※モブ痴漢×臨也有







「もしもし、新羅?そう、またシズちゃんだよ。今から行くからさ…治療よろしく」
地上と駅を結ぶ階段の踊場で黒い学生服を纏った少年は簡潔に用件だけを述べて通話を切った。どこかストイックさを感じさせる学ランは所々砂埃がついていて、それを払う手にも僅かな血が滲んでいる。
彼、折原臨也は今まさに仇敵とみなす平和島静雄と一戦を交えた後だった。

普段ならば高見の見物よろしくその辺りの不良をけしかけて静雄が倒れるのを狙う臨也が直接的に静雄とやり合うのは久しぶりの事で、それ故に彼も無傷で済まなかった。

外面的に目立つのは擦り傷ばかりだが飛んできた標識から頭を庇う為に臨也はきき腕を一本派手に打撲している。折れてはいないだろうが下手をすれば罅が入っている可能性もあるので腐れ縁で、学生の身で医者の真似事もしている新羅を頼ろうというわけだ。

新羅のマンションは池袋にあるのだが、恒例というべきか静雄と鬼ごっこをしている内に臨也はいつの間にか池袋から数駅離れたところまで来てしまっていた。しかも時間は運悪く帰宅ラッシュに重なっていて、都心特有の人に溢れた駅はそれだけで臨也の心を鬱々とさせる。

やがてざわめきにかき消されまいとする少し大きめのアナウンスがホームに響いて、列車が滑るように到着した。
普段ならば見下ろして嘲笑う立場の人混みの中に今は臨也自身が紛れ、流されて電車の中へと押しやられる。

乗車率250%に達しているのではないかと思えるような車内は普段ですら身動きを許さなかっただろうが、今日は怪我に響いて尚更辛い。
こんな事ならタクシーを使えば良かったと心中でぼやいてみても電車が発車してしまった今では後の祭りだ。

覚悟を決めて流れる外の景色をぼんやり眺め始めて数分経った頃だろうか、臨也は何かに違和感を覚えた。
意識を集中させてみるとそれは何やら硬質なもので、気付けば臨也の内腿辺りに定期的に当たっている。これほど混んでいる車内だ、列車の揺れに合わせて鞄の角でも当たっているのかと考えた臨也がそれを改めるのにそう時間はかからなかった。

耳のすぐ側で獲物を前にした獣のような荒い息遣いが聞こえてきたからだ。
よくよく考えてみれば鞄の角にしては押し付けられているものは布越しにも感じる程妙に熱くて、後ろを確認するとドア付近に横向きに立つ臨也の後ろには不自然に覆い被さる中年の男の姿。

箱に詰められた寿司のように前後左右からの圧迫に耐えている臨也はろくに振り向けもせず、顔をはっきり確認する事は叶わなかったがそれは今の臨也にとってみればどうでもいい事である。
ただ、明らかに男とわかる学ラン姿の自分に興奮し、痴漢行為に及ぼうとする男の心理が信じられなかった。

人間観察を趣味と豪語する臨也は性に対してはどこか潔癖なところがある。数度惰性のように女性と行為に至ったことはあっても男との行為は勿論性的に触れられるのも初めてのことで、どんどん大胆になっていく男の動きに普段はよく回る思考もついては来なかった。

何故、どうして自分が。

そんな疑問符ばかりが駆け巡る臨也を待つはずなどなく、男は抵抗しない臨也に気を良くしたのか次第に眼前の腰を撫でさすりながらもう片方の手で赤いインナーの内部へと手を差し込む。
他人に触れられる事など滅多にない脇腹から胸元にかけてのラインをなぞる手は厭らしく蠢いて、嫌悪感から臨也は背を震わせた。それを自分に都合のいいように解釈した男が耳元に唇を寄せ、ねっとりと囁く。
「感じてるのかい?こんなところで、イケナイ子だね」

誰が感じてるだ。誰がイケナイ子だ。イケナイのはお前だこの変態野郎。

瞬時に覚えた殺意に臨也は制服に隠し持つナイフを取ろうと手を伸ばした。が、それは慣れたグリップの感触を掴むことはない。
放課後に勃発した静雄との諍いで持てる全てのナイフを破壊されてしまっていたからだ。
おまけに寄る人波の間に腕を固定されてしまって更に身じろぎし辛くなる。

「…ッ…!」
そんな中で密着する男の手は休まることを知らず、不意にそのかさついた指先が臨也の胸の突起を摘みあげた。
途端背筋を駆けた感覚を覚えて飲んだ息に驚いたのは当の臨也だった。
「ここが気持ちいいんだね」
相変わらず男の声は耳障りにまとわりつくが、内容は的を射ている。こんな異常な状況下で、臨也はその部位に触れられて僅かながらも快感を見出してしまったのだ。

その事実を痛い程実感している臨也は自分にさえ嫌悪感と吐き気を覚えてしまう。
男が興奮した様子で擦り付ける股間も、更なる快感を引き出そうと卑猥に動く指も、全てを拒絶したくて双眼を閉じた。













次は静雄さんのターンです。







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