Dolce | ナノ


▼ ネオンとサンタと流れ星と俺と side坂田銀時 / 朋絵様request



無性にイライラする。
すれ違う男女。煌びやかな町。バカでかいツリーを彩る装飾。赤い帽子のヒゲヅラのジーさんの置物に、毎年使い回された耳障りな音楽。俺はこのまるで恋人たちのために催されたかのようなこのくだらないイベントが、大嫌いだ。


「なーにがクリスマスだよ、ったく。ふざけやがって」


なんて独りごちるのは、何を隠そう俺が独り身だから。新八や神楽は志村家で妙と鍋をするとか何とか言っていたような。行けたら行く、なんて予定もないくせに言い放ったのは、強がりはもちろんだが、少しだけ期待してしまっていたから。


「あ、銀さん!メリークリスマス!」


大江戸マートに立ち寄った俺を笑顔で迎えたのは、サンタクロースの帽子を被り、レジに立つ一人の女。こんな日に仕事に出てるということは、言わずもがな、彼女もこの聖夜に予定がない一人なのだろう。そう思いたい。


「なまえちゃん、年頃の女の子がクリスマスなのにこんなとこいていーの?寂しくねーの」

「ひどーい!今日はオーナーがどうしても家族で過ごしたいからって頼まれたんです!だから仕方なく引き受けたんですぅ。銀さんこそ、一人でコンビニなんて寂しくないんですか?ジャンプ出るのは明日ですよ!」

「うっせーバーカ。大人の男にはこんなイベント関係ねーの。こんなんではしゃいでんのはガキだけなのォ」


クスクスと可笑しそうに笑うなまえの笑顔に、つられたように俺も笑みを作った。何度となくジャンプを買いにこのコンビニに足を運んでいた俺が、毎週月曜に出勤している彼女と親しくなるのは時間の問題だった。大した発展もなく月日は過ぎていたのだが、俺は毎週見る彼女の笑顔に癒されていることに気付いてしまった。意識しだしてからは、これが恋だと気付くのにそう時間はかからなかった。わざわざ彼女が上がる時間を見計らって訪れては、たまに家まで送り届けたり、廃棄の肉まんを河川敷で食べたりと、何とも言えない距離のまま俺の気持ちは膨れて行く一方だ。


「銀さん、今日のご予定は?まさかクリぼっち?」

「さァな。ねェといえばねェし、…いや、ねェな」

「アハハ!やっぱり寂しいクリスマスなんだ」

「なまえちゃんこそ予定ないんじゃねーの?」

「…あー、はい。ない、かな?うん、ないです」

「……」


どう考えても、嘘をついている女のそれだ。斜め右上を見上げた視線が宙を舞って、パチパチと瞬きが増えた。わかってたさ。こんだけ可愛い子に男がいねーなんて、そんなうまい話あるワケねーよな。ただ、ちょっとだけ期待しちまったんだよ。その笑顔が俺にだけ向けられているものだといいな、なんてバカな期待をしてしまっていたんだ。


「もうそろそろ上がりだろ?ついでに送ってくよ」

「ついでに、って何のついでですかー?仕方ないから、可哀想な銀さんに送ってもらおうかな」


ちらりと時計を見上げれば、あと10分で彼女が上がる時間。表で待ってると伝え外に出た俺は凍えそうな夜空を見上げた。冬の空っつーのは綺麗だな。澄んだ空に散りばめられたような、小さな煌めき。わざわざ人工的なイルミネーションなんて施さなくたって、こんだけ綺麗なもんが夜空いっぱいに広がってるっつーのに、人間ってのはバカな生き物だ。

ふと、視界に一瞬見えた、流れ星。俺は思わず心の中で願い事をしてしまった。そんな柄じゃないってのに、こんな日だからか浮かれているのだろうか。でも、願い事をするだけタダだ。叶うなんて思っちゃいない。ただ、サンタとやらが本当にいるんなら…。


「銀さん!お待たせしました」

「…おー。行くか」


暖かそうなマフラーに顔を埋めたなまえは、白い息を吐きながら、俺の隣について歩いた。他愛のない話をしながら彼女の家までの道のりをゆっくりと歩く。いつもと変わらない会話に、いつもと変わらない距離感。それなのに、何故こんなにも胸が苦しいのだろうか。そんなに今日という日は特別な日なんだろうか。と、ふと目に付いた彼女が持つ少し大きめの白い箱。散々話していたのに今になって気付くなんて、やはり俺は心ここに在らずだったのか。


「ん、何持ってんの、それ」

「クリスマスケーキです。従業員は半額で買えるんですよ」

「マジ?ケーキ半額で買えんの?俺もコンビニで働こーかな、クリスマス限定で」

「ケーキへの下心しかないじゃないですか」


アハハ、と笑うなまえは笑み浮かべたまますぐに視線を地に落として、口を開いたり閉じたりを繰り返した。その様子に俺も何か言わねばと、何故かそんな気持ちになって、同じように口を開いたり閉じたりしてしまう。今日ならもしかしたら、そんな気持ちが浮かんでは消える。


「あ…あの、銀さん」

「お、…おう、どした」


足を止めたなまえにつられて、俺も歩みを止める。俯いたままの彼女に、俺は不安げになまえちゃん?と声をかけると、彼女は手に持ったケーキの入った箱を俺に差し出してきた。ばっと俺を見上げた顔を真っ赤に染めながら。


「これっ、銀さんに買ったんです!…前に、甘いもの好きって言ってたから、だから…」


俺を見上げたかと思えば、すぐに視線を泳がせながら徐々に小さくなる声に、俺の心は握り潰された気がした。真っ赤なその顔に、小さく震える手に、俺はどうかしてしまったのかもしれない。


「俺、なまえちゃんのこと好きなんだけど」


気が付けば、そんなことを口走ってしまっていた。少しの沈黙の後、なまえは「えっ!?」と声を上げた。目を丸くしながら俺を見つめるなまえの様子に、俺は内心後悔をした。完全に空気に飲まれて先走っちまった。絶対引いてるよ、何言ってんのコイツって思ってるよ!俺はおもむろに後頭部を掻き毟りながら、「あ、いや、その」と情けなく弁解をしようとしたところで、なまえの小さな声が聞こえてきた。


「…うそ、銀さんが、私のこと好き?…本当?本当ですか?!」

「…ホント」


顔を真っ赤にしながら瞳を潤ませるなまえに俺は思わずこくこくと頷いてしまった。予想外の反応に、俺の方が少し驚いてしまった。


「私もずっと、好きだったんです…」

「……えっ!?マジ!?」


一拍置いてぎょっと目を見開いた俺に、照れたように笑ったなまえは勢いよく抱きついてきた。咄嗟に受け止めるとなまえは嬉しそうに俺の耳元で囁いたのだ。


「……マジです」


完全に俺の心は撃ち抜かれた。つい数時間前までは、クソくらえなんて思っていた今日という日。くだらないイベントなんか、一生なくなってしまえばいいと思っていた。それでも相手がいるというだけで、こんなにも素晴らしい日に感じてしまうのだから、俺もつくづく単純な男なのかもしれない。先ほどまで悪態をついていたサンタにすら、心の中で感謝している始末だ。

…悪くねェかもな、クリスマス。



ネオンとサンタと流れ星と俺と
「サンタさん、俺となまえの恋を成就させてください」





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朋絵様!今回はリクエストありがとうございました(^−^) back numberのクリスマスソングをテーマにしたお話ということだったのですが、銀ちゃんの片思いは成就してしまいました…。ご期待に添えたかどうか、心配です(;_;)
是非また機会があればリクエストお願いします!
楽しく執筆させていただきました。ありがとうございました!

2/28 reina.


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