「はぁ・・・」
「ん?何や名無し。随分暗い顔して」
部活の帰りに歩きながら溜息を吐いたら、一緒に帰っていた忍足にそんな事を聞かれた。ちらりと隣に目をやってみると、忍足の横で岳人もこちらに顔を向けていて、不思議そうな顔をしていた。
「あー、いや、何でもないよ。気にしないで」
苦笑しながら手を振って否定したが、忍足は信じなかった。
「嘘やな。大阪の彼氏さんとうまくいっとらんと違うか?」
「(ぎくり)」
・・・眼鏡がキラリと光ったように見えたのは気のせいだと思いたい。
「うっそ、お前彼氏いたのかよ!しかも大阪って・・・遠距離じゃん!」
「何や、岳人知らんかったんんかいな。皆知っとると思っとったわ」
「クソクソ侑士!教えろっつーの!!」
「こらこら岳人、こんなとこで跳ねないの」
ぴょんぴょんとジャンプする岳人の頭にタイミング良く手を置いて上から押さえつける。(こんな時ばかりは岳人よりも背が高くてよかったと思う。何時もは睨まれるが)
「で?ホンマにうまくいっとらんのか?」
「いや、別にそんな事はないよ?一応毎日連絡はとってるし・・・」
「ラブラブやなぁ」
「でもさぁ、」
「?何だよ」
「なんか時々不安になっちゃうんだよねぇ」
言いにくそうに頬を掻きながら名無しがそう呟くと、岳人が「はぁ?」と声をあげた。
「女ってわかんねーなー」
「まーまー、女の子って難しいんやで岳人」
ぽんぽん、と岳人の頭を撫でた侑士は、分かれ道だからと名無しに手を振った。名無しも2人に手を振って1人、分かれ道を進んだ。
分かれ道は街灯がまばらで薄暗かった。人通りの無いその道に名無しの靴の音だけが静かに響く。ずり落ちそうな鞄を持ち直して、ぼんやりと前を見つめた。その中で考えるのは、大阪に住む彼の事。
「(蔵、今何してるのかな・・・)」
見上げれば12月の澄んだ空気を通して、何時もよりも美しく目に映る星空があった。そろそろ自主練も終わっているだろうから、彼も同じ星空を見ているのだろうかなんて考えて、自然と頬が緩んだ。
―――会えなくて寂しくない、と言えば嘘になる。だが、"会いたい"と言えばきっと彼が東京に来てしまうだろうと思う。そんなことはさせられない。だからといって自分から大阪に会いに行く、なんて行動力は私には無い。大阪には一度行ったきりでよく道も分からないし、学校まで押しかけるようなことをしたらきっと迷惑になってしまうだろう。付き合い始めの頃だって練習で疲れているのにメールなんてしたら迷惑になるだろうかと思って連絡するのを躊躇っていた時期もある。思考の堂々巡りを終えればいつも、こんな不安が残っていた。
―――私・・・愛想尽かされてないかな・・・
こんな考えがいつも脳裏を過ぎる。現在もまた然り。思考を落ち着けようと深呼吸をした。ほぅ・・・と息を吐くと、空気中に白くなった息が吐き出される。付けていた腕時計を見ると、何時もよりも少し遅い時間だった。
「(蔵・・・もう家に着いたのかな・・・?)」
そんなことを考えていた時だった。
――ブブブブブブブブッ!
制服のポケットに入れていた携帯が震え出した。そういえばマナーモードにしたままだったと思いながら携帯を開くと、画面には先程まで考えていた男からの着信である事を知らせる文字が表示されていた。驚いたが、急いで通話ボタンを押す。
「く、蔵っ!?」
『おー名無し。何や、そない吃驚したような声で』
「んーん、今丁度蔵のこと考えてたの。そしたら本人から電話がきたもんだから驚いちゃって(笑)」
耳元に大好きな彼の心地いい笑い声が響いた。それと同時に、先程まで感じていた不安からすぅっと開放されていくような感覚を覚える。
「もう練習終わったんだ。お疲れ」
『あー、今日は練習休みやったんや』
「そうだったの?」
そのまま今日あったことについての話に変わっていった。ふと後ろに気を向ければ、人の気配がある。自分以外にもこんな時間に帰る人がいたのかと思いつつ、耳元に聞こえる声に意識を戻した。
『今なんか考え事しとった?』
「え?あー、私の後ろの方誰かが歩いてるからさ、こんな時間に私以外にも帰る人がいるんだなーと思って」
『そうなん?でも、名無しも大変やろ、部員200人近くおるんとちゃうか?』
「そうだけどマネージャーは私1人だけじゃないし、ちょっと疲れてても蔵の声聞いたら疲れなんて吹っ飛んじゃうよ(笑)」
『・・・ゴメンな、名無し』
「え?何で謝るの?」
突然、沈んだ声で謝られた。驚きながらも問い返すと、こんな返事が返ってきた。
『部活の予定も合わんくて中々会えんし、な。東京と大阪なんて気軽に会えるような距離やないから・・・愛想、尽かされてへんかって・・・』
「え・・・?」
以外な言葉に思わず歩いていた足を止めた。彼も、自分と同じ気持ちだったのだろうか。いっそ今まで溜め込んできたものを口に出してしまおうか・・・。きゅっ、と携帯を両手で持ち直して、深く息を吸った。
『どした?』
「ん?いや・・・蔵も私と同じ事考えてたんだなーと思って、さ」
『同じ事?』
「私もさ、いっつも考えちゃうんだよ、蔵に愛想尽かされてないかなーって。蔵の声聞くと安心するんだけど、1人で帰ってる時とかなんとなく考えちゃうんだよね・・・」
『名無し・・・』
「私は蔵のこと大好きだよ。蔵は、さ・・・私のことまだ、ちゃんと好き・・・?」
言っ瞬間激しく後悔した。いったい自分は何てことを言っているんだろう。これじゃああなたの気持ちを疑ってますと言ってるようなものじゃないか!
「あ、いやっその・・・わ、忘れて!!今のなし!気にしないで!!(焦)」
『・・・・・・』
「く、蔵?」
「・・・アホか」
え、と声に出すよりも先に後ろから伸びてきた腕に、力いっぱい抱き締められた。呆然としていると、ふと目に入る左手に巻かれた包帯。・・・彼だ。
「アホか、お前は・・・」
なんでここにいるのとか、後ろを歩ってたのは蔵だったのとか言いたいことは沢山あったけど、耳元に直接響いてくる声に意識をすっかり奪われていた。そして、彼の口から紡がれた言葉に思わず、道端だということも忘れて、身体の向きを変えて正面から抱きついたのだった。
「好きやから付き合うとるんやろーが」
(あれ、でもこの後どうするの?)
(帰るのにも微妙な時間やから名無しん家に泊まろーかと)
(えええ!!?)
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1000000HITおめでとうございます!!
素敵な企画だったので参加してみようかなと思い、拙すぎる文才の人間ですが精一杯純愛について考え、こんなものを書かせていただきました。無駄に長くて申し訳ないです。
私が考えた純愛は、
実際の距離≠心の距離であること
です。あれ、沿ってますか・・・?
庭球の夢を書き始めたのがつい最近のことなので白石君のキャラが大変心配です(汗)
これからも一利用者として訪問させていただきいと思います!
最後にもう一度、1000000HIT本当におめでとうございます!!
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