Ichika -carré- | ナノ


▼ 本当は弱いアイツ 1/3



私が吉原に戻ったのは、銀時が一人で帰ってきた3日後のことだった。この3日間銀時は目を覚ますことなく、ずっと眠りっぱなしだと日輪たちから聞かされた。身体中あちこちが傷だらけの銀時を見るなり、自分の行動の愚かさを悔いた。私が一緒について行っていれば、こんなことにはなっていなかったかもしれない。それに、月詠。あいつは今どこに。


「…ん」

「銀時!オイ、しっかりしろ!銀時!」

「…なまえ、か?」


私の言葉に重たそうに瞼を開けた銀時に、ホッと胸を撫で下ろす。起き上がろうとする銀時に手を貸すと、銀時は思いつめたような顔で俯いた。


「…何なんだ、あいつァ。化けモンみてェな強さだった」

「化けモン?まさかお前、羽柴に会ったのか?…そいつは一体…」

「あァ、会った。…そうだ、あの男。お前らのこと、知ってたんだよ」

「…私たちの、こと?」


銀時の言葉に、ドクンと心臓が鳴る音が聞こえた。この胸騒ぎが気のせいだと、思いたい。そう思っていたのに。次の銀時の言葉で、私のそんな儚い希望は打ち壊された。


「…お前らの、師匠だと」

「……師匠、?」

「つーか、オイ…俺なんで助かったんだ。どうやって吉原まで戻ってきたんだ」


銀時の問いかけに答えずに、私は黙って立ち上がった。それと同時に日輪と神楽、新八は部屋に飛び込んできた。


「銀さん!よかった、銀さん!」

「銀ちゃんんん!!!」


銀時に飛びつく神楽と新八を尻目に、私は静かにその場を離れ、ある場所へと急いだ。後ろからは私の名を呼ぶ日輪の声が聞こえた気がした。


…なぜ、あいつが生きているんだ。なぜ、どうして。
目にも留まらぬ速さで屋根を飛び移る私は、全身の毛が逆立つような感覚に襲われていた。変な汗が背を流れる。色んな感情が溢れ、吐き気すら感じた。

…月詠、お願いだから、無事でいてくれ。
祈るようにぎゅっと目を瞑った。





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「いってェな!命の恩人に何すんだよ、この腐れ侍!」

「テメェ、見てたなら助けやがれ!高みの見物決めやがって!あの後どーなった?…月詠は?」


俺が気がついたときにゃ、このアホ侍はボロボロにやられて百華の頭はあの男に連れて行かれてしまっていた。助けるもクソも、気がついたときにゃもう試合終了だったってワケだ。


「…あいつは、蜘蛛手の地雷亜」

「…」


俺は自身の知ってる限りのやつの素性を話した。御庭番きっての逸材。だが、やつは危険な男だった。底知れない忠誠心。将軍に固執し隠密活動のためにテメェのツラまで焼いた、変態ヤローだ。


「地雷亜の忠誠心とは、獲物に対する忠誠心。そしてその歪んだ忠誠心は、今あの女に向かっているんだろーな。だが、百華の頭が獲物にされる道理なんかあんのか?」

「…あの男、あいつらの師匠だと言ってた」

「何だと?地雷亜が…あいつらの師匠だって?」

「…あァ、確かにそう言ってた」

「…何てこった」


予期せぬ言葉に俺は開いた口が塞がらない。あんな男がなまえの師匠だ?ふざけんな、こんな偶然あってたまるか。御庭番が探していたあの男が、まさか。師匠が生きてると知ったら、あいつは。…あいつは。


「オイ、なまえはどうした。…どこにいるんだ」

「その男がテメェの師匠だって教えたら、血相変えて飛び出しちまった。どっか当てでも…」


「テメェ!!あいつにそのこと話したのか?!…クソッ、余計なことしやがって!」


思わず立ち上がりその場を駆け出そうとした俺は腕を思い切り引っ張られた。何だ、と言いたげなこいつの表情に、ゲンコツ一つでもくれてやりたくなる。


「…オイ待て、何の話だよ。何でなまえにその地雷亜の話したらまずいんだよ」

「…何も知らねェやつが、あいつの心に土足で踏み込もうとすんじゃねェ」

「どういうことだ?」

「テメェに、あいつの背負ってるモンの重さが、わかるか?…あいつはなァ!!」





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