思い出す あの頃を
何度も何度も忘れようとした
  忘れたかった

でも本当は…忘れたくない

  大好きな人だから






『次の試合もうすぐだね?』

「名無しが次の試合を観に来る確率は94%といったところか」

『はい、ハズレー!100%でした!』

「ふっ、そうか」


テニススクールの帰り道、いつも蓮二は私を家まで送ってくれる 前になんで?と問い掛ければ“お菓子につられて誘拐されそうだからだ”なんて言った彼のお腹にパンチを一発食らわした


「暴力的な女の子はモテないよ?」

『うるさいオカッパ』

「幼稚な悪口だな‥」


ムッ‥
蓮二が小学生なのに大人びいているだけだ


「なんだ?その不細工な顔」

『‥……………』


蓮二は意地悪だ
“なんでこんな奴好きになったんだろ?”
本当はわかってる、蓮二が私を送ってくれるのは彼の優しさで、こうやって私の嫌がることを言うのも私を怒らせたいわけじゃなくって、彼なりの相手とのコミュニケーションなんだ、と
いざって時には助けてくれるし、私が友達とケンカした時も、何も聞かずにずっと頭を撫でていてくれた


「名無し?着いたよ」

『え!?』


驚いて顔を上げれば目の前には見慣れた自分の家があって


「大丈夫か?ボーっとしてた」

『ごめん、大丈夫だよ』

「そうか‥なぁ、名無し…」

『な、に…?』


いつもとは違う、どこか悲しそうな顔でこっちを見る蓮二に ドキン と心臓が高鳴る


「‥いや、何でもない、またな名無し」

『‥?うん、またね、蓮二』


何かを言い掛けた蓮二は少し眉を寄せフッと笑いくるりと背を向け手をヒラヒラとさせ行ってしまった

トクントクントクン

あぁ、やっぱり好きだなぁ




次の日の朝、学校の門を通り教室に向かう。教室に着くと周りはザワザワとしていた


『おはよう、何かあったの?』

「あ、名無しちゃん‥それがね」


うそだ、ウソだ、嘘だ、


“柳くん、引っ越しちゃったんだって”


さっき聞いた言葉が何度も何度も頭の中で繰り返される

うそ、そんな訳ない!だって昨日、一緒に帰った、話した、またねって言った


そのまま走って柳の家に行きたかったのに、門の所で立っていた先生に止められてしまい、仕方なく教室に戻る
授業が始まる前に、担任の先生が悲しそうな顔をした


「みんなに言わなきゃいけないことがあります」

ドクンドクンドクン
‐聞きたくない‐
‐いや、嫌だよ‐

「柳くんですが、お家の都合で引っ越すことになってしまいました、本当に急なことで…、」


先生が何か言っていたけれど、聞こえなかった

その時から、私の時間は止まった



それから一年以上経って、私は蓮二の居なくなった緑川第三小学校を卒業した
テニススクールは、蓮二が居なくなってからも辞めることはなかった。もしテニスも辞めたら、本当に蓮二との共通点がなくなってしまうような気がしたから


「名無しちゃん、向こうでも頑張ってね」

「ずっと友達だよ」

『ありがとう、みんな』


小学校を卒業した私は、他の意味でも‘お別れ’だった


「名無しちゃんが引っ越しちゃうなんて」

『お父さんの仕事の都合』

「でも神奈川なら近い方だよね」

『うん、また遊びに来るよ』


そう、東京から神奈川に引っ越すことになったのだ


「中学はどこ行くの?」

『神奈川でね、私立なんだけど』


私が選んだのは“立海大附属中学校”テニスが強いことで有名だったのと、家から近いことから悩むことなくそこにした



入学式当日、
真新しい制服に腕を通した私はキレイに咲く桜の木を見上げる


『蓮二…』


ポツリ、久々に口にした名前、テニスが大好きで、意地悪で、でも優しくって、私の大好きな人の名前


「名無し…っ」


聞き覚えのある声にピクリ、と反応する。少し離れた場所に立ってこちらを驚いた様子で見ているのは紛れもなく

大好きな人


『れ、んじ…?』

「あぁ、久方ぶりだな名無し」


ドキン、あの日から止まっていた私の時間が動き出すと共に、忘れたくても忘れることのできなかった気持ちが溢れるように湧き出る


やっぱり私は、今でも貴方を愛してる




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最後まで読んでくださりありがとうございます!
私の中の純愛は「すぐに心変わりしたりするのではなく忘れられない、一途に思い続ける」そんなことじゃないかと考えました。
キャラは初蓮二です。あまり出ていませんが←
とにかく、書き終えることができて良かったです!
そして庭球純愛様、1000000hitおめでとうございます!素敵な企画に参加でき、本当に嬉しいです。


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