日常生活で彼を目にしない日はない。そう言える程に臨也は国民的な人気を博していた。

テレビ、映画、雑誌、ポスター。生活する上で日に一度は見るであろうものには必ず彼の姿がある。

例えばそう、今静雄の前にある新作香水のポスターの中にだって清涼感と妖艶さを兼ね揃えた笑顔で臨也は佇んでいた。
その香水は某ブランドと出演中のドラマのコラボレーション企画で、ブランドの威信を賭けて作られたそれはよくあるティーンズ向けのコロンにはない高級感を持っている。種類は2種類。
当然のように両極性と人気を持つ臨也と静雄のイメージで作られた、臨也のポスターの目の前に静雄はいた。

隣には自分のポスターがあって、鋭い眼光を臨也に送っている。掲載当初から大変に話題になったこの広告は、なるほど貼る側からファンに盗まれるのがわかる程の出来映えだった。

デュラララの『折原臨也』と役者の折原臨也両方の持ち味がよく引き出されている、端的に言えば、美しい。
香水も両方の『臨也』のイメージに合うようにと柑橘系の爽やかな香りをベースにしながらもジャスミンの妖しさを含むというこだわりようだ。実は貰ったサンプルの他に、静雄が自分で臨也の香水を購入していることは知る人ぞ知る事実だった。

しかし、香水のサンプルは貰えたものの流石にポスターまでは回って来なかったが故に、静雄はこうして局の廊下に貼られたそれを眺めるしかない。

今手元にこのポスターがある奴らが酷く羨ましい。犯罪とはわかっていても、持ち帰りたくなる気持ちがわかってしまう。
「ポスターなら、触るのだって簡単なのにな」
長身の静雄のちょうど目線の位置には臨也の秀麗な顔がある。本物がいるかのような生き生きしたその写真に静雄は思わず手を伸ばした。

鴉の濡れ羽色の髪、ルビーのような光彩の瞳を辿って頬、そして唇まで辿り着いたところで、彼の指先は止まる。
一旦周りを見回して人のいない事を確認した静雄は薄く色付く唇に指先を伝わせ、衝動的にその指先を自分のそれへと持って行った。
「………」
瞬間湧いた喜びもつかの間、虚しさと激しい罪悪感に襲われた静雄は溜め息をついて踵を返す。
何をやってるんだ自分は。これではまるでストーカーだ。
こんな所をあの人に見られたらどう言い訳する気だ。



後悔に渦巻く思考が強制的に遮断されたのは、透き通るようなよく響く声が鼓膜を叩いたその瞬間だった。
「静ちゃん」
自分をそう呼ぶ人物など一人しか思い当たらない。軋んだブリキ人形のように、思考を放棄した頭を振り向かせると、廊下の先には今し方目の前にあった彼の姿が目に入って。


どうしよう
みられた


そう認識した瞬間背筋を伝った汗の冷たさを、静雄は生涯忘れないだろうと思った。







どうしようもなく歪んでいる









オトメン静雄さん本当にすみませんでした。ようやく進展します。







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