静雄に関係の終わりを迫ってから約半日。臨也は何をするでもなくただぼんやりと革張りの椅子に腰掛けていた。
今日は波江にも休みと告げているし急ぎの仕事も入っていない。とはいえ職業柄年中無休状態で動く彼から告げられた休みに波江にはらしくない戸惑った声で了承された。

本当に、嫌になる。
ゆったりとした背もたれに全ての体重を預けて顔をブラインドの隙間から差し込む陽光を遮るように掌で覆った。
自分で言い出した癖に、何をこんなに傷ついているのか。
臨也にはわからなかった。

静雄に無理矢理身体を繋がれたことか
(違う、本当は嬉しかった)
身体だけの関係が続いたことか
(それでも繋げるならいいと、思っていた、けれど)
別れを告げたあの時、静雄が黙って出て行ってしまったことか
(本当は、離れたくないって言って欲しかった?)

「…ッハ…、有り得ない」
思わず乾いた空気の中に漏れ出た声は掠れていた。
いつから自分はこんなに女々しくなってしまったのだろう。
徐に立ち上がった臨也は広々としたキッチンに鎮座する冷蔵庫のドアを開け、中にあったプリンを取り出す。

もうこれも処分しなければ。
食べられるあてのなくなったそれを放る為にゴミ箱の蓋を開けようとしたその時、インターホンの音が室内に響いた。

いくら臨也が今日は休業と決めても告知していない客が知るよしもない。どうせそんな輩の類だろうとプリンをカウンターに置いてモニターを覗いた臨也は、紅玉のような瞳を見開いた。

「シズ、ちゃん」
そこにいたのはつい半日前にここを出て行った、もう二度と来る事もないと思っていた男の姿。
思わず臨也が立ち尽くしているとモニター越しの静雄は苛立った様子で再びインターホンを鳴らす。

間延びした音の響きが途切れても臨也は動けないでいた。そんな彼の耳に届いたのは三回目のチャイムではなくドアの軋んだ音。程なくして荒っぽい足音が廊下から響く。
「臨也、手前いるなら出…ッ」
「何で!…何で、もう、やめてって」

見慣れないビニールを下げた静雄の声はいつになく強い臨也の口調に遮られた。しかし続く言葉は弱々しく床に落ちる。
「…、…」
向かい合う秀麗な顔立ちは苦痛の表情に歪んでいて、静雄はかけようとした言葉を意識的に飲み込んだ。
その代わりに、傷つけない程度に強い力を以て臨也の痩身を腕の中に収める。

「…ッシズ…ちゃん?」
今まで身体を繋げるという意味で抱かれる事はあってもこんな風に抱き締められた事はなかった臨也が戸惑いに声を漏らす。静雄は黒く艶やかな髪に指を絡ませ、くしゃりと撫でるとほんの少しだけ腕の力を強めた。

「違う、今日は、無理矢理抱きにきたんじゃねぇ。つーか…もう無理矢理抱いたりしねぇ。……お前の気持ち聞いてからにする」
「何…それ、どういう」
「お前が好きだ。多分、ずっと前から。…けどお前は俺の事殺したいって思ってんだろうし、それなら身体だけでも繋ぎたかった」
次々と紡がれる現実味のない言葉に普段は回りすぎる程よく回る臨也の思考も今は追いつかない。

「お前はまだ俺の事、殺したいか?」
「…殺したいよ」
即座に告げられる拒絶に静雄の腕が強張った。しかしそれを止めたのは静雄の背に回った臨也の腕だった。
「殺したいって、そう、思ってたのに…何でだろ。今シズちゃんに好きって言われてこんなに嬉しくなるなんて、本当…シズちゃんは予想外のことばっか」
それは臨也自身の気持ちであってもそうだ。静雄は易々と臨也にとって番狂わせな事をやってのける。
臨也からの返答を受けて解きかけた腕に再び彼を囲った静雄が目に止めたのは、簡素なカウンターに置かれた物体。

「なぁ、臨也。あのプリン俺にくれよ。代わりにお前にはこれやる」
身体を少し離して静雄が手にしていたビニールを掲げればそこには瑞々しく熟れた苺が入っていて。

「いいよ、一緒に食べよう。シズちゃんにも苺あげるね。俺はプリンはいらないけど、その代わり、」



初めて交わした口付けは、苺よりプリンよりも甘かった。















なつき様から頂きました
「相思相愛と言うことを知らず、愛が無い行為は嫌だと思いながらも無理矢理ヤられていた臨也。臨也のちょっとした発言から静雄は相思相愛と言うことに気づき、不器用ながら好きだと告げる。それに驚きながらも嬉しがる臨也の始めは鬼畜で最後は甘々」
というリクエストでした。
ネタを読んだだけで満足してしまう素敵リクエストに滾る心を抑えきれません。あまりの滾りっぷりに妄想段階で長くなりそうだと思っていましたが蓋を開ければやはりリク内最長という(笑)
大変長らくお待たせ致しました。なつき様、リクエスト本当にありがとうございました。

そして10000hit企画に参加して下さった方々、ここまで拝読して下さった皆様に愛を込めて!







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