わたし達は、倦怠期とやらを迎えたらしい。

ふわふわとした掴み所の無い男である仁王雅治と付き合い初めて1年と半年と10ヶ月。
うん、素直に2年と4ヶ月って言えば良かったかもしれない。

元々熱しやすく冷めやすい男である仁王雅治と2年も付き合っているなんて、わたしはどれだけ凄い人なのだろうと思われるが、そうではない。
わたしは彼が夜遊びをしようと危ないお付き合いをしようと一切口出しをしなかった。

仁王が束縛されるのを嫌う事を知ってからはその傾向が尚更顕著になった。

もちろん付き合い出した当初は部活が終わるのを待っていたり、毎日電話したりしていたし、休日にはデートに行ったりもした。

今は違う。
倦怠期というか、二度と燃え上がる事なんて無い気がする。
きっと今が別れる頃合いなのだろう。

仁王の事は好きだったが、昔の好きとは明らかに違った。

「名字、今日ちょっと残っててくれん?」

だから、仁王にそう言われた時も、あぁ振られるのかくらいにしか思っていなかった。

「何かあるの?」
「いや、ここではちょっと…部活終わるまで待っとうせ。」
「わたし見たいテレビあるんだけど。」
「ええから待ってて!」

仁王の勢いに気圧されて頷いた。


教室で仁王を待つのは久しぶりだった。

昔はとても待ち時間が長くて、それでいて幸せだったけど。
あぁもう本気で冷めたんだなぁって思ってしまった。

そろそろ部活が終わる時間かなぁと思って時計を見ていたら教室のドアが勢い良く空いた。

息を切らした仁王が立っていた。

「走ってきたの?急がなくても良かったのに。」
「…お前さん、何で待っとった。」
「…そっちが待っててって言ったんじゃん。」

何だ、何が言いたい。
待ってなかった方が良かったのかな。

「俺が何を言おうとしたかわかっとったじゃろ」
「うん、多分。」
「何で待っとった。」
「…意味わかんない。」

わたし振られるんでしょ?
いいから終わりにしようよ。

そう思って言おうとしたが。

「俺がお前さんを振るってわかっててえぇと思ったんか?!」
「だから、そう言ってるでしょ?」
「……ッ!」

仁王はたいそう傷ついた顔をしていた。
おかしい、振られるのはわたしの方なはずなのに。

「…お前さんは、それでもえぇのか。」

はて、これいかに。


俺は、昔ほどお前さんとおって焦がれるようになることはなかよ。
スタイルの良い女の子とか、お姉さんとかの方がスリリングじゃ。
自分で熱しやすく冷めやすい性格だってずっと思ってった。
でもお前さんを失うのが、寂しか。

仁王にそう告げられてわたしはふと思った。

2年と4ヶ月。
学校生活の大半を仁王と過ごしている。
その間にたくさん喧嘩したし、仲直りしたし、泣いたし、笑った。
もうお互いがいて当たり前のような存在になっているのだ。

仁王の夜遊びは確かに嫌だが、わたしは一度も文句を言わなかった。
それは、夜遊びと言っても一度も、浮気はしていないとわかっていたから。

もう仁王の事なら大体わかっている。
仁王がわたしの生活から姿を消したところが想像出来なかった。
わたしの中には「仁王」というスペースが存在していたから。
もし、仁王がいなくなったとしたら、

「…うん、寂しいかもしれない。」
「俺は寂しか。お前さんがいなくなったら寂しかよ。」

寂しい、なんてこれほど仁王に合わない言葉も珍しい。

「だったら、わたし達ずっと一緒にいればいいよね。」

きっとわたしと仁王は燃え上がる事はもう無いだろう。
それでも、仁王はわたしにとってもはや身内同然だったのだ。

いて当たり前の、空気のような存在。
それがしっくりくる。

仁王は一瞬ポカンとしてから頷いた。

わたし達の付き合いはおよそ学生らしくない付き合いだが、
それでもいいやと思った。

「なぁ名字。」
「なあに?」
「愛しとうよ。」
「うん、わたしも。」

仁王が安心したように笑った。

「まさか名字からプロポーズされるとは思わなかったの。」
「は?プロポーズ?」
「ずっと一緒にいてなんてプロポーズ以外の何物でもなかよ。」
「そんなつもりで言ってないし!」


End





企画初参加です…100万打おめでとうございます!

純愛という事で色々考えた結果です。
お互い空気みたいな、いて当たり前の存在、家族に近いようなイメージで書きました。
もはや熟年夫婦ですね…。

ではありがとうございました!


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