「蔵兎座、早く早く!」

「待ッテ下サーイ!」


私と蔵兎座の始業式が終わった直後。

こっそり想いを寄せていた彼と同じクラスでにやける顔を必死で抑えながら、私は蔵兎座を道案内という名の追いかけっこをしていた。

春になっても、蔵兎座がいると知った時にフッと頭を過ぎった場所。

そこで、想いを伝えたくて。
私が一年間、温めた想い……。


―――<コイゴコロ>


始めて見たその日から、抱きつづけていた想い。

サラサラで、艶のある天然の金髪。

綺麗なまつげに縁取られた、何処までも冷たい氷を思わせる碧眼。

スラリ、とした長身。

冷徹なテニスのプレイ。

無表情のくせに、意外といいノリ。

必死に努力と勉強をして、片言ながらも喋れるようになった日本語。


全部全部、君の隣で【友達】としてそれを見てきた。

でも、【恋人】として、それを見たいと願い続けてきたんだ。


大好き、ううん。愛してるんだ。だから………


「?名字サン、立チ止マッテ、ドウカシマシタカー?」

「うおっ…」


しまった。

考えすぎで、足を止めてしまった…けど、うん。いい感じ。


「蔵兎座、目を閉じてくれないかな?私の手を掴んで」

「?」


不思議そうな顔をしながら、私の手をとって目を閉じる蔵兎座。

…【アイスマン】とか言われてるけど、手は温かいなあ、なんて思ったりして。

そのまま、彼を引っ張る。

一瞬、開きかけた彼のまぶたに指を当てて牽制した。

足を止めて、一生懸命覚えた文と発音を確認して、私は言った。


「いいよ!目を開けて!」


綺麗な碧が見える。
普段は無表情な蔵兎座が、驚きを露にし、嬉しそうに言った。

「Wao...How beautiful it is!」


咲き誇って、ひらひらと散りゆく桜。桜吹雪。

毎年毎年、綺麗に咲いてて、どうしても彼に見せたかった。

そして…私は、想いを告げる。


「蔵兎座」

「ハイ?」

「Even if the world ends, it keeps loving you.」

「!」


本来なら、男が言うセリフだろうけど。


「………」


小さく、蔵兎座が何かを言った。

まあ…多分、不意に出たみたいだったし、英語だから聞き取れなかっただろうけど…。


「あの、迷惑だったら…」

「迷惑ナンカジャナイデース」

「はい?」


顔を真っ赤にして、そっぽを向く蔵兎座。


「イツ言オウカ、悩ンデタノニ…サキニ、言ワレテシマイマシタ…」

「え…?じゃあ」

「ヨロシクオネガイシマス」


思い切って、想いを伝えてよかった。

泪が溢れそうだったのを堪える。

何気なく見た彼の頭に、桜の花びら。


「あ…花びら、付いてるよ。屈んで」


おとなしく屈んだ蔵兎座から、花びらを払う。

…外人のクセに、日本人の私より桜が似合うとは何事だ。

取れたよ、と言えば、蔵兎座は立ち上がった…いや、私に目線を合わせる為に中腰になった。

サファイアより、アクアマリンを彷彿とする、透き通った色の瞳に見つめられて、私の顔は真っ赤だろう…。

蔵兎座が、唇を動かした。


「リリアデント」

「え?」

「名前デ呼ンデホシイデース」


顔をまた赤くしながらも、はにかむように笑った彼は綺麗というよりも…可愛い。

とか思ってたら、ふと唇に柔らかい感触。

アップになった蔵兎座…リリアデントの顔。


キスをされてるのだって気付くのには、そう時間はかからなかった。


「り、リリアデント!」

「ズット、私ノソバニイテクダサイ。名無し」


………ああ、もうダメ。

私から、唇をまた重ねた。




想いを乗せた言葉は、必ず繋がり、きちんと届くから。

相手は、応えてくれるから。

その想いを忘れないように、大切にして生きていこう。






Sakura tsuduri
〜桜に想いを綴って叶えた恋ノ詩〜




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あとがき。

何だこれは…大して甘くならなかったし、名前変換少ないし、季節外れすぎるし…今、6月´・ω・

リリアデントって、桜似合うな…って、イラスト描いてて思ったので、つい……。

彼だって、中一なんです。
恋愛に奥手だっていいじゃないですか!

何となく、ピコさんの桜音と似てきちゃって、慌てて修正したのは裏事情です(苦笑)

企画サイト、「no name」様に捧げます。
参加させていただき、ありがとうございました


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