俺は今、恋をしている
しかも、二人に



『鳳君、おはよう』
教室に向かう廊下で後ろから聞こえた声に振り向くと
そこには優しい笑顔
「名字さん、おはよう」
自分の声は震えてないだろうか?
こうして朝の他愛もない挨拶ですら、緊張するなんて
『今日も良い日になりそうだね』
そう言って外に広がる青い空に視線を移す君は、やっぱり綺麗だ



放課後の部活はいつもどおりランニングからはじまる
テニスコートから体育館の裏を通過して、校舎に近づくと
(また、聞こえる)
静かに、ゆっくりと流れるように聞こえるピアノの音
綺麗な旋律は、恋を歌う曲
今日はいつもより少し弾んだように歌うから
きっと何か良いことでもあったのかな?なんて
自分の頬が緩むのを感じるのだ

委員会があった日に一度だけ音楽室に近づいたことがある
その日もピアノが聞こえてきていて、
すこし緊張しながらドアに手を掛けたところで
「おい!長太郎」
驚いて振り向いたら、宍戸さんがそこにいた
「え?えっ?!」
混乱してるうちに
もう一つの扉が開いて、また振り返った時にはすでに遅く
走り去っていく小さな後ろ姿しか見えなかった
それから何度か見に行っても、いつも姿は消えている




まだ実態がつかめない音楽室の君と
同じクラスの憧れの君

僕は二人に恋をしている




(今日は元気だ)
(あれ?今日は大人しいな)

音楽室の君の音色は日々変わっていて
時に明るく弾んでいて、
時に静かに肩を落としているようで
そのたびに見えない君に、無性に会いたくなる



「あ…」
後ろ姿でわかる。名字さんだ
今日こそは自分から声をかけて、あの笑顔を見せてほしい
息を吸った瞬間に聞こえたのは自分の発した声ではなく
鳳君、おはよう!
クラスメイトの女子の声だった
「あ、あぁ…おはよう」
すれ違いざまに掛けられた声に反応して、もう一度君をみると
そこには背中ではなく、悲しそうな君の顔だった
(どうして、そんな顔をするの?)



少し長引いた委員会が終わって
いつものように音楽室に続く廊下を歩く
聞こえたピアノの音は、悲しい音
(どうして?)
ゆっくりと動いていた足が自然と止まる
また行ったところで、いつものように逃げられてしまうかもしれない

そうじゃない
本当は、
音楽室の君に与えている影響が、たとえば、奏でている音楽のように恋だったりしたら、
彼女がみている相手が誰なのか
それを知るのが怖い

それでも足を引きずるように動かして
音楽室の扉の前につく
ドアに手を掛けたまま
やはり動くことはできずにいたら

かたり

人の動く気配
そのあとにドアが開いて

君が現れた


『…鳳君』
「…名字…さん?」


見開かれた瞳をどうすることもできずに見つめていると
君はあきらめたように瞼を伏せて笑った


『ばれちゃったか』
「…いつも、ピアノを弾いていたのは」
『私だよ』

「…どうして、逃げたの?」
『怖かったから』

音楽室へ戻って、名字さんは白い鍵盤へ指をおく
そこからはいつも聞いていた、恋の歌

『きっと、今まで通りではいれなくなってしまうから』

聞こえる音は、穏やかで、優しい


「好きだ」


ピアノの音にかき消されないように
きちんと届くように
今言わないとだめだと思った
確信なんて、ないけれど






音が止んで
君は俺の腕の中
「誰を想って、弾いているの?」
そう問えば
頬を赤くする君は
小さな声で
俺の名前を発した


あぁ、愛しい、恋しい


恥ずかしがる君をピアノの前に座らせる
とまどいながらも、ゆっくりと紡がれる音に
今度は俺の音が重なった

「今度からは、俺も




二人で紡ぐ、



演奏が終わった後に見せた君の笑顔に
俺は一つ、唇を落とす






---------------

庭球夢は初めて書きましたので、
イメージと違うようでしたらごめんなさいです

純愛ということでしたが、
沿っていたでしょうか?
桜井の頭の中で
純愛ときいて一番最初に浮かんだのが青い恋でした
純…愛?!な話になってない事を祈る(笑)

最後になりましたが
庭球純愛様、おめでとうございます!
これからもイチユーザーとして利用させていただきます!!!!

100507



戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -