暗くなった教室から、そっと外を眺める。
「はぁ…」
「ため息吐くと幸せ逃げるよ?」
「そうなのよ、最近幸せが無さ過ぎて……って幸村!!!?」
「ふふ、どうかしたの?」
放課後、あたしは教室に残っていた。
部活を早退したら忘れ物があったのを思い出し、取りにきたから。
柄にもなくため息なんて吐いて、窓の向こうのグラウンドを見てて…そしたらそしたら、まさかの本人と遭遇。
「…どうもしてないよ。幸村、部活は?」
「そう?ちょっと怪我をしてしまってね…。保健室に来てたんだ」
「怪我!?大丈夫?」
「うん。ちょっと捻っただけだから大した事ないよ」
そうなんだ…。
ふと足元に視線を移せば、その足首は痛々しげに白い包帯で巻かれていた。
その白を見て、あたしはまた少し不安になる。
中学生の頃、幸村が入院してしまった時の事を思い出したからだ。
あの頃からあたしは幸村に惹かれていて、その話を聞いた時は頭が真っ白になった。
放っといたら何処までも増長しそうな暗い思考を止めようと、あたしは精一杯“いつもの”あたしを振る舞う。
「捻ったって…、それあんたの性格が捻ってるからよ」
「へえ……名字?何も喋りたくなくなるくらい君の思考回路も捻りつぶしてあげようか?」
「嘘ですご遠慮します」
あたしの冗談につき合ってくれる優しい幸村、すき。
本人も黒いんだろうという事は敢えて言わないでおく。
廊下から流れ込む空気は冷え切ってて、空は雪でも降ってきそうな程怪しい雲に覆われている。
「……何かあったのかい?」
「え?」
「元気ないみたいだから」
ちょっと驚いて、それからあたしは投げやりに笑った。
まったく、幸村にはかなわない。
「いいなぁ、と思って」
腕組みしたまま無言でこちらを見る幸村と目を合わせて、あたしは先を続けた。
「テニスや、スポーツって羨ましい」
「…それは、何で?」
「だって、誰の目にも見える“勝ち”と“負け”があるから」
「吹奏楽だって、コンクールなんかじゃ勝敗を競うんじゃないのかい?」
「コンクールだけよ、分かるのは。個人に点数が付くわけじゃないから、身内同士は本人や周りの感じたままの評価しか得られない」
それはその人の性格だったり、人柄にとても左右される。
曖昧でいて、厳格。
それでも皆、“勝ち”を求める。
「…いっその事、誰がどう見たって解る程ぼろぼろに負けさせてくれたら、……凄くラクなのに」
「…名字」
「上手くなりたい。それで、こんな事思わなくても済むくらい、強くなりたい」
幸村は、何も言わなかった。
そして暫く沈黙が流れ、ゆっくりと彼が口を開くのと同時に暖かい手が頭を撫でた。
優しく、優しく。
「俺は音楽について詳しくないけど、名字についてなら詳しい自信があるんだ」
「………へ?」
「誕生日とか血液型とか、そんなモノよりも遥かに大事な、目に見えない名字の“心”について俺は凄く詳しいよ」
「何言って…」
「名字って、吹奏楽大好きでしょ」
「…大好きよ」
「吹奏楽とスポーツは競う目的が違うんだ。テニスはたくさん練習して、“勝利”の為に努力する。だけど音楽は、誰かに聴いてもらう為に頑張るんだろう?勝つ為じゃない。“勝利”は、吹奏楽には必要ないんだ。だけど君が凄くその曲を好きになって、精一杯の大好きを人に伝えられたらそれがもう“勝ち”だよ」
精一杯の大好きを伝えるのが、勝ち。
幸村らしいね。
難しいけど、言いたい事は分かるよ。
あたしに、勝ちに執着するなって事だよね?元気出せって意味なんだよね?
「………ありがとう」
「うん。それとね、俺も伝えとこうと思うんだけど…」
「何を?」
「大好きの気持ち」
「……え?」
「俺はテニスも大好きだけど、名字が一番大好きだから」
「え!!!?……あたしも、幸村が一番大好き!」
「知ってる」
「ぇえええ!!!?」
「言ったろ?俺、名無しについて詳しいんだよって」
(大好きの気持ち)(失くしたくない)
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庭球純愛様、1000000hitおめでとうございます。
勝手に高校生設定ですみません!
ヒロインは吹奏楽部です。
幸村は凄く人の事を良く見てそうだな、と思いながら書きました。
私の思う“純愛”は相手を思いやれる“優しさ”なので、優しい雰囲気を目指したつもりが…ぐだぐだに…。←
駄文ですがno name様に提出します。
これからも頑張ってください!
2009-12-27 綺亜
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