▼ 超問題児に恋をした

 


お世辞にも暖かいとは言えない風がぴゅう、と吹きすさび、俺の制服の隙間を容赦なく通り過ぎる。
もう季節は冬で、こんな風通しの良すぎる場所では風邪を引きかねない。
俺は今、昼休憩に風の強い屋上に居た。

「今日は自信作なんだ。この卵焼き、中にチーズをはさんで――」

思わず寒さの所為で悪態が口をつきそうになる。
でも、楽しそうにお弁当の中身を見せてくれるコイツの笑顔を守る為に、俺はすんでの所でその悪態を呑み込んだ。
コイツのこんな嬉しそうな表情を見られるのは昼休憩の時と、放課後の誰も居ない時間だけ。とってもレアなのだ。
そして、それは俺だけが見られる表情だというのだから、堪らない。

「如月、どうか……した?」

「あ、いや……なんでもないよ、弥生」

俺の態度がおかしかったのか、怪訝そうな視線を投げる弥生に、俺は慌てて繕った笑顔を浮かべた。

弥生の中では、まだ俺は“真面目な委員長”なのだ。
それを忘れちゃ、いけない。


 ※ ※ ※ ※


弥生 吉良(やよい きら)との出会いは、1週間前。
担任の懇願から始まった。

「弥生? ああ、あの問題児ですか……」

「頼むよ、如月。ちょっとでいいから、アイツに授業出るように言ってくれないか。お前だけが頼りなんだよ!」

担任の他力本願な頼みには正直いらっとしたけど、俺はそんな黒い感情はまったく感じさせない、華麗な優等生スマイルを浮かべた。

「いいですよ。僕でよければ」



屋上は代々、この学校の生徒の間では不良のボスが牛耳る場所だと思われている。
しかし実際は、夏は灼熱、冬は極寒の環境の悪さに、まるで一般生徒(不良さえも)が近寄らない開かずの場所と化していた。

――そんな屋上に、弥生は居た。

北風が吹きすさぶ中で、影になる場所をわざと選んでいるのか? と、そう思うのも無理はないほど、建物の隅っこの壁際に小さくなって座っている。
「一匹狼」、「孤狼」、「歩く喧嘩マシーン」、「魔王」。弥生には沢山の二つ名がある。俺が知っている限りでも、物騒なものばかりだ。
つまり、弥生は「超問題児」。
いっぱしの不良でも避けて通る、まるでジャックナイフのような男。

……そう、一分くらい前まで、俺の弥生のイメージはそうだった。

教室に居るだけで生徒が縮み上がる、そんな感じの存在。……だったのになぁ。

「可愛い弁当……」

「……!? だれ……だ?」

俺の声に飛び上がるくらい驚いて、弥生はこちらを見上げた。限界まで広がっているだろう弥生の瞳は、普段の射殺せる勢いの鋭い眼光とは似ても似つかない、円らで可愛いイメージを俺に植え付ける。
そして、その手の中で広げられていた弁当――まるで女子が作るようなカラフルなものが、更に以前の俺の中での弥生のイメージをことごとくぶち壊した。

「弥生、だよね?」

「そうだけど……」

「一緒に、弁当食べてもいい?」

俺はその時、購買でパンと珈琲牛乳を買い込んでいて、弥生と喋ったあとで食べようと思っていた。けど、何故かいま一緒に食べようとか、言ってしまっている。
あー、これ、俺殴られるか? いくら弥生が可愛く見えたからって、あの噂が嘘だという証拠はない。

いきなりぶちギレた弥生に殴られるのを覚悟していた俺は、その時見えた光景にかなりの衝撃を味わった。

「か、勝手にすれば……いい……」

視線を泳がし、照れているような恥ずかしがっているような、曖昧な表情。うっすらと頬に朱がさした弥生の可愛さに、俺は不覚にもときめいていた。

まるで重ならない。噂とはまったく違う弥生の印象。
照れ屋で、口下手。そして人見知り。
そんなイメージ。多分、間違ってはいないのだろう。
初めての感情。まるで電撃のように俺の中を走り抜けたもの。

それは確かに“一目惚れ”という感情だった。


 ※ ※ ※ ※


あの衝撃的な邂逅から一週間。
俺は見事、弥生と仲良くなることに成功した。
まだ“友達”とも言えない微妙な仲だけど、そこそこ打ち解けていると思う。

弥生は俺が見当をつけた通りに、照れ屋で口下手、人見知り……その上、可愛いものが大好きだという。
最近巷でよく聞く、乙女な男子というやつらしい。

「如月だけ、だ……俺とマトモに喋ってくれるの」

にっこりと笑ってそう言った弥生に、俺は柄にもなくドキドキした。キュンとした、と言うべきかも知れない。

兎に角、弥生は可愛いヤツだった。

最初は辿々しい会話だけで、まるで俺が怯えさせているような感じだった。
それが変わったのは三日ほど経った頃で、弥生が俺に弁当を作ってきてくれるようになったのだ。

「俺、こんな見た目だし……それでよく絡まれるから相手してる内に勝手に不良のレッテル貼られて……。教室行っても怖がられるし、だから……これからも、一緒に弁当食べて欲しい……」

「勿論だよ、弥生。僕で良ければ、毎日食べよう!」

願ってもない申し出だ。これでゆっくり、弥生を俺のものに出来る。

見た目と中身が合わない。それは親友に言われ続けた言葉だ。
俺は自覚している。決して自分が善人ではなく、皆が思っているような“優等生”でもないことを。
都合よくその事実を隠して、俺はこれからも生きていく。
それでも……いつか、弥生にだけは俺の素を見せてもいい気がする。

「如月、さっきから考え事か? ……それとも俺の弁当、不味い?」

「そんなわけないじゃないか! 弥生のお弁当、最高だよ」

しょんぼりと肩を落とす弥生に慌てて笑みを浮かべながら、俺はこれからどうやって弥生と親交を深めるか、思案に耽るのだった。


End


お粗末でした!
まだ恋人未満な二人ですが、これから段々と関係が変わっていくでしょう^^
有難うございました。




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