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▼ さくらと君の。/ 坂田銀時



「え?桜?」


思わず次いで出た言葉は、「銀ちゃんが?」。
そんな私の反応に些か不機嫌そうな顔の銀ちゃんは、ヘルメットを片手に私の自宅の長屋の前にスクーターを止めて、シートに腰を下ろしている。

お家で呑気にテレビを見ていた私の耳に突然飛び込んできたのは聞き慣れた彼氏のスクーターのエンジン音。アポイントもなくやってくるのは初めてのことじゃないけれど、おせんべい片手にケラケラとテレビを見ていた私は大慌てで表に飛び出した。そしてそんな私を見るなり呆れたように短く笑って『桜見に行くぞー』とかなんとか言うもんだから、思わず驚いて口をついて出てしまったのが先ほどのセリフ。


「んーだよ。俺だって桜くらい見ますぅ」

「花より団子の銀ちゃんが、…桜」

「ったくるせー女だなァ。んじゃ何、お前見に行かねーのな」

「あああっ、ウソです、行きます、連れてってください!」

「んじゃ早くしてくれる」


ぽいっとヘルメットを投げられれば慌てて私はそれを受け取った。すっぽりと頭が収まるそのヘルメットをかぶれば、いつものように後ろのシートに横乗りになって銀ちゃんの腰に腕を回した。と、同時に走り出すスクーターに乗せられて、私たちはかぶき町の街中を心地の良い風に吹かれて走り出した。

あーあ、こんなことならもっとちゃんと化粧しておけばよかった。あ、口元におせんべいのカス付いてた!最悪。髪の毛もちゃんと束ねてくればよかった。もう、本当に突然思い立つんだから、この人は。


「何ブツブツ言ってんの、聞こえねーよ」

「銀ちゃんの髪の毛が風に靡いて邪魔くさいなぁって」

「振り落とすぞコラ」

「ねー銀ちゃん、どこに連れてってくれるの」

「そりゃついてからのお楽しみだよ」


ふぅんと唸って銀ちゃんの背中にこつんと頭を合わせて、静かに瞼を伏せた。こないだまでスクーターに乗るのも嫌ってほどに凍えそうな寒さだったのに、気がついたらこんなにも心地の良い季節になってたんだ。

…銀ちゃんと春を迎えるのはもう何度目だろう。何だかんだ毎年理由をつけて私をお花見に誘ってくれている気がする。私が行こうって言ってもうんともすんとも言わないくせに、こうやって自分の気が向いたらふらっと連れ出されるのだ。毎年恒例と言えるこの行事も、誘われるたびに「え?銀ちゃんが桜?」と驚いているような気がして、思わず頬が綻んでしまった。

不意に、なまえ、と名前を呼ばれて瞼を開ければ、目の前には綺麗な枝垂れ桜の並木通り。思わずわぁっと声を上げてしまった。通りの傍にスクーターを止めて改めてその桜並木へと目をやれば、淡い桃色の世界に思わず目を細めた。


「ここは来たことねーだろ」

「うん、初めてきた。この辺に枝垂れ桜並木があるなんて知らなかった…すごい綺麗」

「本当はここ夜の方が綺麗らしいんだけどよ、夜になんと屋台も出てすげェ人混みになるっつーから」

「へぇ、そうなんだ。…ねぇ先まで歩いてもいい?」

「おー」


素直に喜ぶ私に銀ちゃんは得意げな表情で笑ってみせた。思わず銀ちゃんの腕に手を回せば、あながち満更でもなさそうな表情で私を受け入れて、並んで歩いてくれる銀ちゃんに私は胸が焦がれるような感覚に襲われた。


「去年は外れの桜並木でしょ、その前は新ちゃんと妙ちゃんのお家のそばの大きな一本桜。その前は真選組の屯所の近くの公園にお花見しに行ったよね」

「あん時最悪だったよなァ。あのバカどもに絡まれるわ、最後記憶ないわで散々だったっつーの」

「でもすごい楽しかったの覚えてる!」

「お前とこーやって桜見んのも今年で4回目か、はえーもんだな」

「ほんと、…あっという間だね」


枝垂れ桜を見上げながら、雲ひとつない真っ青な空に目を見張る。銀ちゃんと一緒に過ごすようになって長い月日が流れて、それでも尚出会った時の気持ちを持っていられることに、そして同じ気持ちを抱いてもらえていることに、何だか胸がいっぱいになってしまった。


「銀ちゃん、また…」

「来年も、再来年も」

「えっ?」

「ジーさんバーさんになってもまた、…一緒に見に来ような」


私の言葉を遮るように、私が言おうとした言葉を銀ちゃんが横取りをした。その瞬間ぶわっと風が吹いて、舞い散る桜の中で照れ臭そうに笑う銀ちゃんの笑顔に、私は思わず涙が出そうになった。

出会った頃と何も変わらない、その笑顔が今も大好きだって再確認できたから。



さくらと君の、笑顔
「いつもそれくらい格好よかったらいいのに」
「何だよいつもかっこわりぃみてーな言い方」


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