※女体化ご注意






「幽…ちょっといいか?」
長身の頭を垂れていつになく所在なさげに弟の部屋を訪れた静雄の手には、およそ似つかわしくない雑誌が握られていた。

ティーンズ向け、更に言えば中高生の男子向けに作られたその雑誌の表紙にはでかでかと「勝負!彼女に恥ずかしくない男の部屋」と信憑性の怪しい文句が飾られていて、兄の様子も含めて早々にあたりをつけた幽は頷く。
「うん。…兄貴もしかして、臨也さんを家に呼びたいの?」

弟の核心をつく言葉に静雄は勢いよく伏せ気味だった顔をあげる。その顔にはどうしてわかったんだとばかりの表情が浮かんでいて、自分とは180度違う素直な反応に幽は思わず状況も忘れて感心してしまう。
「その、一応、付き合ってひと月経った訳だし、親にも紹介してぇし。けど、俺は女の好みなんてよくわかんねぇし…お前に聞けばわかるかと思って」

確かに幽はその異常な力により怖がられる静雄とは違い、どちらかと言えば異性の友人も多い。弟に尋ねる選択肢は間違っていないだろうが、まず真っ先に一つだけ幽が言えることがあった。
「兄貴、とりあえず、初めてでいきなり親に紹介は止めた方がいいと思う」
臨也の性格を思えば杞憂となる可能性が高いが、静雄の貞操観念は乱れた交際の蔓延する今時の高校生が少しは見習うべきものであっただろう。

彼はとても純情培養で、とても古風な男だった。











そして決戦の日。
幽に相談を重ねつつ部屋の準備を整えていた静雄はこうなればと誘うついでに直接本人に好みを尋ねることにした。

時間は昼休み、場所は屋上で昼食も終わった二人の間には絶好の和やかな雰囲気が流れる。青空の下給水塔にもたれてパックのカフェオレを啜る臨也は普段の画策を巡らせる時と打って変わって年相応の少女らしさを覗かせていた。

そんな臨也についに心を固めた静雄は緊張した様子で第一声を放つ。
「…なぁ、臨也」
「何?シズちゃん」
「あの…よ、こ、今度の日曜日は用事あんのか?」
「は…?別にないけど」
しどろもどろに尋ねる静雄に訝しげに眉を寄せる臨也。一方の静雄は第一関門をクリアしたとばかりに表情を輝かせる。
次に進む為の後押しをされた心持ちで決戦の為の準備は始まった。

「お前、さ、恋愛映画とか好きか?」
「恋愛映画ぁ?あんまり好きじゃないかな。それより猟奇的なサスペンスものの方が人間の心理の動きが見えるし好」
「じゃ、じゃあ音楽!男のアイドルとか、女は好きだろ?」
「私は特に興味ないよ。元々そんなに音楽聴く方じゃないし」
「甘いものは、ケーキとか、プリンとか」
「あ、私甘いもの無理。ケーキもプリンももってのほか」
「そう、か…」
しかし矢継ぎ早な質問に臨也が返答する度に静雄の肩が力なく落ちていく。

甘い恋愛映画のDVD、女性に好まれる男性アイドルのCD、美味しいと評判の洋菓子店の甘味。日曜の為に用意したものが次々と浮かんでは消えていく。この様子なら仄かに甘いピーチティーもアウトだろう。

そう踏んで最早質問する気力すら残っていない様子の静雄を臨也はちらりと横目で窺う。
そして飲み終わったばかりのカフェオレのパックをゴミ箱の中に投げ入れて呟いた。

「…でも、ピーチティーは好きだよ。砂糖抜きでね」
瞬間、ぐるぐると渦巻いていた静雄の思考は一旦完全に停止する。ピーチティーの事なんて、臨也に告げた覚えはない。
「!何で知って…ッ」
「幽くんに聞いちゃった。私の為に色々悩んでくれたみたいじゃない、シズちゃん」
「…別に…俺は、」
言葉を濁す静雄の中には幽への感謝半分、ばらされた事への照れくささ半分で複雑な心境が巡っている。それでも顔を覗き込んだ臨也の一言で静雄の心は一息に晴れやかなものへと変わった。

「私の好みとかそんなの合わせなくていいからさ、普段通りのシズちゃんの部屋見せてよ」
「…おう」

二人の腐れ縁ともいえる男の言葉を借りるなら状況はまさに案ずるより産むが易し。
かくして静雄は記念すべき恋人との初の自宅デートへと無事漕ぎ着けたのだった。



「それでさ、いつかご両親にも紹介してよね?」
「〜…っ!!」
最後に逆転ホームランを食らいながら。






アンフェア・ゲーム
(勝てる気なんて全くしない)









ハツカ様より頂きました
「静臨♀。付き合いたてで、臨也ちゃんを家に呼ぶためにへたれ静雄が頑張る」
というリクエストでした。小悪魔臨也と純情へたれ静雄が女体化の理想像な砂里としては本当に願ったり叶ったりな素敵ネタで執筆が楽しかったです…!!もう、私はつーちゃんが好きだ!愛して(黙ろう)
ハツカ様、リクエスト本当にありがとうございました。






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