放課後。秋も深まって来たのか、太陽は沈みかけ教室はオレンジ色に染まっている。

「委員長お願いっ」と先生に頼まれたプリントのホッチキス止めが漸く終わる頃。
数十分前まではまだ何人か残っていた教室には、私と給食の時だけ目を覚ます彼の2人だけが取り残されていた。


「いつもさ、髪結んでんの?」

『え』


さてさて先生にプリントの束を突き返さなきゃと席から立ち上がろうとすると、さっきまで机に突っ伏して寝ていたはずの彼、佐野くんが、背後で私の両の三つ編みを弄っている。その状況に理解が追いつかず間抜けな声を出すと、またも彼が話しかけてくる。


「いつも大変じゃね?三つ編みって」


『う、うん。あ、でも、もう、慣れちゃったから…そんなに、大変では無い、かも…』


「ふーん、そうなんだ」


一体何の目的でこんなことを聞いてくるのか分からないけど、とりあえずしどろもどろに返答してみる。校内でも学校周辺でも有名人の佐野くん。クラスが一緒になってもう半年くらい経つけれど、いつも寝ている彼と話しをしたのはこれが初めて。そんな彼と会話をし、何故か髪を触られているという事態に緊張してしまう。
ただでさえ学級委員長として煌びやかでもなんでもない真面目な学校生活を送る私にとって、同級生の男の子との関わりなんて、宿題を集める際や行事の際に少し話す程度。そんな私がなんとか返事を返せただけ褒めて欲しい。

後ろを振り向けない状態でそんなことを考えていると佐野くんの手がぴたりと止まる。


「ね、髪解いてみていい?」


『え!あ…う、ん』


そう返事をすると今朝きっちりとヘアゴムで縛った結び目に佐野くんの手が移動する。割と固めに縛った筈なのに、手先が器用なのかさっさと解いた彼は、そのまま手櫛で私の髪を梳く。

髪に体の全神経が集まったような感覚。すっと彼の手が上から下に流れる度に肩が跳ねてしまいそうになる。この状況とそんな自分が無性に恥ずかしくなる。顔を真っ赤にし俯いていると佐野くんから声をかけられる。


「よし、できた。ちょっとこっち向いてみて」


言葉の通り顔を上げると、夕日に照らされた佐野くんの金髪がきらきらと輝いて見える。適切な表現かは分からないけれど、最近帰り道によく見かける稲穂の様だと思った。


「うん、やっぱり俺の思ってた通り。いいんちょー髪下ろしたらもっと可愛いじゃん。あ、メガネも取って」

『う、うん?』


言われるままにメガネを外す。あのまま佐野くんの顔を見ていたら恥ずかしさのあまり脳がパンクしてしまう所だったけれど、解像度が下がりぼやぼやした視界になったことで回避することが出来た。


「うん、やっぱ可愛いじゃん。」


『え、えと、その』


「今度それで学校来なよ。俺そしたら1時間くらいは起きてられるかも」


ぼやけた視界で彼がへにゃりと笑う。そう言えば担任の先生に「俺からは佐野に注意できないから(怖くて)、委員長なんとか1時間だけでも起きて授業を受けるように言ってくれないか?!頼む!」と言われていたのを思い出す。一度も会話をしたことも無く、クラスにいても寝ているだけの彼にそんなことを言いに行けるタイミングも勇気もなかった私は「無茶ですよ…」と言って断ったのだけど。彼はどこかでこの会話を聞いていたらしかった。


『あ、あの佐野くん』


「マイキー、遅くなった迎えに来たぜ


「おー!ケンチー!」


私の小さな声は突如現れた別のクラスの男子の声によってかき消される。目の前にいた佐野くんは直ぐにその声に返事をし、駆け寄っていく。


「んじゃ、いいんちょー、また明日」


『あ、あの!』


そのまま挨拶を済ませ教室を後にしようとする彼に、席から立ち上がって思わず声を掛ける。
視界は未だぼやけたままだったけれど、彼と、加えてもう1人が私の方を向いたのが分かった。


『え、えと、その、あ、明日!これで学校行くね!!また明日!!』


「おう!楽しみにしてる」


じゃーな、と手を振る佐野くんと不思議な顔をしている(ように見える)ケンチー君。言い終わった後彼らは教室を後にし、夕日に照らされた教室に1人きりになった私は大きく溜息をつきながら席に着いた。
両手を頬に当てるといつもより熱い。鏡が無いから確認は出来ないけど、きっと顔が真っ赤になっているに違いない。


改めてプリントを纏め、席を立つ。
職員室まではさすがにメガネが無いと歩行に支障をきたすので掛けるが、髪の毛は解いたまま。

少し薄暗くなった教室を私も後にした。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -