「ミズキ、どうじゃ。ダイアゴン横町は」
「……凄いですね」
確かにすごい。映画じゃ分かんなかったけど、この活気。あちこちにある見慣れないものたち。……本当に魔法界なんだ。
「ぜひ、君にも魔法界を気に入ってもらいたいものじゃな」
ニコリとダンブルドアが微笑んだ。
「今日はの、もう一人一緒に行く約束をしとる者がおるのじゃよ」
「一緒に…?」
「そうじゃ。その子もなかなかわけありでの」
そう語るダンブルドアは古びた店に入って行った。……ここって、“漏れ鍋”…って書いてる?
「リドル、準備は出来たかの」
「はい、先生」
リドル……?どっかで聞いたような名前。声の方に目を向けると……美少年がいました。
「あの……あなたは」
「私は…「ミズキ・レイブンクロー嬢じゃ」
ダンブルドアが私の言葉を遮るように言った。
「レイブンクロー?それって寮の名前じゃ…―――」
「彼女はレイブンクロー家の末裔じゃ」
……本当、ダンブルドア。コイツの目的が掴めない。何で、ここで正体を言うわけ…一応、狙われの身って言ってたじゃない。でも……私が娘ってことは隠すわけか。まぁ、この姿じゃ賢い選択だと思うけど。
「よろしく、ミズキ・レイブンクロー嬢」
「…あなたは」
「僕は、トム・リドルです」
「…よろしく」
「はい」
彼、トム・リドルはまるで人形のように綺麗に笑った。……違和感は感じまくりだけどね。手に取るように分かる。これが人を欺くための笑みだって。
「じゃあ、わしは教科書や鍋を買うて来るからの。ほら、そこで制服を採寸してきなさい。そして、オリバンダーの店で杖を買ってまたここに集合じゃ。リドル、場所は分かるじゃろ?」
「はい」
「じゃあ、頼んだぞ。お金はリドルが持っておるからの」
ダンブルドアは人ごみに紛れて見えなくなってしまった。
「じゃあ、行こうか。ミス、レイブンクロー」
「……やめて」
「え?」
「その呼び方も。……そのあなたの怖いくらいの作り笑顔もね」
その瞬間、リドルの目は見開かれた。
「…何言ってるの」
「…気付いてないのか思ってたの?馬鹿じゃないの」
「……チッ」
リドルの深い紅い眼が妖しく光を灯した。
「君、素敵だよ。僕のこと、見破るなんて。結構、自信あったのに」
「よく言うよ」
「…先生だって、欺けた。なのに…君にばれるなんて、ね。気に入ったよ、ミズキ」
リドルは楽しそうに、(だが腹黒そうに)ニヤリと笑った。コイツ…腹ん中、真っ黒だな。だけど…―――
「そっちの方がいいよ」
「……なにが?」
「“表情”。すっごく悪そうな顔だけど、私はそっちのアンタの方が好きだよ」
「君で最初で最後にするよ。こんな顔晒すのはね。だから…―――僕のパートナーにしてあげるよ」
「パートナー…?」
「そう、パートナーだ」
こっちを振り返り、リドルは言った。その笑み……私は、何か重要なことを忘れている気がする。とても、大切な。
(正体を思い出すのはずっと先の話)