Ichika -carré- | ナノ


▼ 大切なアイツ 1/3



「お、お前は…」

「銀時!!!」


銀時の木刀によって地雷亜は勢いよくなぎ飛ばされた。私の元にやってきた銀時は、腕の糸を解き私を抱え上げた。


「おせーよ、…バカやろ…」

「バカはテメェだよ。一人で背負い込みやがって。…あと少し遅かったら死んでたんだぞ」


銀時に抱えられたまま、月詠の元へ行き、貼り付けられた糸をクナイで引きちぎった。糸から離れた月詠を受け止めると、月詠は私の胸に顔を埋めた。


「…つく……ッ!!」

「よもや、あれ程の手傷を受けていながら、生きていようとは」


地雷亜のその言葉に合わせたように、私の背中に衝撃が走った。銀時は私の背を見るなり、土埃の中から立ち上がる地雷亜に鬼の形相を向けた。


「テメェ…!!!!」


背に這わすと、腰あたりに深く刺さるクナイに手が触れた。理解した瞬間に、そこから痛みが広がる。腰から腹部へと貫通するクナイに気付いた月詠は、ワナワナと口を震わせた。


「なまえ…地雷亜、おのれェ!!」

「月詠、なまえ連れて端に避けとけ。…俺ァ、このヤローを絶対ェ許さねェ。裏切ったな、テメェの背中を追いかけてた、弟子を。食い物にしたな、こいつらを。そんなやつァ師匠なんぞと名乗る資格はねェんだ」

「…月詠…銀、時…」


膝から崩れ、湧き上がる血を吐き出した私を、月詠は涙を流しながら抱え込んだ。あー痛い。この前の足首怪我した時より痛い。当たり前か。最近怪我ばっかしてるなー。…あー意識が遠のいてく。


「なまえ!目を瞑るな!わっちをみるんじゃ!なまえ!」

「…ごめん、月詠…」

「何も謝ることはありんせん…謝るのはわっちの方じゃ、わっちのせいでぬしを傷つけてしまった。わっちのせいでぬしの、身体は…。なぜそこまでして、わっちを…」

「…泣くなよ、バカ。……月詠。お前は本当に強くなった、…よく頑張ったね、ずっと、頑張ってたもんね…」


吉原にいる遊女達はほとんどが身売りされたものや、攫われて連れて来られたものばかりだった。私たちも例外ではない。実の家族の顔すら覚えていないほどに幼い時に連れて来られ、この吉原で育ってきた。友達なんて作れるような環境でもなければ、家族と呼べる存在もいない。そんな私たちは地雷亜の元で共に暮らし、同じ釜の飯を食べ、同じ景色を見て育ってきた。いつからか私は月詠を妹のように可愛がっていた。どこへ行くにも、何をするにも共にして。無愛想だった月詠が私だけに見せる笑顔が嬉しかった。ずっとこの笑顔を護れるならば、この身を賭してでも、何を犠牲にしたとしても、痛くも痒くもなかった。この闇に包まれた吉原で、月詠は私にとっての、唯一の光だった。


「…わっちはなまえに出会えていなかったら、ここまでこれていなんし。ぬしがいたから、…ぬしと家族になれたから、…ぬしがわっちを見ていてくれたから…」


私を抱え込み、見下ろす月詠の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちて、私の頬に伝って流れる。手を伸ばしてその雫を拭うと、月詠は更に涙を流した。


「なまえ!!勝手に逝こーとしてんじゃねェ!お前にゃまだやるべきことがあんだろ!また団子食う約束したろ!ドラ●エだってまだ途中なんだ、早く帰って続きやるんだろ!…オイッ!」

「…銀時、私は…」


銀時の言葉に、地雷亜の薄ら笑う声が聞こえた。地雷亜との戦いは膠着しているのだろう。無理もない。いくら銀時が強くたって、あの男には敵うかどうか。地雷亜の腕は確かだ。私はその腕に魅了されて、あの男の下につくことを決めたのだから。
私たちはいつからかおかしくなってしまったんだろうか。私は確かに、あの男を慕っていたのだ。…私がもっと出来損ないだったら。地雷亜は私で満足しただろうか。月詠を巻き込むことなく、私は一人この男に食い殺されていただろうか。


「地雷亜、やめろ…!!!」

「もう、やめとけ。てめーの巣には何もいやしねぇよ、獲物も餌も、虫けら一匹。そこにいんのは最初から、たった一匹の蜘蛛だけだ。はるか頭上の月の光を仰ぎ見て、澄んだ空に向かって糸を吐き続ける哀れな蜘蛛だけだ」

「…何を世迷い言を。そんなことはとうの昔に知ってるさ」


視線を動かした先にいた銀時の背後に、地雷亜の姿が見えた。痛みをこらえるように、ぐっと眉を顰めた。


「地雷亜!やめろォォォ!!!」


銀時にクナイを振り上げた地雷亜に、月詠は叫び声をあげた。私はその瞬間を見逃さなかった。


「…なまえ、いい。それで、いい」


私は最後の力を振り絞り地雷亜に飛び掛かると、太ももに隠し持ったクナイで地雷亜の首を引き裂いた。銀時は私がこうすることをわかっていたかのように振り返り、私を見つめた。


「蜘蛛が血に消えゆくか。…存外期待していたほどの感慨はないな、己を殺すなどということは」

「…師匠、」


ガクッと膝の力が抜け、私はその場に崩れ落ちた。遠のいていく意識の中で、僅かに微笑んだような師匠の表情と、私の名を呼ぶ月詠の悲痛な叫び声が聞こえた気がした。

…師匠、ごめんなさい。私が出来損ないだったばかりに。あなたを救うことができなくて。
…月詠、ごめんなさい。私が出来損ないだったばかりに、巻き込んでしまって。最後まで、お前を護ることができなくて。
そして、銀時。助けに来てくれて、嬉しかったよ。…ありがとう。



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