ただ一目でも良い。
貴殿を私の眼に映したい。
だが出来るのなら娶りたい。
生涯を私と共に過ごしてほしい!
そんな一心で狩りと嘘を吐いてきたまではいいのだが…

「…早まったかもしれん」

噂によるとかぐや姫は五人もの美男に無理難題を吹っ掛けては追い返したと言うではないか。
それなのに私が行ったところで結果は見えている。
私は美男ではない。自分で言うのもなんだがかなりのしょうゆ顔だ。
しかも背は高くない。寧ろ低い!
軽くあしらわれて終わってしまうのではないのか?
それどころか一目見ることすら叶わぬかもしれん。
そんな思いが相俟って重くなった足取りでかぐや姫に会いに向かった…のだが、


「あ゙あ?誰だテメェ」

「お、男?かっかぐや姫は何処だ」

「んだよ、俺に用か?」

「はぁぁっ!?」


この男がかぐや姫だと!?
どういう事だ!
いや、かぐや姫は少々男性的なだけで女に違いない。そうに決まってる。
見た目は噂通り麗しい。睫毛が長く整った顔立ちはこの世のものとは思えない程だ。
それに肌も透き通りそうな程雪肌美しい。
片膝を立て捲れた着物の裾から見える御御足は長くて適度に筋肉がつき引き締まっている。
着物が肌蹴て見える胸板は薄すぎず逞しくて…たく、ましくて…

「やっぱり男か!」

「見てわかんねぇのかよ」

何という事だ。
まさか本当に男だなんて…どういう事だ?
奴は「かぐや姫」である事には間違いないようだ。
なのに何故姫ではない!

「き、貴殿に求婚をしたという美男達の噂は真か?貴殿が男と分かっていながら求婚したのか?」

「あ?あー、そうだな。好みじゃねぇから追っ払ったけどな。つか俺が男だからあいつら来たんじゃねーか」

「えっ!?」

では何故私の耳にはかぐや姫が男だと届いていないのだ?
しかし今思えばかぐや姫を娶りたいとぼやいた時は周りが何故あんなにも必死に留めたのか、そして何故揃いも揃って口を濁したのか…
原因はこれだったのか!

「で?あんたも俺が欲しいのか?」

「えっ、いやっそのっ…」

私が考え込んでいる間にいつの間にやらかぐや姫は縁側から私の目の前へと移動していた。
思考回路が止まっていて気付かなかった。
目の前に立たれると改めてその背の高さが際立つ。
これはどう足掻いても男だ。
かぐや姫は男だったのか…生憎私には男色の気はない。
それに私が幾多の美男を蹴散らしたかぐや姫に好かれるとも思えん。
よし、用は済んだ。帰るか。
踵を返そうとするとかぐや姫は私の腰を抱き寄せ、熱気の帯びた眼で私を見下ろす。

「いいぜ、欲しいならやるよ。俺はあんなぎらついた顔してる奴らよりあんたみたいなあっさりした顔が好きなんだよ」

「はぁっ!?」

褒められた気がせん!いやそれよりもだ!
困る!男のかぐや姫など与えられても困る!
だから翁と媼は柱の影から拍手をするな!
はっきりと物言うのは苦手だ…とはいえこのままでは…そうだ!

「かぐや姫、そのように自身を安易に手渡すものではない。私も男だ、必ずしも貴殿の為に所望するものを手に入れてみせよう。でなければ彼の者達も報われぬ。何よりも貴殿の評判に傷が付いてしまうぞ。さぁ、所望するものを述べよ」


上手いぞ私!いつもよりも饒舌に、尚且つ完璧に言ってみせたぞ!
これならばかぐや姫も私に無理難題を出すしかあるまい。
私がかぐや姫の要求を飲めなくともしょうゆ顔の私が彼の美男達と同等の扱いだったのだと誇れるかもしれん。
さぁかぐや姫、何を所望する!
考える素振りを見せるかぐや姫は一度にやりと、とても悪どい笑みを浮かべて私を見据え唇を耳元へと寄せて囁いた。

「あんたの尻子玉」

「……え?」

「だから、あんたの尻子玉」

し、尻子玉とはあの抜かれると力が抜けてしまうという尻にあるっていう…待て!
渡すと私が死ぬではないか!

「むむむむ無理だ!」

「あ?何でもっつったじゃねぇかよ。安心しな、河童なんかには抜かせねぇ。俺が抜いてやるから」

「待て抜かれたら死ぬだろう!」

「また戻せば何とかなるだろ。つか何回も出し入れしてやる」

何故に!!
意味の分からぬかぐや姫の言葉に顔を青ざめている私とは違い、かぐや姫は楽しそうに笑っている。
でも目が本気だ。
抱き寄せる腕にも力が籠っている。

「でも抵抗された方が燃えるんだよなー…よし、抜かなくていいから尻子玉ごとあんたを寄越せ」

「えっ…」

それ以上の言葉は紡げなかった。
何故ならかぐや姫の唇が私の唇に重なり…所謂接吻を交わしている。
唇が離れ視界に映るかぐや姫はやはり見目麗しく思わず見とれて…いる場合ではない!

「私に男色の気はない!」

「はいはい」

受け流された!
だがここで食い下がるわけには…そうこうしている間に肩に担がれって、え?

「じいさんばあさん、この金やるからそこの使い共と一緒に明日まで帰ってくんな」

「それは私の巾着ではないか!」


おい使者達も何あっさり帰ろうと…満足げな顔をするな!
そうか、かぐや姫を娶りたいと言ったばかりに私は男色だと勘違いされているのか!
違うのだ、私はっ…

「さーて、帝様よぉ、夜は長いんだし…しっかり楽しませろよ?」

「ちがっ、わた、私、は…うわあああああ!」


そして帝は当初の予定通り、かぐや姫という名の男を娶ることができましたとさ。
めでたしめでたし。


「めでたいわけあるかあああ!」






───────
言い訳という名の懺悔を少々。
本当にやってしまった感満載の偽りの御伽噺です。
もう原作崩壊も良いところですね。
ただ尻子玉をテーマに書きたいと思って考えた結果がこれです。
何故かぐや姫になったのか…カッパ攻めでも良かったんですけどイケメンの頭に皿ってと笑ってしまって(笑)
あと時代に合わせようとちょくちょく古風な言い回しをしてますが無理してる感満載ですね。いかに国語と古典が苦手だったかが滲み溢れてて涙目です。
こんな話になりましたが私は竹取物語大好きです。



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