Dolce | ナノ


▼ もしもシリーズvol.1 / もしも彼女と結婚したら / 坂田銀八 by3Zシリーズ / 彩様request



「妄想が現実になる装置ィ?」


放課後、理科実験室に呼び出された俺は源外のじーさん向けて訝しげな表情を向けた。待ってましたといった顔で返ってきた満面の笑みに、俺は更に眉の皺を深めた。


「そうじゃ。名付けて、もしも・しもしも転送機!ついさっきできたばかりなんだがな」

「何そのクソみてーな名前。胡散臭さしかねェよ」

「まぁそう言うな。銀の字、お前さん最近彼女が出来たらしいじゃねェか。どうだ、こいつで一丁妄想の世界に飛んでみねェか」


怪しさ満載の仮設トイレのような形をしたこの「もしも・しもしも転送機」とやら。ドアを開ければ椅子につけられたヘルメットのような装置。これに座り、頭の中で自身が体験したい妄想を思い浮かべて「もしも・しもしも」と唱えると、30分間その妄想の世界へと飛べる優れもの…だそうだ。


「本当に妄想の世界なんていけるワケェ?本当だったらAVなんかいらねェ世の中になっちまうじゃねーか」

「お前さんはそんなことしか考えてねェのか、呆れるよ。さ、どうだ、第一被験者になってくれねェか?」

「被験者って、俺は実験台か!?…ってうわ!」


有無も言わさずその装置に押し込まれた俺は、窓の外から笑顔で親指を立てるじーさんに、すかさず中指を立てた。妄想の世界に行けるなんてそんなSFアニメみたいな展開あるわけねェだろ、なんて思いながら仕方なくその椅子に座り込みヘルメットのような装置を頭に被ってみた。…まぁ、別に信じちゃいねェけど?本当に行けるなら試さねェ理由はねーし。


「……行きたい妄想の世界か」


少し顎をさすりながら唸り、頭を巡らせてみるも、特に浮かばない。なまえとは付き合ってるし、ヤることヤってるし、意外とあー見えて色んなプレイやらせてくれてるし。って結局俺も下ネタかよ!なんて一人ツッコミをしながら浮かんだある一つの妄想。……あ、ちょっと見てみたいかも。


「…もしも・しもしも………」



一つの妄想を思い浮かべ、その呪文のような言葉を呟いた瞬間から俺の意識はプツリと途切れてしまった。








・・・・・・・・



「……!…!」


何か、誰かの声が、聞こえる…気がする。


「…だよ…!ぎ……!」


聞き覚えのある声がする。頭の中が徐々にはっきりしてきて、その声のする方へ耳を傾ける。



「…銀ちゃん、いつまで寝てるの?」


俺を咎める声が鮮明に聞こえて思わずバチっと目を開いた。その視界いっぱいに、見知らぬ女の顔が映し出されている。


「…え?」

「え、じゃないでしょ。寝ぼけてるの?」

「…え、…だ、誰?」

「誰、って…あ、そう。結婚したら嫁の顔忘れちゃうんだ。ふーん」


…結婚!?俺が?え?ちょっと待って、アレ?確か…。あ!そうだ!源外のじーさんの新発明のカラクリによって、俺は妄想の世界に来ているんだった。…ということは、この女、まさか…。


「…なまえ?」

「そうでしょ、他に誰がいるの?銀ちゃんにはそんなに奥さんがいるんですか?」


ぷうっと頬を膨らませて起き上がった俺を睨みつけるその女。見慣れた金髪はどこへやら、綺麗に束ねたポニーテールの髪の毛はミルクチョコくらいの色で。あどけなさが残っていたはずの彼女は、随分と綺麗な女に成長したようだ。化粧もナチュラルにしたのか、俺の知ってるクールな顔つきのなまえではなく、どちらかというとすっぴんに近いその顔。俺はまじまじとその顔を見つめていた。


「…何?どうしたの、本当に寝ぼけてる?」

「あ、いや…綺麗になったなァって…」

「…そんなこと言っても何も出ませんよ。さ、銀ちゃん早く起きて。ご飯できてるから」

「…銀ちゃん?あれお前、先生、じゃねーの?」

「銀ちゃんが先生って呼ぶなって言ったんじゃん!AVみたいでエロいからやめろって。…ねぇ、本当にどうしたの?頭でも打った?」

「…あ、いや…」


そうか。この世界では俺となまえは結婚している設定なんだ。この妄想花嫁のなまえは、俺がヘンテコな装置でここにいることを知らない。怪しむのも当然だ。このままではせっかくの新婚生活の妄想が無駄になっちまう。


「わりー、ちょっと寝ぼけてたわ。飯食うか」


にっと微笑むと、安心したように口元を緩ませるなまえに変なときめきを覚えてしまった。知ってるようで知らないなまえ。起き上がり部屋を出てくなまえを追いながら、寝室に飾られた二人の写真に手を伸ばした。結婚式の写真に、ハネムーンに行ったと思わしき異国でのツーショット。たくさんの写真が綺麗に飾り付けられていて、思わず頬が緩んでしまう。結婚式の写真には大人になった神楽や沖田、新八など3Zのメンバーも一緒に写っている。ああ、こいつらともまだ繋がりあるんだなぁ、なんて思っていると「銀ちゃーん?」となまえの声が聞こえて来たので、急いでリビングへと向かった。



「あーうまい、やっぱお前が作る和食は世界で一番うまい」

「ホント?今日は少し早起きしちゃったから、ちょっと作りすぎちゃったんだけど」


食卓に並べられた朝ごはん。18歳の今と変わらずなまえの料理は和食中心のようで安心した。味も変わらないし、それどころか上達している気すらする。ふとなまえに視線を送ると、嬉しそうに俺を見ながらご飯を頬張っている。

それにしても、本当にいい女になった。18歳のアイツも十分いい女に違いはないが、歳を重ねてもここまで綺麗でいられるなんて、そうそうあることじゃねェ。太ったり肌がたるんだりしてくるもんだというのに、こいつは何にも変わらないどころかバージョンアップしている。心なしか身長も伸びた気がするし、足とかなんかもうスベスベだし、本当に年取ってるんですか?あんた魔女ですか?って聞きたくなる。だけどその表情は俺の知るあどけない彼女のそれではない。余裕のある大人の笑顔。これが俺のもんだなんて、信じられねェ。


「どうしたの、ボーッとして。早く食べないと遅刻するよ?」

「…遅刻?」

「今日から新学期でしょ?遅刻するとまた校長先生に怒られるよ」

「……」


俺まだ銀魂高校で働いてるの?とかまだハタ皇子が校長やってるの?とか聞きたいことはたくさんあった。だがふと源外のじーさんの言葉を思い出した。
『この世界には30分間しかいられない』
どうせこの世界は、現実じゃない。それなら、もう少しだけこの未来の花嫁と一緒に過ごしたい。


「なまえ、こっちきて」

「…?」

「早く」


俺の元へなまえを呼び寄せると、椅子を立ち不思議そうな顔で俺の傍へと歩み寄ってきた。そんな彼女につられて立ち上がって、なまえに向き直って真剣な表情を向けた。


「なまえ、俺と結婚できて、幸せ?」

「…え、何、急に…」

「なァ、幸せ?」


戸惑うような表情を浮かべたかと思えば、すぐに顔を赤らめて視線を泳がせる彼女は、まさしく俺の知っているなまえの表情。恥ずかしいときとか困ったときはすぐに顔を赤くして、そのあとに目を伏せる。ああ、何にも変わっていない。俺が好きになったときから、彼女は何も。


「…うん、幸せ」


ますます顔を赤く染めて少しだけ笑ってみせるなまえに、俺は心底温かい気持ちになった。それと同時に俺は何だか無性に今のなまえに会いたくなってしまった。こんな風に将来微笑んでくれるのなら絶対に今の彼女を大切にして、絶対にもう一度この笑顔を、本物のなまえの笑顔を見たいと思ってしまった。


「うん、だって言ったでしょ?銀ちゃんがハゲても太っても、ずっと大好きだって。…だから、」

「…なまえ」

「だから、もうリー●21行かなくっても良いんだよ?」



「………えっ?」



リー●21?え?それってあのリー●21?…ちょっと待てよ。目の前にいるのは大人のいい女になったなまえ。よく考えてみれば俺たちは結構な年の差がある。今のなまえが25.6歳だとすれば、…俺は…。

俺は咄嗟に洗面所に向かって走った。
ハゲても、好き?それってまさか、まさか……!
洗面所の鏡に映ったのは見慣れた天然パーマ。やけに量の少ない天然パーマ。さわさわと頭頂部を触ってみると、触れるのは髪の毛ではなく、脂っぽい頭皮。顔も俺の知ってる銀さんじゃない。なんかあちこちしわっぽいし、ちょっとたるんでるし、ってうわ!腹めっちゃ出てんじゃねーか!!!なまえちゃんが何も変わってないと思いきや、俺がめっちゃ変わってるゥゥゥ!!!


「どうしたの?銀ちゃん!私気にしてないよ!銀ちゃんが甘いもの食べすぎで糖尿病になったことも、太って昔のスーツ着れなくなったことも、髪の毛の量が1/3くらいに減少してきてることも、何にも気にしてないよ!」

「めっちゃ気にしてんじゃねーか!!!」

「それでも、大好きだよ!昔からそれだけは何も変わってないよ…」


こんな見すぼらしい見た目の俺に、そんな言葉をかけてくれるなまえが愛おしくて、愛おしくて。そして同時に申し訳なくて。なまえはいつまでもこんなにも綺麗でいい女でいてくれているのに。俺はそれにかまけて、不摂生な生活をしていたばかりに。…俺は最低な夫だ。


「…なまえ、悪かった」

「え?」

「俺、お前のこと絶対に幸せにするって、あの時決めたんだ。それなのにこんな見すぼらしい見た目の夫に尽くさせる運命を強いらせちまって、悪かった」

「銀ちゃん…」

「だから、俺変わるから。いつまでもかっこいい銀八先生でいるからな。…だから」


いくつになってもずっと俺の横で笑っててくれよな。




・・・・・・・





「……だァァァ!!!!」

「お、銀の字、どうじゃった?妄想の世界には…」

「どうしたもこうしたもあるかァァァ!途中までいい感じで楽しんでたのに、何で忠実に俺まで年食ってんだよ!妄想の世界なんだからいい気持ちで夢見させろや、クソジジイ!」

「やっぱりそうだったか。なぜかこの装置、妄想の世界に行ったはいいものの、その行った被験者の見た目がハゲ頭のデブになっちまうんだよ」

「それ先言えやァァァ!!!」



とんだガラクタポンコツ装置とポンコツジジイに弄ばれた俺だったが、それからというもの俺の中で一つ変わったことがある。



「…先生?本当に食べないの?」

「ああ、いらねェ。俺はお前に悲しい思いはさせたくねーんだ」

「…?なにそれ、意味わかんない」


甘いものを制限するようになりました。




もしも彼女と結婚したら
(なまえは俺がハゲても太っても好きでいてくれんの?)
(いや、ちょっと無理かな)
(………えっ!?!)






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彩様!今回はリクエストありがとうございました!中々結婚後のストーリーというのが想像できず…何だか源外さんに手助けしてもらってギャグ落ちになってしまいました(´;ω;`)執筆が楽しくてものの数時間で書き上げてしまったのですが、お気に入ってくだされば嬉しいです。
もしもストーリーとっても楽しかったので、これからちょこちょこシリーズとして執筆できたらなと思いました!
リクエスト本当にありがとうございました!

3/4 reina.




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