行為のせいで、身体が反射的に反応してしまった。まだ下半身を襲う痛みに、下卑た男の感覚。気持ちが悪くて、怖くて。そんな私に気づいてか、銀時は静かに私を抱きしめた。


「…怖かったろ。もう大丈夫だからな…」

「…ぅん、…うん。怖かった…っ」


銀時の胸元に額を当てて、私は大きな声を上げて涙を流した。怖かったし痛かった。知らない男に、あんなことされるなんて。悲しくて、本当に悲しくて。それでも、銀時が助けに来てくれたことが嬉しかった。ガタガタと震えながら泣いている私を、銀時は更に強く抱きしめた。


「…なまえ、やっぱりお前のこと手放すなんてできねェよ。ずっと俺の見えるとこにいてくんねェか。お前に何かあったら、…俺」

「…うん、…ごめんね…っ銀時。やっぱり私には銀時がいてくれなきゃ、ダメだよ…」


飽きたなんて言って別れ話を持ちかけておきながら、結局こんな時に脳裏に浮かんだのは銀時だった。助けを求めたのは銀時だった。やっぱり私には、銀時が必要なんだ。


「もう、離れるなんて言うなよ」


耳元で響いた銀時の声に、私は黙って腕の中で頷いた。



やっぱり君から離れられない
少しだけ
嬉しそうな声に聞こえたのは
気のせいかな


prev / next

[ back to main ]
[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -