親の仕事の都合で、大阪から沖縄に引っ越した私は完全にアウェイだった。
「えっと大阪出身でウチナーグチは全く分かりません。…よ、よろしゅう」
「ヤー、チュラカーギーやっさー!」
さっきウチナーグチは分からないって言ったじゃん!と大阪人ならではの突っ込みをグッと堪えて、相手を見ればバッチリ目が合ってしまった。
「クマ来なんしー!」
「え、?」
「クマ来なんしー!」
「席は甲斐の隣でいいか?」
「あっ、はい。大丈夫です」
先生に通訳してもらって甲斐くん、という男の子の隣に座れば「ワッターはドゥシやっさー!」と話し掛けられた。
だからウチナーグチは分からないんだってば!
「ヤー、チュラカーギーさー」
「甲斐くん、チュラカーギーって何やの?」
「裕次郎でいいやっさー」
「え、いきなり名前呼びとかハードル高いわ…、てか私ウチナーグチ分からんのよ。」
ここは異国の地なんやろか、同じ日本のはずやのに日本語が分からんのは何でやねん…!
「ヌーヤガ?アワテランケー、ワンが教えちゃる」
「わっつ?え、何て?」
「ワンがヤーにウチナーグチ教えちゃるきー」
「お、おおきにぃ…」
席が隣なんか知らんけど、授業中はむっちゃ隣(裕次郎くん)から視線を感じる。
ぶっちゃけ気まずい。裕次郎くん格好良いし、イケメンに見られてるとか恥ずかしい。
裕次郎くんと目が合えば「ヤー、チュラカーギーさー」ってめっちゃ言われるし。
さっきから思ってたけど、チュラカーギーって何やねん!
休み時間になれば裕次郎くんのお友達という平古場くんに話し掛けられた。
金髪やしめちゃくちゃチャラそうな人やけど、話すと普通の人やった。
ちなみにこの髪色は本土の人間に対抗するため、らしい。
平古場くんにとっての本土のイメージって…?
「ゆーじろー、この子が転校生なんし?本土は違うきー!」
「あっ凛、手出したら永四郎に頼んでゴーヤ食わすさー」
「ゴーヤは勘弁!」
「沖縄県民やのにゴーヤ苦手なん?」
「ゴーヤーは苦いから不味いきー」
ふーん、と適当に相槌を打てば「ヤー、彼氏はいるやっさー?」と平古場くんに聞かれた。
「凛!ワーバグトゥアリランケー」
「へ?あ…彼氏はいいひんよ」
イームン聞いたさー、とか言いながら平古場くんは何処かに行ってしまった。
やっぱり沖縄県民はウチナーグチで話すのかな、
全くウチナーグチが分からない私はただ相槌を打つことしか出来なかった。
そのまま授業の用意をすれば裕次郎くんに「凛とはドゥシでいいやっしー、それ以上は勘弁!」とか言われた。
「裕次郎くん、ドゥシってなんやの?」
「ワラワサンケー!ドゥシを知らんさー?」
「うん、大阪ではウチナーグチ使わへんからね」
「友達、って意味やっしー」
「そーなんや。じゃあ裕次郎くんと私はドゥシやね!」
そう言えば「ワーはヤーとドゥシとは思ってないさー!」って裕次郎くんにすぐさま否定された。
えっ?私ら友達じゃないん?
何でか分からんけど、心臓がギュッと痛くなってスゴくショックやった。
今にも泣きそうな顔をすれば、裕次郎くんは慌てたように「イミクジアランドー!」と叫んだ。
「へっ?」
「ヤーがベーじゃないやっしー!」
裕次郎くんを見れば真っ赤な顔して「カナサンドー」と呟けば、そのまま机に突っ伏してしまった。
だから私ウチナーグチ分からないんだってば!
(ヤー、告白の返事はチューでいいやっしー)
(チュー?!えっ、沖縄で告白の返事はキスなん!?)
(…ワーがウチナーグチ教えちゃるから付き合って欲しいんさー!)
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