▼ 誕生日のアイツ / 服部全蔵 by一華 ☆
今日は8月22日。日が沈み少しだけ人の声の数が増えてきたここは地下都市 吉原桃源郷。前々から鳳仙に断りを入れ非番をもらっていた私は、自室で一人そわそわと落ち着きなく机に向かいながら何度も掛け時計を見上げていた。予定時間過ぎてるってのに、何してんだあのバカは。柄にもなくご馳走やケーキを買ってきたものの、待ち人は一向に出向く気配がない。
「…遅い」
頬杖をつきながらボソッと一言呟いて一つため息をつけばガタンと出窓から音が聞こえてそちらに視線を送れば待ち侘びていた一人の男。目を隠した前髪のせいで表情を見て取れるのはくっと上がった口角だけ。
「よォ、待たせたな」
「本当だよ、せっかく休んだってのに。どこで油売ってたわけ」
「そんなんじゃねェさ、怒るなよ」
ひょいっと出窓から私の元に降り立った全蔵は、へらりと笑って私を抱き寄せた。むっと唇を尖らせてジト目を向ければ嬉しそうに破顔する全蔵に、それ以上文句は言えそうにない。
「今日でいくつになったの」
「さァね」
「ご飯買ってきたよ、食べる?ケーキもあるよ。奮発してワインも買った」
「そりゃ嬉しいね」
「どうする?もう食べ…」
私を抱き寄せたままどこか浮ついたような全蔵の声色に気にもせずその腕から抜けてその顔を見上げれば、全蔵は徐に私の唇を塞いだ。交わった口内から少しだけアルコールの味がする。もう既にどこかで祝われてきたのか、なんて少しだけヘソを曲げてみても優しく啄む唇の動きにそんな気持ちもどこかへ飛んでしまった。
「…先にご飯、食べないの…っ」
「俺ァな、好物は先に食いてェ性分なんだよ」
唇を離して私の首筋に顔を埋めた全蔵は、私の後頭部を抑えながらまるで獣が餌に食らいつくかのように舌を這わせながら時折優しく噛み付かれれば、甘ったるい吐息が鼻を抜ける。
「…ふ、…あ」
「今日は何しても怒んなよ」
不意に低く響く全蔵の言葉に、期待なのかはたまた恐怖なのか自分でもわからない感情で胸がとくんと音を立てた。散々抱き散らかした女の身体がプレゼントだなんてあまりに無欲すぎでは、なんて言葉もこの男の前では意味を持たないのかもしれない。出会ってから嫌という程私の身体を求めてくるこいつにはそんな心配、少しも。
「なァ、なまえ。お前どれが一番好きなんだよ」
「…あ、…あっ!」
気がつけば帯を緩めて胸元から心許ない膨らみを露わにしながら、頂をつんと指で弾く全蔵の笑みに身体がふるっと身動ぎをする。「これか?」親指でその頂を押し撫でられれば、私に跨る全蔵の忍装束をぎゅっと握りしめた。「これはどーだ」人差し指と親指できゅっと頂を強めに摘まれて、高い声を上げながら嫌々と首を振る。それでも不満気な全蔵は「あ、こっちか」と呟いた言葉を閉じ込めるように頂を口に含んで、ちゅうっと音を立ててそれに吸い付いた。
「ん、…ッ!全蔵、…あっ…」
「…違うか、お前さんはこっちだな」
「あっ……!!」
下腹部に伸びた指がするりと下着に滑り込んで、既に湿り気を帯びたそこを一撫でされればぶるっと大きく身体がしなった。
「これが好きなんだよなァ?」
「…んっ、あっ!…やぁッ…」
くちゅりと音を立てながら全蔵の長い指が形状に沿ってしなやかな動きを繰り返し、その度に私の鼻からは高く吐息が抜ける。優しいようで確実に私の弱い蕾を撫でるその指に、私は眉を顰めた。私を攻める全蔵の息が荒くなっているのに気づいて、私の気持ちは更に高ぶり出す。全蔵はずっと音を立てて蜜壷に中指を沈めたかと思えば、すぐに中の敏感な部分を指の腹で押し撫でた。その指が屈折する度に、ぐしゅぐしゅと音を鳴らしながら私を快楽へと導いていく。
「…は、ぁあっ…あ!やだ、…ぁああっ!」
「何だよ、もうイくのか」
「…ん、ぅ、あぁあ…っ!もぉ、だめ…ぜんぞ…っ!」
「こっちに顔向けろよ。イきてェなら俺のこと見ろよ、なまえ」
「…ふ、あぁッ…!やぁ、ダメ、あ…あぁあッ……!!!」
全蔵の指使いに攻め立てられいとも簡単に達した私は大きく呼吸を繰り返しながら、私に覆いかぶさる全蔵を虚ろに見上げた。そんな私の視線に気付きながらも、がさごそと音を立てて忍装束を脱ぎ捨てている。
「…お前の、誕生日なのに…っ」
「ん?」
「…私ばっかり気持ちよくなっちゃ、意味ないだろーが、…」
私の言葉に少しだけ拍子抜けしたような表情を浮かべたかと思えば、すぐに嬉しそうに笑って私の脚を割り開きながら自身の塊を勢いよく突き立てた。
「ひ、…あぁっ…!」
「バカだな、…俺はお前さんの感じてる顔が、何よりも好きだって言ってんだろう」
まだ余韻に浸っている私の身体に硬くそそり立つそれを押入れられれば、もう何も考えられない。奥まで突き刺されたそれが最奥をぐちゅりと刺激する。
「…あっ、…やぁあっ…!」
「もっと崩れた顔見せろよ、…なァ。今夜は寝かすつもりはねェぞ」
「ひあぁッ…!やだぁ、…奥は、だめっ…!」
「ダメじゃねェだろう、こんなに締め付けときながら。本当素直じゃねェな」
両腕を床に押し付けられながら私を見下ろす全蔵が動く度目元を隠した前髪から時折見える青い瞳があまりに綺麗で。快感に溺れながらもその瞳を見逃さないようにと必死に見つめ返した。気付いたその瞳が優しく下がるもんだから、目尻からはらりと涙が溢れて与えられる快感を素直に受け入れる。
「…っ、は…」
「ぃああっ、あ…っ!全蔵、…も、イく、…っ!だめ…、」
「俺も、…っ!」
押し寄せる快感に飲み込まれた私を追うように、全蔵は激しく律動を繰り返しすぐに私の腹部に白濁色の液体をぶち撒けた。大きく呼吸をしながら、私の横に倒れこんだ全蔵の手のひらを握って、その余韻を共有した。
「…あー、仕事終わりからがっつくモンじゃあねェな。腰が重たくて仕方ねェ」
「だから、言っただろーが」
「それでもお前が一番欲しかったんだよ」
「…あ、そう。じゃあこれはいらない?」
頭上のティッシュを引き抜いて腹部の液体を拭ったついでに、またも頭上に手を伸ばし綺麗にラッピングされた小包を全蔵に手渡せば驚いたようにそれを受け取った。
「こりゃ驚いたな。お前さんにもそんなところがあるなんて」
「…失礼な男だな」
「開けてもいい?」
驚きながらも嬉しそうに笑う全蔵につられて、私も笑顔で小さく頷いた。
・・・・・・・・
「オイ、イボ痔忍者!」
「あァ!?何だ、腐れ侍!」
例によってひのやにて団子を摘んでいた俺に絡む男は、ジト目で俺を睨みつけた。ここに来ると嫌でも顔を見ることになるが、それでもこの吉原に足を運んでしまう俺は只のバカ男だろうか。
「飽きもせずわざわざこんなとこきて、ひのやの団子食って、俺となまえの仲良しっぷり見てェの?お前さてはMだろ?」
「うるせー、余計なお世話だ」
「いつも同じ格好してるしよ。飽きねーの、その紺の上着」
けっと悪態をついたその男に、俺はどこか優越感を感じた。そんな感情を抱いても無駄だということはわかっているのに、何故か本当のことを言えなかったのだ。
「…いーんだよ。これは俺のお気に入りなんだから」
誕生日のアイツ
『全蔵には紺が似合うと思ったんだ。やっぱり似合ってるね』
-end-
全蔵さん、遅くなってごめんなさい。
お誕生日おめでとうございました!
prev / next