tennis | ナノ




自分で言うのもなんだけど、私の態度は明白だと思うの。
わざわざ隠す程、私は恥ずかしがり屋ではないし、好きって感情を表に出す事はむしろ良いことだって言われて育ったから、私はその通りに生きてきた。

だから私は慧くんが大好きだし、それを表に出しているつもり。慧くんも懐く私を邪険には扱った事は無くて、周りの皆が思っているより慧くんは紳士だと思う。
そしてそして、慧くんも満更じゃないと。そう思っていた、……けど。
そうではないらしい。





『どういうこと、どういうことー!?』

半ば私は半泣きで、部室でこっそり慧くんのお菓子を摘んでいる凜ちゃんと裕次郎に詰め寄った。
普段の私なら慧くんのお菓子は私が守る…!ってな番犬ばりに2人に注意する訳なんだけれど、あいにく今日はそれどころではなかった。


「じゅんに、かしましいいなぐやっさー!」

『何言ってんのか分からないけど、馬鹿にされてるんだろうなって言うのは分かるからムカつく…凜ちゃんのバカ!』

「うるさいぞって言ったんさー。凜も標準語使ってやんないと会話成り立ないぞ」

「…わざとやっさー」

『もう……、早く教えてよ…』

「新聞部でテニス部の特集するらしくてさ、それでいなぐ(女)のタイプも聞かれたんさー」

『そ、それで…?』

「それで田仁志のタイプは"俺についてくる女!"ってはっきり言ってたぜ」

そう凜ちゃんとは違い、裕次郎が言いにくそうに最後の決定的な台詞を凜ちゃんの代わりに言った。それと同時に私は鈍器と言ったら大袈裟だけど、私の恋心は殴られたみたいにズキンと脈打った。

そんな……私は好き好きオーラを出す余り、どっちかと言うと慧くんを振り回している感じなのに?
いっつも慧くんに甘えるばかりに、我が儘とかおねだりしてるのに?


『そんな……逆じゃなくて?引っ張ってくれる女とか、振り回されたいとか、手の掛かる子とかじゃなくて…?ねぇ?』

「…諦めるんやっさー」

面白がっている凜ちゃんは半泣きになっている私を楽しそうに見て笑いながら、また慧くんのお菓子に手を伸ばす。
人事だからって凜ちゃんは本当に意地悪だ。よく本州から引っ越して来た私が分からないと分かっていて、うちなーぐち全開で話して遊ぶし。

でもでも、今日はそれどころじゃないんだよ。
慧くんのタイプとは私真逆に属するよね?
そうか…、慧くんは大人しく自分についてくる様な女の子が好きなんだ…。どうしよう。




「今日は大人しいんやっさー?」

『……うん』


やっぱりいつもと違う様に見えるのか、慧くんは少し心配そうに私の顔を覗き込んだ。
休憩中の今は、先生もいない事から普段より少し長めに木手くんが時間を与えてくれたみたいで、わざわざ私が座っていたコート端のベンチまで慧くんは来てくれて横へ腰を下ろした。


「やーが元気ないの珍しいさ。ぬーがあったんさ?」

何かあった、…けれど張本人相手に答えるべきなのか濁した方が良いのか、どうしたら良いんだろうか。
いつもの私なら慧くんには素直に何でも言うのに。

だけど、こんなに慧くんに私は懐いているつもりなのに、はっきりとタイプをああ言ったって事は遠回しに玉砕してるのと同じ様なものな訳であって、それに対して落ち込んでいるなんて言える程、私のハートは鋼で出来ていないよ。

ああ、ああ、…なんて言おう。なんて言えばこの場を乗り切れるかな。
1番安全な道を慎重に渡りたい私は、言い訳を必死に考える。


「やー、熱でもあるんじゃないのか?」

『きゃ…』

そう言って慧くんが私のおでこに触れた。
考えることに集中していたから、いきなり触れられた手の平にびっくりしてしまって、思わずポカンと慧くんの方眺めてしまうと、慧くんは呑気に熱はないようだな、と自分のおでこと私のおでこの熱を比べてそう言った。


「よく弟達が熱出しても、気付いてなくて平気で遊んでる事あるからな、やーもそれかと思ったさー」

『慧くんお兄ちゃんだもんね』

「おう、世話妬いてやるのでーじだばー」

『そっか…』

そっか。慧くんが私の扱いが上手で慣れてて甘やかしてくれるのって、お兄ちゃんで慣れてるからなのか。
私に優しい訳じゃないのか。妹みたいにしか思われてなかったんだね。
今までよく気が付かなかったね、と自分で自分を笑ってやりたくなる。



「ぬーがした?」

『……』

「やっぱりやー体調悪いんじゃないのか?」

体調じゃなくて、心がすこぶる不良だよ。
なにこれ失恋な訳?私失恋しちゃった訳なの?


『慧…く、ん…!わぁぁぁん!』

耐え切れなくて思わず本人の慧くんに泣き付いた。いきなり泣き出した私に一緒びっくりした慧くんは、それでもすぐにポンポンと頭を撫でて私が落ち着くように宥めてくれる。
それがまた悲しくて私の涙はこれでもか、とぽろぽろ出てきた。


「どうしたんさ?言わないと分かんないぞ」

『慧くんが…、慧くんが…!』

「わんが?」

『私のこと、妹みたい、って…!』

私は私は、女の子として見て欲しいよ!好みのタイプじゃないのは明白だけど、せめて…

「そんなこと誰が言ったんばー?」

『へ…?』

不思議そうな声色で慧くんがそう言うから、こっちも不思議で思わず顔を上げる。

『だ、だって…好みのタイプは慧くんについてくる子なんでしょ…?』

「ぬーがや昨日のあれの話か?」

『う、うん。凜ちゃんが言ってた』

「……で、どうなってやーが妹みたいだって?」

『だって…、妹みたいだからタイプでもないのに優しくしてくれるのかな、って…』


そう言うと慧くんぱちぱちと真顔で瞬きをして、それから面白そうに笑った。いや、笑われた。


「やーはふらーやっしー」

『え?え?』

「馬鹿やな」

『え…?!』


ひとしきり満足するまで笑った慧くんは、それを見上げたままぽかんとしていた私の頭をまたポンポンと撫でて目を細めて微笑んだ。


逆に、

「やーがそうなれば良いのにって、わんの願望とゆうか理想なんさー」

『慧く…ん!』

「そもそも早くやーはわんに告白しろよ」

『け、慧くんこそ!男じゃん!馬鹿馬鹿!』

「いや、かなさんいなぐに言うのはさすがのわんも緊張するんやさー」

『…!……それは、さすがに私でも意味わかるよ…』


「やーは?」

『……私も好きです』



うちなーぐち適当でごめんなさい!

企画「逆に」様に提出