いつも通りの放課後。
私は帰りの支度を終わらせ、すでに帰ろうとしている仁に話し掛けた。
「美味しいモンブランのお店見つけたんだけど、食べない?」
「…別にいい。」
「あ、そう。」
素直じゃないなぁ。食べたいなら食べたいって言いなよ。
分かるんだよねー、長年一緒にいると。どんな表情、仕草をしているかだけで思っていることが。
まぁ、怖いから言わないけどね。
知ってるよ。
弱点がモンブランっていう意外なところも。いつも栗を持ち歩いていることも。
幼なじみの私には素っ気ない態度しかとらないことは、いまだにわからないけど。
仁がモンブラン好きだから誘っただけなのに。断ってさっさとどっかに行くなよ不良野郎。
少しはこっちの気遣いにも気付け。
あー、口悪いのも移ってきてる。それもこれも、あの世話のやける幼なじみのせい。
帰る途中にモンブラン買って、後で持っていこうかな。
「ありがとうございましたー!」
「………。私何やってんだろ。」
あはは、無理やり持っていって押し付けてどうすんのよ。
なんか虚しくなってきたから自分で食べちゃおうかな。
一応二つ買ったけど…、私が一つ食べるとして、もう一つは帰ったら母さんにあげよう。
私は帰り道にある小さな公園に立ち寄り、少人数の子供達がサッカーをしているのを見つめながら一人でブランコに座っていた。
小さい頃から生意気だったよな、アイツ。
いつもアイツに負けてて、悔しくて。
ブランコもムキになってこいでた。
結局私がブランコから落ちて、足捻って動けなくなったとき、
黙って私の前に背中を向けて座って、ぶっきらぼうに「乗れ。」って言ってた。
あの時から力は強くて、体格もがっちりしてて。
私を軽々とおぶって、家まで運んでくれた。
あのとき、ほんの少し、「あぁ、これが男の子なんだ」って思った。
それから仁は背も高くなって、テニスを始めて、活躍したけど結局テニス部辞めて。
もうテニスはやらないって言ってたけど、よくテニスをやってる子達を見かけたらずっと見つめてた。
あ、ウズウズしてるんだ。ってわかった。
いつもそうだよね、素直じゃない。
思い出に浸っているうちに子供達はいなくなっていて、一人ポツンと公園に残っていた。
そうだ。さっきのモンブラン食べようかな。
なんか公園で一人、モンブラン食べてるとかかなり寂しい人だ。
まあいいや。
いっただっきまー…
「おい。」
もう口も開けて、食べる気満々でいたのに。後ろから思わぬ声が聞こえて、私はかなり驚いた。
「なんでここにいるの…?」
「…たまたま見かけただけだ。」
びっくりした…。
いきなり「おい」とか…。
「お前何やってんだ?」
いまでも唖然としている私に、仁は少し不思議そうに聞いてきた。
「え、何って、一人ブランコ…?でモンブランを…。」
「………はぁ…。」
珍しくため息をつき、呆れたようにもう片方のブランコに腰かける仁。
うわ、レアだ。
仁 on the ブランコ。
やばい。かなり笑える。
「なに笑ってんだよ。」
「いや別に。ていうかどうしたの?ブランコに座って。」
駄目だ。まだ笑いこらえきれない。
「………それ。」
「…?」
仁は私が持っているモンブランを指さした。
「これがどうかしたの?」
「…くれ。」
あ、欲しいわけね。
「はい、いいよ。あげる。まだもう一つあるから。」
「あぁ…、サンキュ。」
久しぶりだな、こうやって公園に二人でいるの。
まあ、この年して二人で公園なんて恥ずかしいや。色んな意味で。
「…おいしい?」
「まあまあだな。」
「えー、かなりオススメなんだけど。」
わかってる。そんなこと言ってても、本当はすごくおいしいとか思ってるんでしょ。
幼なじみをなめんなよ。
「名無し。」
「ん?」
「いつもありがとな。」
「…どういたしまして。」
もう一つ。キミのいいところ知ってる。
本当はすごく、優しいんだよね。
そしてすごく、恥ずかしがり屋。
モンブランコ
素直じゃないキミが好き。
---------------
私が思う純愛はほのぼの系だな。と、思いまして。まさかの亜久津で純愛です。
庭球純愛様、これからも頑張ってください!
そしてよろしくお願いいたします!
戻る