▼言わなきゃ始まらない



今日は待ちに待った席替えの日。

そして運命のHRの時間がやって来た。

このクラスの席替えは、まず番号の書かれたクジを引く。

次に、先生が席に適当に番号を振っていく。

そして、自分の番号が割り振られた席に移動する、という感じ。

だから、同じ人と連続で隣になることは滅多にない、はずなのだが・・・。

「ま、また・・・!」

私は思わず声を上げてしまった。

でも、それはしょうがないと思う。

だって、私、あの仁王君と今回で三回連続席が隣になったんだよ!?

流石に今回は離れると思ってたのにな。

運命って怖いものだね。

ちなみに、私は現在仁王君に片思い中。

だから、正直言うとドキドキした生活が続きすぎて心臓が保たない。

「また名無しが隣なんか」

「わ、私もびっくりだよ」

「三回連続で隣なんてアリなんじゃな」

「・・・みたいだね」

今日も仁王君とぎこちない会話をする。

といっても、ぎこちないのは私だけなんだけどね。

唯一の救いは、仁王が普通に喋り掛けてくれること。

じゃなかったら、気まずすぎてここにはいれない。

「ところで、名無し・・・」

「ど、どうしたの?」

「お前さん、髪切らんかったか?」

「あ、うん。昨日切ったの。よく気づいたね」

友達ですらあんまり気づいてくれなかったのに、仁王君はすぐに気づいたんだ・・・。

なんかちょっと嬉しい。

「何か短くなった気がしてな」

「友達はあんまり気づいてくれなかったんだよ」

「そんなに分かりにくいんか?」

「そうみたい」

仁王君は、そっか、と言うと丸井君の席の方へ行った。

会話が終わり一息ついて、私は心臓に手を当てた。

──まだ、ドキドキしてる。

未だに仁王君と会話しただけでドキドキする。

やっぱり、私は仁王君が好きなんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれからHRも終わり、みんな帰る準備をしていた。

私も当たり前のように帰る準備をしていたら、

「名無し、ちょっとええか?」

隣で同じく帰りの準備をしていた仁王君に呼ばれた。

「い、いいよ」

「この後暇か?」

「うん。仁王君は部活だよね?」

「いや、今日は休みじゃ」

「そうなんだ。珍しいね」

「ああ。でな、暇じゃったら裏庭に一緒に行かんか?」

「う、裏庭に?」

ここでまさかのお誘い!?

え、これどういうことなの?

凄く状況が掴めてないんだけど!

「そうじゃ。どうかのう?」

「わ、私は全然構わないよ!」

お断りする理由なんて全然ないよ!

というか、あまりの出来事に私、顔赤くなってないかな?

「そうか。じゃあ行こうかのう」

「う、うん!」

どうか、緊張しすぎて心臓が破裂しませんように!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「意外と裏庭も広いのう」

「そ、そうだね!」

ああ、どうしよう!

やっぱり緊張しすぎて、返事ぎこちない!

というか、裏庭の広さとか、それどころじゃない!

今、憧れの仁王君の隣を歩いてるんだよ。

他の誰でもないこの私が!

まさかこんな日が来るなんて思いもしなかった。

自分からこんな大胆なことをすることはないし、まして仁王君から誘われるだなんて・・・。

お願いだから、夢なら醒めないで!

「・・・名無し?」

「ふえぇ!?」

「意識はあったんか。呼んでも返事がなくて驚いたぜよ」

「ご、ごめん!」

「いや、謝ることはないじゃき」

それから私と仁王君はしばらく歩いて、ある木の下に来た。

「・・・ここでええかのう」

・・・今何か仁王君が呟いた気がする。

気のせい、かな?

「名無し、ちいと俺の話聞いてくれんか?」

「う、うん」

「俺な、好きな奴がおるんじゃ」

「!!」

仁王君に、好きな人──。

私が一番聞きたくなかった言葉が聞こえた。

でも、静かに仁王君の話を聞き続けた。

──胸の内に、やり場のない虚しさを抑えたまま。

「でな、そいつは俺の近くにおるのになかなか俺を見てくれんくてのう。俺が話しかけても、ぎこちなく答えるし。それでも、俺は気持ちが押さえきれんくて、そいつに告白しようとするんじゃが、いざ言おうとすると緊張してな。でも、言わないままそいつの隣で生活するのにも、もう限界なんじゃ。名無し、どうすればええと思う?」

「・・・告白しなよ。仁王君ならきっと成功するだろうから」

何か自分で言ってて情けないな。

私は告白する前に、思いは通じなかったけど。

きっと、いや、絶対仁王君なら告白すればその恋は叶うよ。

・・・あー、色々考えてたら涙出てきちゃった。

「・・・そうか」

それから少しの間沈黙が流れた。

「じゃあ、改めて、・・・名無し。俺はお前が好きだ。付き合って欲しい」

「──・・・へ?」

え、何、どういうこと?

仁王君、好きな人いるんじゃ・・・?

「・・・何じゃ、その顔は。そんなに信じられんのか?」

「だ、だって、仁王君好きな人いるって・・・」

「だから、お前さんのことじゃ。俺はずっと名無しが好きだったんじゃ」

「・・・ほ、本当に私なんかでいいの?」

「口で言っても信じてくれんなら、こうするまでじゃ」

ぎゅっ。

私は一瞬状況が掴めなかった。

けど、仁王君独特の甘い香りと、温もりが伝わってきて、私は抱きしめられてるんだ、って実感した。

「・・・返事、聞かせてくれんかのう?」

「わ、私も、仁王君のこと、ずっと、・・・好き、だった。だ、だから、その・・・、言ってもらえて、凄く嬉しい・・・」

「・・・それはいい返事って捉えていいんか?」

「う、うん!」

「・・・名無しに、好きって言えてよかったぜよ」

「・・・私もだよ」

仁王君と同じ思いだったなんて、全然気づきもしなかった。

二ヶ月も席が隣だったのに、それでも全く分かんなかったなんて・・・。

やっぱり言わないと伝わらない思いってあるんだね。

-end-



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は初めて企画というものに参加しました!
なので、めちゃくちゃ緊張してますが、書いててとても楽しかったです。
テーマは「純愛」ということで、お互いが純粋に好き、というイメージで書きました。この企画に参加できてよかったです!
庭球純愛様、これからも頑張って下さい!





戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -