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▼ 初めてのおつかいのアイツ / 坂田銀時 by一華 / 千鶴様request



「…ねぇ、銀時」

「んー?俺も好きー」

「そんなこと一言も言ってねーよ」


なまえと愛の交わりを交わすこと計3回。ようやくなまえの身体を解放してやれば、寝る時間はすっかり明け方になってしまった。俺の胸に顔を埋めながら聞こえるなまえの少しだけ眠そうなくぐもった声に思わず頬が緩み出す。


「明日月詠と二人で地上行くんだー」

「ふーん。いいじゃん……って、えっ?何?地上?何で!?」

「買い物。たまには吉原以外の店でも見るかって」


緩んでた頬が一変、聞き捨てならない言葉に俺は思わず眉を顰めた。オイオイ、俺とはウィンドーショッピングすらしてくんねェくせに何で月詠とはそんな嬉しそうに出かけやがるんだこいつは。それに二人で!?いくら吉原自警団のツートップとはいえ、地上にはわりィ野郎どもが腐るほどいるんだ。


「俺も行く」

「はァ!?なんでよ、月詠と行くって言ってんじゃん」

「世の中何があるかわかんねェんだから!俺以外の物好きなやつがお前の魅力に気付いちまう可能性があんだろーが!」

「一言余計なんだよ、ボケ!!!」


ぎゅうっと俺の金玉を握るなまえに悶絶しながら、「絶対くんなよ!わかったな!」と睨みつけられれば頷く他なかった。だがここで諦めれば男がすたる。大切なハニーちゃんを危険な目に晒すわけにはいかねェ。俺はそう意気込みながら眠りについた。



--------


「銀ちゃん?どこ行くアルか?」

「あ!?仕事だ仕事!」

「依頼入ってるんですか?」

「俺だけで充分の依頼だから、おめーらは待ってろ」


まさか心配だからなまえたちの買い物の後をつけるなどガキどもに言えるわけもなく。俺はテキトーな言い訳をつけて万事屋を飛び出し吉原の方面へと向かった。地上に上がるとはいえかぶき町にくるのかどうか、詳細までは聞いていない。とあらば吉原から出てくるところから尾行する他ない。運良く遭遇できるといいんだけど。


「なまえ、待ちなんし」

「おせーよ、早く早くぅ!」


と、ナイスタイミングで聞こえてきたなまえと月詠の話し声。俺は物陰に隠れてその後ろ姿を見るなり思わず口元を手で覆った。なまえちゃん、普段着じゃない…ウソ、なにあの格好、カワイイ…!

普段着ている臙脂色の着物ではなく、少し落ち着いた水色の華やかな着物を着てやがる。隣の月詠も同じような形の黄緑色の着物を着ているようだ。…アイツ俺んときゃオシャレしてこねェのに!?月詠と二人だとそんな格好しちゃうワケェ!?…可愛いからいいけどォ!?


「ここどこ?遠いのかな?」

「どれ、見せてみなんし。…江戸の外れの方じゃな、じゃがそんなに時間はかかりんせん」

「喜んでくれるといーけど」


僅かにしか聞こえてこない二人の会話に、俺は姿を隠しつつ必死に耳をすませてその姿を見守った。二人は道中の呉服屋に寄り装飾品を見繕ったり、試着をしたり。…あ、なまえちゃん、その髪飾り可愛い!似合ってるから買ってくれ!


「似合ってると思うが」

「んー、…いや、やっぱやめとく」

「そうか?」


何でだよ!!!買えよバカ!!!これまた物陰からなまえにそんな悪態をつきながら、呉服屋を出ようとする二人から身を隠し、出て行ったのを見計らってその呉服屋に飛び込んだ。


「おっちゃん!この髪飾りくれ!いくらだ!?」

「6900円だよ」

「はァァァ!?ジジイテメーぼったくりだろーが!何でこんな髪飾り一個でそんなすんだよ!?」

「これは異国の素材でできていてな、熟練された職人がひとつひとつ手作りで…」

「……あぁあ、もう!それくれ!…ったく今月こそ家賃やら給料やらちゃんと払えると思ったのによォ」

「毎度ー!」


呉服屋を飛び出して見つけた二人が次に入ったのは花屋。またもやあーじゃねェこーじゃねェと結局何も買わずに花屋を出た二人に続き、俺はまたその花屋に飛び込んだ。


「おばちゃん!さっきの女が持ってた花くれ!」

「花束でいいかしら?5000円よ」

「……一本包んでくんねェ?」


一本の黄色のバラを帯に突っ込み、またなまえたちの後を追えば、二人は俺の財布事情も知らずに楽しそうに笑いあっている。クソッ、何であいつら何も買わねーんだよ!俺が買い物しにきたみてーになってんだろーが!そうして次に二人が立ち寄ったのは真新しい一軒の洋風の建物。何の店かと物陰から店内を覗き込もうとした俺の肩を、ポンと誰かが叩いた。ゆっくり振り返った先にいた人物。


「…え、新八…?神楽…?お前ら何してんの…?」

「それはこっちのセリフですよ!なんですかその荷物は!」

「銀ちゃんまた私たちに給料払わないで無駄遣いしたアルか!?!」

「…え?…え?」


「よーし、神楽、新八!ご苦労!」

「え!?」


振り返った先にいた神楽と新八。そしてさらに後ろから現れたのは、何やら大きな紙袋を持ったなまえと月詠。俺は状況が掴めずに額に汗を流しながら4人の顔を見比べた。


「なまえに、月詠…何で…?!」

「ついてくんなっつったろーが」

「やはり新八と神楽に頼んでおいて正解じゃった」

「え、何、こいつら俺のことつけてたの?」

「そうですよ。なまえさんと月詠さんが二人で出掛けるのに銀さんがついてくるかもしれないから、それを見張って欲しいって頼まれたんです」

「そしたらやっぱり銀ちゃんなまえとツッキーの後つけたアル!依頼が入ってるなんて大嘘つきネ!」

「…ったく人がせっかく驚かせてやろーと思ったのに。って何お前何持ってんの」


俺の帯に刺さる花と手に持っていた髪飾りが入った紙袋を指差して苦笑いを浮かべるなまえに、俺は恥ずかしさのあまり「何でもねェよ」と口を尖らせるも、なまえはニヤリと口角を上げて、その花と髪飾りをひったくった。


「何、銀時くん。これ私にくれるの?」

「だってすんげェ似合ってたんだもん…」

「銀ちゃんそれ誰の金だと思ってるアルか!?何人の給料彼女のプレゼントに使ってるアルか!?」

「銀さん本当最低ですよ」

「呆れて何も言えなんし」

「わざわざつけてこなくたって、元々お前んとこ行くつもりだったのにさ」

「…え?」


なまえは呆れたように肩を竦めて、持っていた紙袋の中から白い箱を取り出した。それを開ければ中に入っていたのはいろんな種類の……ケーキ!!!!


「え…ケーキ!?何で!?」

「新しい洋菓子屋が出来たと聞いてな。なまえがぬしを喜ばせようと、内緒で買いに行く予定だったんじゃ」

「それなのにお前ついてくるとかいうし。信用できねーから新八と神楽に頼んだんだよ。案の定つけてきやがって、バカ男」

「……なまえ」


なまえが、俺のためにケーキを買うなんて。全くそういうことをしてくれなさそーなヤツなのに。わざわざこんなところまで足を運んでくれたなんて。…嬉しい。何なの、そんなに俺のこと…!俺は嬉しさに眉が思い切り下がってしまう。思わずなまえちゃん!と叫び抱きつこうとしたものの、なまえはひょいっとその箱を俺から遠ざけた。


「だが言うことも聞かずにつけてきた挙句、人の金で無駄遣いしたお前にはケーキはやらん!!!」

「えェェェェ!?!?」

「そうじゃな、これは新八と神楽にやるとしよう」

「キャッホゥ!」

「いいんですか?美味しそうですね!」

「えェェェェェェェェ!?!」

「さ、新八、神楽に月詠。うち帰ってゆっくり食べよー」


そうして4人は俺を置いてけぼりにしたまま歩き出す。結局心配していたナンパなどもないどころか、俺はただ踊らされ散財した挙句、ケーキをも食べることができないなんて。…俺、マジ何しにきたんだ…。


「銀時」


ふと足を止めてこちらを振り返るなまえはいつの間にか先ほどの髪飾りを頭につけて、眉を上げて困ったように微笑んでいる。半べそをかく俺にはっと短く笑って手を差し伸べた。


「ほら、…早く帰るよ」


嗚呼、やっぱり髪飾り買ってよかった。すっげェ似合ってる。すっげェ可愛い。何だか今日は一日弄ばれた気分だけど、全然悪い気はしねェ。ケーキを食べれなくても、神楽たちにどやされても、もういいや。この笑顔が見られるなら。

ずっと、こうしてお前が笑っていてくれるなら。


「なまえちゃ……」

「テメー!こっちくるんじゃねェェェェ!これは私のケーキアルぅぅぅう!!!」


伸ばした手はなまえに触れることなく神楽の飛び蹴りによってあらぬ方向へとひん曲がった。


「ギャァァァァア!!!」



初めてのおつかいのアイツ
(まぁ銀時が悪いわ)
(ちゃんと給料払ってやりなんし)
(ごめ、神楽!悪かっ…ギャァァァ!)



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千鶴様!お待たせして申し訳ございません。
今回はリクエストありがとうございました!

時系列としてはバレンタイン〜愛染香篇の間くらいのイメージです!
銀時は基本的に心配性なイメージですよね♪ヒロインもあんな感じですけど銀時大好きなのが伝わるようなお話を執筆させていただきました。

現在本編があのような雰囲気なのでグダグダ感満載になってしまって申し訳ございません(>_<)
もしかしたら加筆修正するかもしれません。ごめんなさい。

とても嬉しいメッセージを頂けて感無量でした。
また機会があれば是非よろしくお願いいたします!

5/19 reina.



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