▼ 寝起きのアイツ 1/2
「…♪……♪」
まどろみの中で、私は何だかとても心地よい温もりを感じていた。凍えるような寒さが続いていたはずなのに、何故か、どこか暖かい。僅かに耳に届く聞きなれた音が、遠くから聞こえているような、いないような。
「…♪……♪」
ダメだ、どんどん意識が遠のいていく。ぎゅっと掴んだ抱き枕に顔を埋めると、またそこから温もりを感じて私は安心したように、また眠りにつこうとした。すると、抱き枕は意志を持ったように、私を抱き寄せた。…嗚呼、気持ちがいい。
…ん?抱き枕…?私、抱き枕なんて持ってたっけ?…それも、まるで生きているかのように、私を包み込んでくれる、そんな有能な抱き枕なんて……。
「〜♪〜♪」
不意に耳に飛び込んできたドラ●エのBGMに、私はバチッと瞼を開いた。そして、その視界いっぱいに広がる、白と黒の景色。「…んん、」なんて低い声が頭上から聞こえたところで、私はずりずりと顔を上げた。そこにあったモノ、いや、正確にはモノではない。…人の顔。銀髪の男の顔が、私の顔の目の前にある。
「…へ?」
固まったまま動けずにいる私をよそに、その男、もとい銀時の瞼がゆっくりと開いて、私を写した。寝ぼけているのか、私の顔を見るなり数秒止まって、すぐに目を見開いた。ようやくそこで我に返った私は、銀時に馬乗りになり私を包んでいたと思わしき腕を捻り上げた。
「お、お前、!!!人んちで何してんだ!!!!」
「え、…え?何で?…何で俺、お前といんの?」
「こっちのセリフだよ!!!百華副頭領の寝込みを襲うなんざ……」
…いや、待てよ?私は昨日例によって全蔵に付きまとわれて、それで、銀時が助けてくれて、それで…団子つつき合って。あっ、確かドラ●エやり出して、酒盛りを始めて……。
段々と記憶を鮮明に思い出し始めたところで、ふと視線を感じ見下ろすと、銀時の嬉しそうに三日月型になった目が私を見上げている。ちょっと頬も赤らめている気がする。
「百華の副頭領は、随分朝から、サービスいいのな…」
「へ…」
そうして銀時の視線を辿ると、私の胸部にぶち当たった。大きく襟元がはだけたそこからは、大胆にも谷間が広がっている。それを理解するより先に、スパンと開け放たれた戸から、何とも間の悪い人物の声がした。
「…なまえ、遅刻だ、ぞ……!?」
月詠は私たちを見るなり、時が止まったように動かなくなってしまった。それもそうだ。組み敷くように銀時に馬乗りになっている私の衣服は大胆に乱れているのだから。
「…ちが、月詠ちゃん、これは…」
バッと銀時から離れて思わず月詠に駆け寄ろうとしたも、叶わなかった。
「ぬしら、仕事サボって何をやっておるんじゃァァァァァ!!」
その言葉を皮切りに月詠はビュンビュンと疾風の如くクナイを私たちに打ち込んだ。
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