Dolce | ナノ


▼ 男の恋愛は個別保存 / 高校生銀八 / 碧様request



今思えば、俺は当時から髪の長い女が好きだったんだと思う。



「ねぇ、坂田くん。一緒に入ってもいい?」


ビターチョコみたいな色の長い髪を靡かせて、昇降口で立ちつくすなまえは、ビニール傘を開いた俺を見計らったかのようにあどけなく笑って見せた。ぶっきらぼうに顎で入るように促すと、嬉しそうに笑って俺の腕に飛びついてきた。


「今日雨予報じゃなかったのに。何で傘持ってきてたの?まさか、エスパー?エスパー伊東?」

「テキトーに傘立てにあったの持ってきた。つーかエスパー伊東じゃ、全然意味違ェだろ、バカ」


この前まで湿っぽい夏だったというのに、9月も終わりにさしかかって、重ねて雨が降るとなると少し肌寒さを感じる。学ラン着てきて正解だった。ふと横に視線を送ると、こんな天候だというのに、どこか嬉しそうな彼女を見ると、意外と雨も悪くねェかもな、なんて思っちまう。何の因果か知らねェが、三年間同じクラス、三年間同じ委員会。こういう男女の関係になるのは時間の問題だった。知的に見えて、どこか抜けてるなまえはいつの間にか俺に懐いてて、俺もそんな彼女が気になっていて。数ヶ月前に念願叶って恋人同士になったわけだ。


「ねぇ、坂田くん」

「あのさ、何でいつまで経っても坂田くん呼びなワケ?よそよそしくね?」

「だって坂田くんだって、私のことお前とか言うくせに!逆に何て呼んでほしいの?…ぱっつぁんとか?」

「…いや、何かそれ生理的に受け付けないからやめてくんない」

「銀八くんとか?えー、何かむず痒いよー!」

「…あーもう何だっていいよ、ぱっつぁんはやめろよ」

「何にしようかなぁー」


唇を尖らせてブツブツと俺のあだ名を考える彼女が何だかとてつもなく愛おしい。空を覆う雲のせいで、辺りは徐々に暗闇に包まれている。街灯の明かりが濡れるアスファルトに反射して、そのアスファルトを捉える彼女の瞳が、どこかキラキラしているように見えて。校内で見る彼女より、どこか大人っぽさすら感じる。まだ触れたことのない、尖らせたその唇を見ていると、何だか言い知れぬ感情に襲われた。そんなことを思っていると、いつも彼女と別れる丁字路に着いてしまった。どちらからともなく、段々スローペースになるその足取りが、どうにももどかしい。


「じゃ、…また明日ね」

「傘持ってけよ。風邪引くだろーが」

「いいよ、私すぐだから…」

「いいから持ってけよ」


そうして傘の柄をなまえに差し出すと、彼女は何を思ったのか、柄を握る俺の手を包み込むように握ってきた。真っ赤な顔をして、どこか恥ずかしそうな表情で。


「ありがと。……銀ちゃん」


そう小さく呟いた彼女は、言い終わるなり、既に赤い顔を更に染めた。どこまでも、愛おしい女。俺は思わず空いた手で彼女の腕を引いて、その小さな唇を奪った。大した経験もない俺ができる、最大限の愛情表現。だった数秒合わせただけの唇から、どんどん彼女への気持ちが溢れていく気がした。静かに唇を離すと、なまえは驚いたような、それでもどこか嬉しそうな顔で俺を見上げた。


「…じゃあな、なまえ。また明日」


俺の言葉に、彼女は恥ずかしそうに柔らかく笑った。






・・・・・・・



「……ねぇ、聞いてる?」


ハッと我に返った俺は、俺を呼ぶ声の方へ顔を向けた。


「先生、どうしたの?ぼーっとしちゃって。雨だから怒ってるの?」


一つの傘に並んだ、金色に輝く長い髪を靡かせて、怪訝そうに俺を見つめる少女。失礼ながらその少女にいつだかの恋人を重ねてしまっていたようだ。曖昧に頷いてみせると、その少女は顰めた眉に力が入る。


「…他の女の子のこと考えてたでしょ?さっきすれ違った人綺麗だったもんね」

「バッカ、ちげーよ。何か不意に昔のこと思い出しちまって、ぼんやりしてたわ」


昔も昔、大昔。しかもその彼女、その一ヶ月後に親の転勤だか何だかで、転校することになっちまった。感動的な別れを迎えることもなく、案外あっさり別れちまった、面白くも何ともないただの昔話。
俺の横に並んで歩く少女に雨が当たらないようにと、傘を傾けながら笑いかけると、その少女も渋々納得したように、唇を尖らせた。


「ふぅーん」


不貞腐れたような少女が、これまた愛おしくって。俺は空いた手でその少女の頭を引き寄せて、いつかの日のように、唇を重ねた。




男の恋愛は個別保存
(…先生?)
(お前は、いなくなんなよな)
(…"お前は"?)
(えっ、あっ、ちが!言葉のあや!深い意味はねェよ!…って置いてかないでェェェ!)







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碧様!今回はリクエストありがとうございました。
甘め希望とのことだったので、少し甘酸っぱさを目指して執筆させていただきました。お気に召していただけたら嬉しいです!
私も高校生銀八と相合傘したかった…!そんなことができていれば、私ももう少し甘い青春を過ごせたかもしれません…m(_ _)m笑
話が逸れてごめんなさい!これからもよろしくお願いします!

1.21 reina



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