「はい、いーね…そこでお互い顔近づけて。静雄は敵意剥き出しで…臨也はそう!不敵に笑いながらも睨む感じで」
ストロボの閃光、掲げられるレフ板に刻むようなシャッター音。
撮影用のライトが熱気を振り撒く中でも涼しげな表情を崩さない二人の男の内心は、その実全く穏やかではなかった。

役柄としては対照的な二人の人物の思考は今や一つである。
今日は話題作として一話目から高視聴率を叩き出し波に乗るドラマが飾る雑誌の撮影で、主役並の人気を博す静雄と臨也が選ばれた訳なのだが。
((顔、近すぎだろ!))
如何せん二人の距離が近かった。それこそ触れ合ってしまうのではないかという程に。

それは先日想いを自覚した静雄とその無意識下の告白を受けた臨也には毒になるような近さで、互いに役者としての矜持を持って顔にこそ出さないものの内心は大荒れだったようだ。

「よし!二人ともいい絵が撮れたよ、一旦休憩挟んで次のポーズいこう」
手応えある被写体が嬉しいのか満足そうなカメラマンの一声に二人は途端、ギリギリまで近づいていた顔を離して自然と漏れる息をつく。
「あ、悪い、臨也さ…っと…臨也。苦しくなかったか?」
「え?!あ、いや、大丈夫大丈夫。あれくらい平気だよ」
普段の名演ぶりが何処へやら、互いにごまかすように言葉を連ねる二人は端から見れば大層不自然なのだが、それを指摘出来る人間はここにはいなかった。ただ一人を覗いては。

「あっれー?二人共どうしたんスか?何か顔赤いですけど」
ぎくしゃくとしながら休憩用に置かれたソファに腰掛ける二人の背後から聞くだけでも性格の窺えるような明るい声がかかる。
図星を突かれたような形になった二人が羞恥混じりに勢いよく振り向くとそこには思い描いた通りの人物。
「紀田くん…」
「正臣…っ!」
一方は金色の頭を垂れて困り果てたように、一方は秀麗な顔立ちを赤く染めて咎めるように呼んだのは共演者で臨也と共に現場のムードメーカーも勤める紀田正臣の名だった。

「へ?俺なんか悪いこと言いました?」
空惚けたような仕草をしてみせる正臣だがその実彼はとても勘のいい少年である。
最近の静雄と臨也の妙にぎこちない、それこそ思春期真っ只中の少年少女のような空気にも気付いていたし、勿論その空気の比喩があながち間違っていない事もわかっていた。
この二人は、お互いに友情以上のものを抱いていると。

「それにしても静雄さん、この間はすごい泥酔っぷりでしたね。臨也さんの肩にもたれ掛かって甘えちゃったりなんて普段じゃ絶対見せないのに」
二人の空気が変わり始めたのは先日の飲み会がきっかけだ。普段はかたや十年、いや百年に一度の天才、かたや自然体の好演と評される二人もやはり日常生活、殊更恋愛面での演技は苦手らしいと思わせる程、その変化はあからさまだった。

そして正臣は、この不器用で酷く真っ直ぐな純愛を応援したくなっている。

『先日の飲み会』というキーワードを出してみれば何か変化が訪れるのではないかという正臣の目論見は、面白い程にすんなりと当たった。
「え、いや、俺そんな事したんですか?!すんません臨也さん…ッ!」
「すごかったですよー?共演者達の真っ只中で『俺は臨也が好きだー!』なんて叫んじゃったりしなかったり」
「ち、違っ」
恐縮して思わず敬語に戻る静雄を煽るようにあることないこと並べ立て、楽しそうに目を細める正臣に臨也は冷静を以て返せばいいだけだったのだ。あまり静雄をからかうなと、そんな事実はないと。
しかし自分が考えている以上に焦った臨也の口から突いて出たのは思ってもみない言葉で。

「寿司屋でなんて言ってないから!あれは単なる寝言で…ッ」
「え、」
「え?」
「………!!」
「折原さーん、平和島さーん、次の撮影始めまーす!」

集合をかけるADの声は、彼らにとって酷く遠く聞こえた。








愛を膿む







後輩の強引な後押しでようやく進展。正臣は帝人と同じく臨也には親愛と尊敬という感情が強いですが、帝人よりはライトな感じです。
帝人はきっと二人をくっつけたいような嫌なような。大事な家族を取られるような気持ちになりそうです。





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