「………シズちゃんと話すことなんてないよ」
遠ざかる足音と共にぷつりと切れたモニターの下にずるずると臨也は崩れ落ちた。
何故、此処がわかってしまったんだろう。来神高校に程近い場所に住まいを選んだのは目眩ましの意味もあるがそれだけではない。
ただ、気になったのだ。
責任感の強い静雄が自責の念を感じて学校を辞めないか。無事に卒業出来るのか。
静雄の家から来神高校に登校する上で一番の近道であるこの道を彼が通るのは学生時代から知っていて、それを知った上で選んだ。
仕事の合間、時折窓の下を通る金髪を見かけては胸を撫で下ろし、そのたびに女々しい自分に嫌になる時もあった。
静雄がこちらに気付く気配はなかったし見かける姿も普段通りで、卒業してからは近辺で見かける事もなくもう臨也の事など忘れたと思っていたのに。
「何で探しちゃうのかなぁ、何で……辿り着いちゃうのかなぁ」
伏せた顔は自嘲するような笑みを貼り付けているが瞳の奥は様々な感情を物語る。
「だから、大嫌いなんだよ…シズちゃんなんて」
この口が素直に告げられたならいいのに。
探してくれて、見つけてくれてありがとうと。自分も何年も伝えられなかった事があると。
本当は一緒に過ごしたかった。いつも通りに命懸けの喧嘩をする関係でも、普通の友人同士のような関係でも。
あるいは同情でもいい、数年前のあの日のまま心地よい静雄の腕に包まれて眠っていられたらどんなにか良かっただろう。
しかし臨也の口は想いとは裏腹に動くのだ。
もう静雄が自分に会おうとする事はないだろう。会いたい一心で訪れたのをあれだけ無碍に突き放したのだから。
そう、思っていたのに
「…よお」
「……何で、いるの」
翌朝、取引場所へ行く為に出たマンションのドア脇に、当たり前のように静雄は佇んでいた。
幕間臨也視点話でした。恐らく次回で終わります。