▼ 幾度の夜も / 高杉晋助 ☆
窓の外は真っ暗闇に包まれた午前1時…30秒前。スズムシの心地よい羽音だけが聞こえて来るような、そんな時間。何度も何度も鏡の前に立ち身だしなみを整える私は、さながら恋をする少女だ。なぜこんな時間に自室でこんなデート前のような気分で時計を見つめているのかといえば。
「オイ、来たぞ」
玄関先から聞こえる低い声に、私は綻ぶ顔も隠さずにすぐに玄関へと飛びついた。戸を開いた先にいた無表情の男を見上げて、私はもう一度態とらしく笑顔を向けた。
「いっつも時間丁度だね。晋助ってA型でしょ?」
絶対そうじゃなければいけないのかと聞きたくなるほど毎度毎度煙管を片手に月に一度私の家にやってくるこの男、名は高杉晋助。私の笑顔につられることも言葉を返すこともなく、晋助は黙って部屋へと足を踏み入れた。
妖艶な雰囲気を纏う晋助との出会いはどこだっただろうか。そんなこと忘れてしまうほど出会ってから月日が経っているわけではないから、きっと当時は酔っ払ってたんだろうと思う。過激派攘夷志士らしい晋助は決まって月に一度、ふらりと私の元に現れて、気のままに私を抱き、また特に進展もないままふらりと闇に消えていく。出会った時から口数は少なく、感情も表に出さない晋助に翻弄されて私はまんまとその毒牙にかかってしまった。さもそんなつもりがないように振る舞われるもんだから、余計にタチが悪い。別にそれが嫌なわけじゃないんだけど。私も今特に恋人とかいないしさ?咎められるようなこと何もないしさ?…だけどさ。
「何さっきからブツブツ喋ってんだよ」
「聞こえてた?晋助のスケコマシーって言ってたの」
「フン、そうかよ」
ふっと煙を口から吐いたと思えば、カタンと音を立てて煙管を机に放った晋助は、これまた特に会話もないままに私を布団に押し倒した。そんな晋助を恨めしそうに見上げれば、私の視線に気付いた晋助は眉を上げて嘲笑した。
「随分なツラするようになったじゃねェか」
「久しぶりの挨拶もなしに抱こうなんて晋助の人でなしー」
「…言葉なんかいるかよ。それにお前がそんなもん求めてるとは思えねェ」
唇が触れるか触れないかのギリギリのところで私を見下ろす晋助の深い瞳が私を射抜いて離さない。負けずにその瞳を睨み返していたのに、一瞬緩んだ目元を捉えた時私の心臓は高く跳び上がった。嗚呼、何でこんな顔するんだろう。私のことなんか何とも思ってないくせに。都合のいい捌け口くらいにしか思ってないくせに。何でこんなに愛おしそうに私を見つめてくるんだろう。「晋助、好き」と言いかけた口元は声を出すことが叶わずに、晋助の唇に塞がれた。
「…ん、」
晋助の濡れた舌が私の舌に触れただけで、私の身体はピクリと恥ずかしげもなく揺れてしまう。顎を掴まれて自由の聞かない私は、晋助の赴くままに口内を犯されている。クールに見えてこういう時は意外と積極的なんだからやっぱり男なんだろうな、なんて頭の隅っこで冷静な私が独りごちた気がした。と、晋助は不意に唇から離れて不機嫌そうに私を見つめた。
「何考えてた」
「…え?」
「お前今他のこと考えてただろ」
「…いや、別に…」
「今は俺のことだけ感じてろ」
今度は荒々しく私の唇を奪う晋助に、私は心をかき乱された気分だ。何でそんなこと言うんだよ。今は、なんて。そんなこと言わないでよ。私はいつだって晋助のことを感じていたいのに。晋助のことだけ考えていたいのに。それを許してくれないのは貴方の方じゃない。寝間着の帯をいとも簡単に解いた晋助の骨ばった細身の指が、私の膨らみを器用に撫で回す。その度に合わせた唇から湿った吐息が漏れて、そしてそれを飲み込むように負けじと晋助の唇を啄ばんだ。
「…ん、ぁ…」
せっかちにも主張を始める頂をくいくいと親指で転がすように弄ぶ。ようやく解放された口元から、漏れる声を抑えることができない。首筋に舌を這わせながら、膨らみにキスをする晋助の髪をくしゃっと握ればなぜか嬉しそうに晋助は短く笑った。
「お前、いつも髪を握るよな」
「…ん、あぁ、…そぉ…?」
ゆるっと口角を上げたまま舌先でもう片方の頂きを突く動作がもどかしくて、私はぶるっと体を震わせて晋助の愛撫に身を委ねた。甘く頂を噛まれ、時にはきゅっと強く摘まれて施される全てを受け入れた。下腹部に伸びた指先が下着の中へと滑り込めば、また晋助は呆れたように笑う。
「相変わらず素直な身体だな、なまえ」
「ふ、あっ、ぁあっ…!」
甘く低い声とともに細い指が茂みをかき分け濡れそぼったそこに沈められれば、電撃が走ったような快感が私を襲った。中を撫でるようにゆっくりと折り曲げを繰り返すその指から与えられる快感が、胸を締め付けた。下着を剥ぎ取りながら私の足を広げて、更に奥へと指を埋めた。その度に聞こえる羞恥の音が私の中の熱を滾らせる。
「音、聞こえるか。すげェことになってやがる」
「い、あ…ぁあっ!言わないで…!い、あっ…」
いやでも聞こえるぐちゃぐちゃとした水音に思わず耳を塞ぎたくなる。そんなことを構うことなく晋助は空いたもう片手を用いて外の蕾をぐりぐりと押し撫でて、私はいよいよピンと足に力が入った。先ほどよりいくらか激しくなるその動きに耐えられるはずもなく。
「あ、っ…だめ、っ…晋助、だめぇ…あぁあっ!」
「これのどこがダメなんだよ。どうせもうイっちまうんだろうが」
「あ、…あっ!やぁあっ…も、ダメ……っ」
与えられる快感に完全に身を委ねる直前、晋助は執拗に動かしていた指をピタリと止めて、それどころか中から指を引き抜いた。果てることができずに震えながら晋助を見上げれば、濡れた指を艶めかしく舐めとりながら、羽織っていた女物の着物を脱ぎ捨てて妖艶に微笑んだ。
「誰が一人でイっていいっつったよ。そんなこと許した覚えはねェよ」
「しん…っ、ぁあっ…!」
ぐっと腰を掴まれたかと思えば、勢いよく晋助のが私を貫いた。思わず布団を握り締めれば、その腕を布団に押さえつけながら私に覆い被さり腰を打ち付け始めた。
「ぁあっ…!あっ、いぁあっ…、っ!」
私を見下ろしながら浅く呼吸を繰り返す晋助が、額にキスを落とす。両腕が固定されたまま自由の聞かない私は身体だけではなく、心まで捕らわれてしまったかのように苦しくなって、晋助から与えられる快感に嬌声を上げるしか出来ずに涙を流した。
「…っ、オイ、なまえ。…俺を見ろ」
「ふ、ぁ、あぁあっ…晋助、…あ、あぁっ!」
「…っ、なまえ…」
晋助はズルイよ。何でこういう時ばっかりそんな目で私を見つめて、私の名前を呼ぶの。月に一度しかこないくせに、普段は連絡もよこさないくせに、会えたと思えば抱いて帰るだけだし、恋人でも何でもないありふれた男女の関係なのに。…どうして。どうして私はこんなに晋助のことが好きなんだろう。
「好き…っ、ああぁっ、晋助、好き…あっ!ごめ、なさ…っ、ふ、ぁあっ」
「…何で、謝んだよ…っ」
「も、だめ、…イっちゃ、あぁ…っ!もぉだめぇ……っ」
首を振りかぶりながら涙を流す私に、晋助は一瞬切なげに眉を顰めたような気がした。すぐに激しくなる律動にそんなことを考える間も無く、私はどんどん絶頂へと上り詰めた。荒くなる晋助の呼吸と、滴る汗に、私はぎゅっと胸が締め付けられる。
「…イクぞ…っ」
「ぃあ、あっ……あぁぁあーー…ッッ!!」
最奥に突き立てて勢いよく引き抜かれたそこから放出された白濁色の欲の液を見つめながら互いに大きく呼吸を繰り返した。目も開けるのも億劫なほど、体力を奪われるこの行為も、終わったしまえば虚しいだけだ。どうせすぐに着流しを羽織って帰っていくのだろう。…そう思っていたのに。
「…は、あ…っ」
ぼすっと音を立てて私の隣にうつ伏せる晋助に、私は目を見開いたまま晋助から目をそらすことが出来なかった。今までこんなことなかったのに。どうしちゃったの。なんて心の声が聞こえたのか、晋助はうつ伏せていた顔をずらして私をちらりと見据えた。
「……来週、また来る」
「………へ?!」
「ダメなのかよ」
「いや、ダメじゃないよ。…でも、どうしたの?溜まってるの?」
「……チッ」
えっ、今舌打ちした?何か心なしか私のこと睨んでない?何で?何か怒ってる?
「色気のねェ女だな。その上鈍感で可愛くねェ」
「…何なの、ひどくない?…ていうか鈍感って何が?」
「…さァな」
首を傾げる私に晋助はまた呆れたようにふっと笑って私の頭に手を伸ばしてきた。あまりに普段の晋助からは想像も出来ない発言と行動に私は嬉しさよりも心配が勝ってしまっていたのは事実だ。それ故、小さく聞こえた言葉を理解するのに、時間がかかってしまった。そしてその言葉を理解するなり、私は息が止まり、そして見る見る顔が熱くなっていくのがわかった。
…幾度の夜を一人寂しく過ごしてきたことだろう。幾度の夜を見えぬ姿に思いを馳せて泣いてきたことだろう。叶うとも思っていなかったし、叶わせる努力すらしてはこなかったこの関係が、やっと進展した気がした。
『…俺もお前と同じ気持ちなんだよ』
幾度の夜も
(晋助、私のこと好きだったの?)
(……本当に可愛くねェ)
-end-
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翠様!お待たせいたしました\(^o^)/
今回はリクエストありがとうございました!
初高杉夢でしたが、ご期待に添えたかどうかとても不安です(T . T)
高杉のセリフの言い回しが独特で難しかったです(笑)
ふわっふわとした設定で私の粗末な表現力でご満足頂けるか不安ですが、お気に入ってくだされば幸いです♪
貴重な高杉リクありがとうございました♪
ぜひまたお願いいたします!
5/4 reina.
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