今日は、朝から憂鬱だ。


「どうした?名字」


隣の席の宍戸くんが、私に話しかける。


「…何でもない」


私は宍戸くんの方は見ずに、机に突っ伏したまま、返事をする。


「朝からずっとその体制で、何もねー訳ないだろ」


確かに、この私でも他の人が私と同じことをしているのを見たとしたら、不思議に思うかもしれない。


「…まぁ、言いたくねぇなら無理には聞かねぇけどよ」


そう言われると、言いたくなってしまうのは私だけだろうか。


本当は聞いてほしいけど、言い出すキッカケがなかったから、今までこうして話せなかっただけなのかもしれない。


「あのね、」

「あぁ」


未だに机に突っ伏した状態なため、宍戸くんの表情はわからないが、きっと真剣に私の話を聞いてくれているんだろう。

そう思うと、少し心が暖かくなる。


「……前髪、切りすぎたの」


あぁ、ついに言ってしまった。

聞いてほしいとは思ったが、内容がどうでもよすぎる。

宍戸くんも、そんなことかよ、とか、大したことねぇじゃねーか、とか、聞いて損した、とか思ったに違いない。

いや、他の人にはどうでもいいことかもしれないけど、私にとってはすごく大事なんだよ…!


すると、「名字、顔あげてみろよ」と、宍戸くんは優しい口調で私に言う。


「…。見て、お腹よじれるくらい笑わない?」

「安心しろ。多分、机を叩きながら爆笑するぐらいだ」

その言葉を聞いて、「それも嫌だ!」とガバッと上半身を起こし、宍戸くんの方を見た。


「…」

「…」


ほんの数秒の沈黙の後、宍戸くんは耐えられなかったのか、私の前髪を指差しながら大爆笑した。


「…し、宍戸くんのバカァァァ!!泣くほど笑わなくてもいいじゃんかぁ!」


私はすぐさま、前髪を利き手で隠す。

そして、「自分でも、この前髪が変だってわかってるもん…」と聞こえるか聞こえないかわからないほどの声で呟き、また机に突っ伏した。


昨日の私のバカァ!

別にそこまで気にならなかったのに、ちょっと伸びてきたからって前髪を切ろうと思った私のアホォォォ!!


「…はーっ、悪ぃ悪ぃ」

「…」

「名字ー」

「もう宍戸くんなんて知らない」


そう言い切った後、宍戸くんからの返事がない。

…言い過ぎたか?と不安になり、腕の隙間から宍戸くんを覗き見る。

すると、宍戸くんはカバンの中から何かを取り出そうとしていた。

何を探していたのかを気にしていると、宍戸くんの手が私の方へと伸びてきた。


宍戸くんの、「これ貸してやるから、機嫌直せよ」という言葉と同時に、頭に何かを置かれたことに気がついた。

それが何かを知るために、私は手を頭に乗せて触る。


「…帽子…?」


触ったときの感触から連想された物の名前を口にしてみれば、宍戸くんは笑った。


「それなら、気にしなくてもすむだろ?」

「…いやあの、それはそれで残りの授業中とかみんなの注目の的(まと)になって、恥ずかしいんですけど」

「……、それもそうだな」


宍戸くんの残念そうな顔を見ながら、私は笑う。


「…でもありがとね、宍戸くん」


私のこと気にしてくれて、と言うと、宍戸くんも笑った。



私は帽子を深く被りながら、明日はこの前髪をどうにかしようと、ひそかに決意した。



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純愛、それは純粋に人を愛すること。

私は、人を思いやるという行為は、人を愛しているからできることだと思う。

愛する、それはすべての人"が"出来ることであり、すべての人"に"出来ること。


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