「名字」
「何?」
私を名字。そう凛々しく呼ぶ声の持ち主…跡部会長は最近どうやら恋をしたらしい。あくまで風の噂だけど彼に恋しているこちらとすればそれはたまったもんじゃない。という話になるわけで。
生徒会役員の私はよく跡部と頻繁に言葉を交わすのだが彼の口からある特定の女の子が好きだ。だなんてセリフを聞いていないから私にも話せないくらい真剣で秘めたい恋なのかなぁなんて跡部に今さっき受け取った資料に目をやりながら考えてみる。
自画自賛するのもどうかと思うが私の恋って結構直向きなものだと思う。何年に渡る恋だ。三年か。まぁそんなことをいくらいったって跡部会長格好いい!とクッキーやらをプレゼントする可愛らしい女の子になれないのが今の現状だ。
「会計のお前は大変だが…。頼めるか?」
「ん。余裕だよ。大変なのは跡部じゃないの?」
「俺様は平気だ。」
じゃあな、なんて言いながら頭一個分くらい下にある私の頭を撫でる動作に胸が疼いた。
そんなことばっかりしてるから学園中の女の子が誤解するんだよ跡部。私とかね。それだから…。
それだからアンタの恋は本人に届かないんじゃないの?
私は今どんな顔をしているのだろうか。きっと私は生徒会でも跡部の恋でもサポート役に回ってしまう。溜め息を付いて苦笑いを浮かべる。気合いを入れ直すように頬を叩いて放課後跡部の相談にでものってやろうと気持ちを切り替えた。
しかし意気込んで乗り込んだ生徒会室で待ちかまえていたのは跡部の間抜け面だった。
「…いらねぇ」
「なんでよ」
「お前に相談しても解決しねぇからだ」
「失礼ね。話聞くのは場数踏んでるわよ」
「そういう問題じゃねぇし」
「じゃあ誰が好きなの?」
「秘密だ」
「何で秘密なの?」
「秘密だからだ。」
…こんな会話が30分も続けば生徒会のメンバーもクスクスと笑い始めた。いったいなにが可笑しいのだろうか。こちらは至って真面目だというのに。
どうやら跡部は何が何でも私に教える気はないらしい。なんだよ。と頬を膨らませればそんな私を見ているのがいたたまれなくなったのか何でも聞け。と苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「何年生?」
「3」
「どんな子?」
「普通」
「何部?」
「帰宅」
「可愛い?」
「それは価値観だろ」
そんななんの変哲もない私の質問と跡部の返答が暫く続いていると痺れを切らしたように後ろから生徒会メンバーも質問に加わった。
「会長」
「なんだ」
「会長の好きな人って名字先輩ですよね?」
「そうだ」
「…え?」
重い沈黙が流れた。というより主にその沈黙に捕らわれているのは私一人なのだが。
え?と再び跡部に問いかければ先ほどと同じやり取りが繰り返された。
「お前は誰が好きなんだ?」
「え、あの、わ、私は…」
跡部が好きです。
その言葉が出るのには随分と時間がかかった気がした。
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私の考えた「純愛」は直向き故の盲目です。
好きだからこそ見えないってことはたくさんあると思います。
庭球純愛1000000hitおめでとうございます。そして企画に参加させていただきありがとうございました!
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