ああ不覚。なんたる不覚。
『清純。清純。清純。清純。清純』
「やっだー名無しちゃん、そんなに呼ばれると清純恥ずかしい」
『黙れ千石。
貴様が「きよすみ」なんて妙な読み方をしてるせいで私の満点だったはずの答案が台無しになったんだぞ。
「清純」の読みを「せいじゅん」じゃなくて「きよすみ」って書いちゃったじゃないか。なんだよ九十九点って。返せ私の一点』
私はノートに「清純」「せいじゅん」を殴り書き、
埋めたページを破ってはゴミ箱に捨てた。
ああ不覚。なんたる不覚。
赤ペンでチェックの後に「清純→せいじゅん」と直された答案が屈辱的だ。
「…………なんで、わざわざノート破り捨てるのかな?」
『後からノート見て残ってたら思い出して不快になるだろ』
ゴミ箱に淡々と流れ作業で蓄積されていく自分の名前と同じ漢字に少し傷付いたような千石は、
私の「不快」という言葉にさらに傷付いた様子で、
「…………も、もー!名無しちゃんったらあ!」
極めて明るい声で
おばちゃんよろしく、私の肩をおもいっきり叩いた。
意外にデリケートだよね。千石。
「こんなお馬鹿なミスするくらい俺のこと好きなくせにぃ!」
『はあ?』
百問テストで二十点しかとれないようなやつに馬鹿とか言われたくない。
罵声の一つでも浴びせようかと思ったが、
しかし
的外れな自意識過剰発言でもなかったので、
というか図星だったので、
私は少し素直になってみようかと、
つまり魔が差したのだ。
『――そうだね。私は「清純」が好きだ』
ノートに向かったままぽつりと、素っ気なく、たいしたことでもないように。
「きゃー両思い」とか。千石の軽口が飛んでくるのだと思い、身構えた。
でもそんな言葉は一向に音にならず、
無言を不審に思いノートから目を外し千石を確認すると。
「――――」
『――――』
驚き顔を真っ赤に染めて
僅かに腰を引かせていた。
予想外の反応に私はつられて赤く。
赤く。
赤く。
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お粗末さまでした。
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