▼ 鈍感なアイツ 1/3
「銀時、お前は空気の読めない男だな」
結局おぶられたまま、送ってもらうことになった私は、銀時の頭に顎を乗せてため息をついた。月詠のあんな表情、初めて見た。悲しそうな、寂しそうな、そんな表情。
「何がァ?まさかお前も飲みたかったの?」
「ちげーよ、バカ、バカ男」
月詠に申し訳ない気持ちと、どこか心地のよいこの背中。私はよくわからない感情に苛まれていた。月詠の為にも、このぬくもりを避けなければならない。それなのに、心のどこかではそうしたくないような。何だかよくわからない感情。首に回した腕に自然と力が入ってしまった。
「おま、くるし、…オイ」
「…なぁ、銀時。何でお前は銀時なんだよ」
「はァ?お前何言ってんの、まさか頭も打ったの?頭も怪我人なの?」
「…はぁ」
銀時の悪態にも反応することができずに、自分の感情の渦に飲み込まれそうになる。…私は今まで、月詠の笑顔を一番に考えてきた。その為にたくさんのモノを犠牲にしてきた。それが褒められたものじゃなかったとしても。例えそれが大切なモノだったとしても。何を犠牲にしても、何を手放しても、私は平気だった。それなのに。
「なまえ」
「…ん?」
気がつくと、私の家の前についていた。立ち止まった銀時は振り返って、にんまりと笑った。
「お前んち上がってもいー?」
なぜ、このぬくもりは、手放したくないと思ってしまうんだろう。
prev / next
bookmark