私と赤也は立海近くの公園でベンチに座っていた。
ヒュー..と、北風が吹いては枯れ葉が申し訳程度に着いている木々を揺らし、隣の赤也はブルリと体を震わせる。
ズビッと鼻を啜る赤也に思わず笑ってしまった。

私と赤也は去年の12月25日から付き合っている。
片やテニス部のエースで一つ年下の赤也。
片や昔から病弱で地味な図書委員の私。
何度釣り合わないと言われたことか、何度別れろと言われたことか。
それでも別れなかったのは赤也を信じていたし、赤也も私を本当に愛してくれていたから。
お互い支え合って、信じ合って、愛し合ってここまで来たんだ。
それも明日で一年。

そう、今日はクリスマスイブ。
12月24日だ。


「何か、あっという間でしたね。」


そう言って小さく照れた様に笑う赤也に私もつられて笑う。


「そうだね..。あ、バレンタインのこと覚えてる?」


「ちょ、それは忘れて下さいって言ったじゃないッスか!!」


慌てる様に言う赤也にやっぱり笑ってしまう。
あの時は本当におかしかった。


「幸村君が赤也にあげるチョコ見せてって言うから見せただけなのに、赤也ったら勘違いして...泣きそうになりながら"それは俺のです!"って幸村君のこと突き飛ばしちゃうんだもん。」


「...あの後グラウンド100周はさせられるし、部長にも仁王先輩達にもずっとからかわれるし..災難だったんスよ。」


その時のことを思い出したのかげんなりと溜め息を吐く赤也。
その息が真っ白で少しだけ可哀想になった。


そんな感じでいろんな思い出話に花を咲かせる。
お互いの誕生日のこと、赤也の部活のこと、喧嘩して仲直りしたこと。
本当にいろんなことがあった。


「すっげぇ濃い一年でしたね。」


「うん。楽しかった。」


「ッス。楽しかったッスね。」


「....。」


「....。」


いつの間にか無くなってしまった会話。
静かな空気に時間がこの公園だけ止まってしまったかの様な錯覚を起こす。
ふ、と上を向くと赤也が小さく"あ..."と声を漏らした。


「ゆ、き..。」


チラチラと落ちてくる白い粒に思わず頬が緩んだ。


「綺麗..ホワイトクリスマスイブだね。」


「...。」


無言になってしまった赤也に、私は少しだけ俯いてしまった。
シトシトと音も無く舞い続ける白雪。
赤也の真っ黒で癖の強い髪に薄く積もっていく。


「赤也..ごめんね。」


私がそう呟くと赤也の方が大きく跳ね、そのまま小さく小刻みに震え始めた。
冷たくかじかんでいるであろう赤也の指は真っ白で、その手もカタカタと震えている。


「赤也..。」


今の私にはそんな赤也の指を温めてあげることも、包み込んであげることも出来ない。


私は自分の手を見詰めた。

頼りない骨の様な指。
血色が悪くて汚い指。
そんな自分の手が大嫌いだった私に、赤也は私のこんな指を"好きだ"、"綺麗だ"と言ってくれた。
優しく薄ピンクのマニキュアだって塗ってくれた。
そのマニキュアは今でも私の指を彩っていて、私は少しだけ自分の指が好きになれた。
どんなに細くて骨ばっていても、どんなに血色が悪くて気持ち悪くても赤也が好きと言ってくれただけで愛おしく感じた。


こんなにも赤也は私の心を温めてくれたのに私は何も出来ない。
そう、何も。

嗚呼、私は何て無力なんだろう。



「赤也、ごめんね。」


「..な、んで...なんで..ッ..!!!」


「...ごめん。」


ポタリ、ポタリと赤也のズボンに染みが出来ていく。
それは雪が溶けたのではなく勿論雨な訳もない。
その雫は赤也の瞳から溢れ出ていた。
私の大好きなちょっと生意気そうな大きな目。
その目から大粒の涙が溢れている。


「やく、そく...ひッく..した..の、に..。」


「うん。」


「ら、ぃ..ね..こそは..ッぅ..くり..すま、す..ッく..いっ..しょに..ゆき...みる、って!!!!」


「ッ..うん。」


「なの..に...ど..ぅ...して..。」


「ッ...う..ん...。」


「ど、して...ひッく..。」


「ッ....。」



「どうして死んじゃったんスかッッッ!!!!!!」


そう言って泣き崩れる赤也に私の心は強く締め付けられた。
....今朝の様に。

元々体の弱かった私は赤也と付き合いだしてからも入退院を繰り返していた。
去年のクリスマス、赤也と付き合い始めた次の日に私は発作を起こし即入院。
私がずっと憧れていたはホワイトクリスマスデートは勿論出来なくなってしまった。そんな私に赤也が言ってくれたのだ。


─来年があるじゃないッスか!!!来年までに元気になって一緒に雪見ましょうよ!!!─


凄く嬉しかった、涙が出てしまうくらい。


なのに私は約束を守れなかった。

私は今朝、自宅で発作を起こしそのまま短い人生を終えた。
苦しくて辛かったけど考えるのは赤也のことばかり。
15年間生きて来たけど、やっぱり私の頭を占めるのは最愛の彼だけだった。


こんなに泣かせてごめんね。
約束守れなくてごめんね。
傍にいてあげられなくてごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。

でも、


「赤也、大好きだよ。幸せをありがとう。」


「...い..ゃだ..名無し..せん、ぱぃ..きぇ..な、い..で...ぃ、や....ああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!!!!


私は泣き叫ぶ赤也を目の前に、ゆっくりと目を閉じた。
































(神様、聖なる夜くらいは)
(私の願い事を聞いて下さい。)(私は何もいりません、だってあんなに幸せな時間を過ごせたのだから。)(だからこそ、私にたくさんの幸せをくれた最愛の彼に、今度は私からたくさんの幸せを贈りたいのです。)


 



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