東卍きってのぴゅあぴゅあぼーいの恋は多分きっとこんな感じ。



4時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、先生が教室を出た瞬間、待ちに待ったお昼タイムに一気に教室内は騒がしくなる。

「紗良ー!お昼たーべよ!」

『ちょっと待って、今お弁当持ってそっち行くから!』

仲良し4人組グループのうちの1人、里奈に声をかけられ、私もさっきまでの授業の教材類を机に直し、既にグループの人数分の机がくっつけられた島に向かう。


「はぁ〜さっきの現国、まじだるかったねー」

「ほんそれ、紗良っちとか不意打ちで当てられて、頓珍漢なこと言ってたしね笑」

『うぅ、、恥ず、、さっきのは忘れて…』


いつもの様にそれぞれのお弁当を広げまずは世間話から。大体その日の4限目の授業の愚痴やら、SNSで流行っている動画なんかについて軽く話した後…。
さてさてとばかりに本題が始まる。


「…で、皆さん、そろそろ本題に移りましょうか。」

グループの仕切り役、湊が箸を置き漫画のインテリキャラのようにメガネをくいっとあげる。それと同時に、私たちも口にほおばっていたものを喉に流し込み、同じように箸を置いた。その様子を確認した湊はすっと私たちにスマホの画面を見せてくる。映っていたのは金髪の少し小柄な少年が、大柄な目付きの鋭い少年の肩によりかかってスヤスヤと眠っている様子だった。


「ぐはっっ」

『み、湊っっ里奈がっっ余りの尊さでっ』

「我が一生に一遍の悔いなし…」

「あかんっ尊死してまうでこれ!」


その写真はいわゆる最近世間を賑わしている東京卍會の総長【佐野万次郎】君と、副総長【龍宮寺堅】君のツーショット写真。そして、その写真を見て悶えている私たちは、まぁお察しの方もいるだろうが、彼ら【東京卍會】のオタクであったりする。




【清く正しく美しく】がモットーである我らが菫女子学院(通称 スミジョ)。都内でも有名な私立学校であり、中高一貫の女子高であるスミジョは言うまでもなく男子禁制。学園祭であろうと父兄以外の立ち入りが禁止されている正真正銘の乙女の花園である。
しかし、そんな彼女たちの間で今熱いムーブメントになっているのが【東京卍會】(通称 東卍)である。
都内にいくつも存在する半グレ集団の1つである東卍は、その中でも女性に暴力を振るわず、争いに関係のない一般人を巻き込むのを良しとせず、加えてメンバーの圧倒的ビジュアルの良さから、巷の女子中高生から絶大な支持を得ていた。
そしてスミジョも例に漏れず現在東卍が大人気。出処の分からないメンバーの写真が出回れば飽きるまで眺め、街中でメンバーに幸運にも出会ってしまえば静かにそのご尊顔を拝む、という熱心な生徒(信者)が多くいる。


「はぁ〜マイキー君とドラケン君のツーショット…相変わらず尊すぎるよ…」

「いや〜ほんとね、、私三ツ谷さん推しだけどこれはあかん、、悶えるよな」

写真の威力が凄すぎて、湊のスマホを3人で取り囲む。

「はいはい、後で全員に送るからとりあえずハウスハウス!」

渋々スマホから離れ、大人しく居住まいを整える。
醜態を晒してしまったが、一応こう見えて皆さんいい所のお嬢様なのだ。「べ、別に何もなかったですよ?」と猫を被るのはお得意である。


「湊〜あんたまたどうやってこんなの手に入れたのよ!」

「ふっふっふ〜それは内緒!今回はね、これ以外にも何枚か秘蔵写真があるの!全員のスマホに送ったから見てみ?」


それと同時に全員のスマホに一斉に通知が届く。画面をタップして開くと先程の尊いお写真の他に何枚かの写真も送られてきている。


「ひゃ〜〜〜!三ツ谷さんじゃん!舌出してる可愛いぃぃえ、マイキー君の私服可愛いい」

「ばばば、場地くんとち、千冬きゅんのツーショットも、、え、なにこれ焼きそば??食べてるの可愛いぃぃ」


湊から送られてきた写真に、里奈と夏奈が鼻息荒く悶えている中、湊が「紗良にだけ」というメッセージ付きでもう1枚写真を送ってくる。

『!!これ!!』

「ふっふ〜ん、ちょっと他のやつよりも粗めだけど、数少ない推しの写真でしょ?どうよ、嬉しいでしょ?」

『ほんっっと嬉しいぃありがとう、、全く出回らないから…』


暗闇の中での撮影なのか、他の写真よりも鮮明ではないけれど、写真には確かに青髪の少年が写っている。
はっきりと顔は見ることが出来ないけれど、初めて見たあの時と同様に不機嫌そうな彼の様子が伺えるような気がする。
思わず口元が緩んでしまい、隣に座っていた里奈が「どうした〜?」とスマホを覗き込んでくる。

「どれどれ〜あ!ソウヤさんじゃん!」

「紗良っちの推しじゃん!写真珍しいね!良かったねぇ〜」

『ほんっとに嬉しい、、これで記念すべき10枚目!』

良かったねぇと夏奈に頭を撫でられながら、その記念すべき10枚目の写真を保存し、流れるような手さばきでスマホのアルバムを開く。【ソウヤ様】と名前のついた写真フォルダにはこれまで湊から頂いた9枚の写真。ほとんどはブレたり、暗がりだったりでソウヤさんと言われれば分かるといったような写真だけれど、あの時以来一度も会えていない彼の生存確認が出来るだけでも有難かった。


「にしても、ソウヤさん推しって珍しいよね。大概皆、東卍ならマイキーくんとかドラケンくんとか、三ツ谷さんとか推してるでしょ?あー、あと、隣のクラスの子とかは【愛美愛主】とか他の組推しもいるけどさ。」


完全に溶けきった顔をしている私を見ながらそう言う里奈に、湊が代わりに「その問いには私が答えましょう」と、またメガネをくいっとする。が、絶対に余計なことまで言いそうな気がしたので、『い、いえっ!結構です、私がっ』と一気に思考を現実世界に引き戻した。


・・・・・・・・・

あれは確か二か月ほど前。
冬が近づき日の入りも早くなってきたくらい。いつもはスクールバスに乗って下校するのだけど、その日は高等部で保護者会があったせいか乗客が多く、バスを諦め徒歩で帰路に就くことにした。学校から最寄りの駅までは歩いて40分程。そこまで苦でもない距離だったし、何よりまだ外は明るかったので、イヤホンで好きな音楽を聞きながら制服で夕日に染っていく街を歩くのは所謂【青春】をしているようで気分が良かった。
プレイリストの8曲目のイントロが流れ始めた頃。ピアノだけの演奏でしっとりした雰囲気かと思えば、Aメロに入った瞬間心地の良いドラムのリズムと同時にギターやベースなどの楽器隊と一緒に女性ボーカルの切なくも強い歌声が鼓膜を震わす。
段々と夜へと表情を変える空を見つめながらその曲を聞いていると、まるで自分が物語の主人公になったような高揚感に包まれた。
そしていよいよラストのサビ、口パクで一緒になって歌い出しそうになった時だった。
突然肩をポンポンと叩かれ、後ろを振り返ると、下卑た笑みを浮かべたいかにもといった風貌の輩三人衆が目の前に立っていた。

『…何か用ですか…?』

イヤホンを外しながらそう言うと、気持ちの悪い笑みを向けながら三人衆のリーダー格の1人がオラつきながら話始める。

「用ってかなぁ?こんな暗がりにお姉さん1人って危ないっしょ?俺たちがお家まで送ってやろっかなぁって。なぁ?」

「そーそー!てか、あんた暇?これから俺らとカラオケ行かない?」

「てかあんたスミジョっしょ?ジョシコーのオジョー様じゃん〜!俺らが色々教えてやるから遊ぼーぜ?」

リーダー格の問いかけに呼応するように残りの2人もヘラヘラと笑いながら巫山戯たことを言い始める。明らかに頭の悪そうな会話内容や話し方に辟易してしまう。彼らの着崩した制服を見るに、どうやら余り良い噂を聞かない隣町の男子高であることが見て取れ、面倒な奴に絡まれたと溜息をつきたくなった。

『えっと、家はもう…あ、あそこなんで!送ってもらわなくても大丈夫です。あと、用事もあって急いでるので』

誰の家かは知らないけれど、適当に目と鼻の先に見えた住宅を指さし、さっさと彼らに背を向け歩き始めようとすると「んなこと言うなよ〜、遊ぼーぜ〜?」とすぐさま回り込まれ退路を塞がれてしまう。今度は何も返答をせずに、黙って彼らの間をすり抜けて行こうとすると、腹を立てたのか1番ガタイのいい男に「無視すんなよ」と腕を掴まれる。
思った以上に力が強く身の危険を感じたので、今度は叫んで助けを呼ぼうとするが、こんなことには慣れているのか、もう1人の男にいち早く口を塞がれる。


「はい、ざんねーん〜、大人しく着いてきたらこんなとこでヤルつもりは無かったのになあ〜?」

「はいは〜い、人すくねーとこ狙ってんだから、叫んでもムーダ!」

「おいお前ら、あっこ連れてくぞ」

頭上で末恐ろしい会話が繰り広げられ、なんとかして身をよじりこの場から立ち去ろうとするが、盛りのついたバカ男子3人をか弱い女子学生である私が何とかできるわけも無く。徐々に人目につかなさそうな茂みに追いやられていく。

(いや…!)

声にして叫ぶことも叶わなず、もうどうしていいか分からず俯く。瞳には段々と涙がたまっていき、流れ落ちる…その瞬間だった。
「泣いてんのー?」と気持ちの悪い顔を近づけてきたリーダー格の男の顔が突然消え、その数秒後に呻きに似た声が聞こえた。…一瞬の出来事だった。
何が起こったのか分からず呆然としていると、また新たな呻き声と共に私の拘束が解かれた。

(なに…!!今度は何…!!)

顔を上げるのが怖くて拳を握りながら地面を見つめていると、自分以外の足が視界に入った。


「大丈夫?」

予想以上に優しい声音に、この人はきっとさっきの人たちと関係ない…と考えが至る。
ゆっくりと顔を上げ、声の主の方を見つめると目つきは鋭いけれど、とても心配そうに私を見つめる男の子が立っている。年は私と同じくらいか。髪色は水色、【双】と【悪】の二文字が刺繍された黒地のスカジャンを羽織った彼は見た目の厳つさに反してとても優しそうな人柄を全身から滲ませていた。

『は…はい、あ、りがとう、ございま、す』

少し震える声でなんとか答えると、悲しそうに眉を少し下げた彼は「災難だったね」と呟いたかと思うと、それ以上何を聞くでもなく、クマのキーホルダーのついた見覚えのあるスクールバックを手渡してくる。
恐怖のあまり忘れていたが、男どもに襲われかけた手を離してしまっていたようだ。

「道路脇に落ちてたから、あんたのでしょ?」

そう言う彼にありがとうございます、と2度目のお礼を言い鞄を受け取ると「んじゃ、危ないし送っていくよ」と茂みから出ていこうとする彼。未だに事態に追いつけず、もたもたしていると「早くしないとそいつら起きて面倒なことになるし」と急かすように言われたので、彼についていくようにその場を後にした。



茂みから出ると、辺りはあっという間に暗闇に包まれていた。
ちらほらと電灯の明かりが道を照らしてはいるが、まさに一寸先は闇といった感じだ。
無言のまま先を歩く彼は、初めこそ

「家どこ?」

『えっとここからは歩いてだと少し距離あって』

「電車で来てるの?」

『そうです、最寄りは××駅で。』

「こっからもう少しだね、そこまで送る」

『あ、ありがとうございます』

なんていう会話をしてはいたが、それが済むと途端に無言になった。
私も私で、あんなことがあったばかりということもあってとても楽しい話題を提供できるような精神状態でもなく。暫くはそのままの状態でとぼとぼと歩を進めていた。


「じゃ、俺はここで。」

『本当に今日はありがとうございました…!』

あっという間に駅に着き、今日で何度目かのお礼を言う。
一刻も早く今日の疲れや恐怖心を拭い去りたい…お風呂入りたい…そんな思いから足早に改札を通ろうとした。しかし、先ほどの暗がりとは打って変わり、駅構内の煌々とした明かりに照らされた彼の手が見えてしまい、思わず引き返してしまう。

『あ、あのその手!!』

「あ、うん、ちょっと切れただけだから、大丈夫」

『もしかしなくても今日のあの男たちをやった時のですよね…!私のせいだ…ごめんなさい…』

ポケットから乙女の嗜みであるハンカチを取り出し、近くの女子トイレへ急いで走る。
冷水で濡らし、軽く絞った状態でまた彼の元へ駆け戻り、患部のある右手にぐるぐると巻き付けた。

「こんなの大したことないよ、ハンカチ汚れるし…」

『ハンカチくらい全然いいんです、私のせいでケガしてしちゃったのに…』

申し訳なさそうに自分のぐるぐるに巻かれた右手を見つめてそう言う彼に、半ば押し売りのようにハンカチを巻き終えた私は改めて彼に向き直った。

『本当に本当に今日はありがとうございました…!』

ぺこりとお辞儀をして、今度こそ改札を通り、駅ホームに続く階段を上がろうとした時だった。

「な、名前、聞いてもいい!!?」

背後から少し大きな声で呼び止められ振り返ると、なんだか少し頬が上気した彼が右手を挙げて

「は、ハンカチ返さなきゃだし…」

とさっきよりは少し小さくなった声で続ける。
ハンカチくらい全然返してくれなくたっていいのに。
そう思ったけれど、なんとなく彼に私の名前を知っていてほしくて、私も人目を憚らずに彼の声量に負けない声で答えた。

『し、東雲 紗良しののめ さらです!』

それと同時に「3番線に電車が参ります」という構内アナウンスが流れ、私は急いで彼に背を向けて階段を駆け上がっていった。


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「きゃー!何それ王子様じゃん!!」

「え、てか普通にやばくない?無事でよかったね紗良」

「もうこの話私は10回は聞いた。」

一通り東京卍會の"天使の心"こと私の推し河田ソウヤ様との出会いをお話しすること数十分。
聴き終えたお三方の感想はそれぞれだった。しかし、三者ともに共通していた感想がひとつだけ。

「あんたは何で名前聞かなかったのよ!」

「そうよ!普通はあんたが名前聞いてお礼しに行かなきゃ!!」

「てかあんたこの情報通、湊様のお陰で誰だったのか割り出してあげたんだからつべこべ言ってんと早う行けって!」

『だ、だ、だって、それはそうなんだけど、なんかもうあれから好きになり過ぎちゃって、ソウヤ様がまさか皆が推してた東卍の肆番隊隊長とか知らなかったし、特攻服似合い過ぎてるし、怒り顔なのにめっちゃ皆に優しいのもなんかギャップで可愛いし、髪の毛もこもこのふわふわだし、撫でてもじゃもじゃしたいし…』

「最後らへん犬への感想じゃん」

「いやいや、推す前にやるべきことがあるだろうに」

「いいぞいいぞもっと言ってやれ」

三者三様に言いたい放題言ってくる友人たちに、赤らんだ顔を両手で覆い隠す。
仰っていることは尤もだ。自身の危ない所を助けてくれた恩人に対して私は未だ何のお礼もしていない。
口ではそりゃ何度も述べはしたが、ケガをしてまで助けてくれた人に対してはかなり色々足りない気がする。しかし、そうは言っても相手は東京卍會の隊長クラス。会いたいと思ったとてそう簡単には会える人ではないだろう。何せこの2か月間でさえ一度も彼の姿を私は捉えていないし、普段どんなところに通っているのか、中学はどこなのか、そもそも行っているのか、それすらも知らないのだ。
ぶつぶつと言い訳を羅列し、『ほら、無理でしょ…?だから私は今後の彼の幸せを願い、東京卍會の発展をお祈りしながら推し事に専念するの…』と言うと、何やら情報通の湊がスマホを睨みながら思案し始める。

「…もしかしたら、近々会えるかもしんない」

『ふえ?』

「え、湊っちそれがち??」

「まってまってわんちゃん場地くんと千冬きゅんにも会えたりしない??!」

その発言に、各々にテンションを高ぶらせる里奈、夏奈、私に対して未だに真剣な表情をした湊は、一度スマホで何か確認したかと思うと

「私の人脈舐めないでよ。来週の土曜、18時くらいから、皆予定空けといて」

と、またお決まりの眼鏡をくいっとあげる仕草をする。
きゃーっ!と他のクラスメイト達の迷惑にならない位の声量で叫ぶと、「ほら、そろそろ時間やばいよ、昼休み終わっちゃう!」という湊の発言にはっとなった私たちはまだほぼ手つかずのお弁当を急いで頬張った。

(そ、ソウヤ様に会う…!!)

既に緊張しているのか変な汗と動悸と、そして胸の高鳴り。
突如として訪れた絶好のチャンスに礼を言い、湊様を拝み、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながら最後の一口を流し込んだ。


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「アングリー、お前いつまでそのハンカチ持ってんの?」

部屋のソファで仰向けになり、今日発売の週刊誌のページをパラパラと捲っていた俺の兄、河田ナホヤことアングリー。真剣そのものと言った面持ちで見入っていたはずの兄は、いつの間にか俺の方を向いていて、ハンカチを握りしめてはため息をつく弟に何度目か分からない質問を投げかけてくる。

「…多分、2か月くらい」

「え、やばいよそれ、ストーカーじゃねえか」

「そんなんじゃないよ!怒るよ!」

お道化た調子でかなり失礼なことを言ってくる兄は、勿論このハンカチがどういった経緯で俺の元に今現在あって、なぜ俺が未だに持っているのかも全て把握済みである。
双子とは厄介なもので、1を言うと10どころか100くらいまで理解されてしまう。
それが普段は居心地が良くて便利なのだが、こういう話題になった途端面倒なことになってしまう。

「名前だって、制服からスミジョってことだって分かってんだから会いに行きゃいいのに」

「…それができたら苦労しないよ…」

「何が苦労だ。簡単だろ?助けただけのつもりが、まさかの一目惚れしちゃいました、付き合ってくださいっていうだけなんだから」

「!!ちょ、スマイリー!!?」

にやにやしながらそんなことを言う兄に思わずこっちが恥ずかしくなる。
そう、兄の言う通りそうなのだ。
あの時、不良たちに絡まれた女子高生を助けたのは本当に純粋に善意だった。
道端に落ちているスクールバックを見つけ、それについていたキーホルダーから女の子のものだろうなと予想をし、茂みに入ってみれば案の定ガラの悪い男たちと俯き泣きそうになっている女の子。
思わず頭に血がのぼってしまい、後先考えずに男たちを気絶させ、面倒なことになる前に襲われていた女子とその場を立ち去った。…殴ってしまった男たちもまあ心配ではあったが自業自得だと思うことにした。
そんなこんなで、まだ震える声の彼女を一人返すわけにはいかないと、とりあえず最寄りの駅まで送り届けた。が、駅に着いた途端俺の手の傷に気づいた彼女は持っていたハンカチを濡らして俺の手に巻き付けて満足したように帰っていった。

そんな彼女の駅の構内へと消えていく背中を見送りながら、あっという間に俺は恋をしてしまっていたようだった。


「あれから2か月だろ?しかもハンカチ返すって言ってんのに、お前持ったままじゃん」

「だ、だって、い、今さら俺みたいなのが会いに行って返すのも…向こうがビックリしちゃうかもしれないし」

それこそ兄の言うように、彼女にストーカーだとか思われてしまっては悲しすぎるし、そんな勘違いをされては告白をする前から玉砕してしまうことが目に見えている。「いいんだよ俺は…このハンカチを後生大事に持って、彼女の健康と安全を祈ることにするから…」と俺が言うと、何故か突然週刊誌をテーブルに置いた兄は、何やらスマホを凝視し始め、しばらく何かを考え込む。数回何かメールでのやり取りを終えた兄は改めて俺に向き直った。

「なあアングリー、今週の土曜18時くらいから予定空けとけよ」

「え、なんで?」

いきなりの提案に頭に疑問符が並ぶ。
きょとんと兄を見つめると、彼は悪戯っ子なような笑みを見せた。









「感謝しろ〜意気地なしのアングリーの為に、今回は特別、兄ちゃんがその子に会わせてやる!」








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