朝起きれば、そこは天国でした。




そんなどこかで聞いたような一文が駆け抜ける程に目の前の現状は信じられないものだった。
自らを落ち着かせる為にも過去を反芻してみる。
昨日は撮影の後にスタッフやキャストと飲みに行くことになって、寿司屋に行って、臨也さんは遊馬崎さん達と話してて、俺は寿司つつきながら酒飲んで、それで、

それで、

そこから、記憶がない。



そして起きてみると見覚えのない部屋で同じベッドで隣に臨也さんが気持ち良さそうに寝てましたって?ドラマや何かでありがちなパターンだ。
いっそこれは俺の作り出した都合の良い夢なんじゃないだろうか。そうだ、そうに違いない。なら早く覚めろ。いややっぱり惜しいかも。

夢だと考えると気が大きくなって、そろりとブランケットを捲ってみると臨也さんは多少寝乱れてはいるものの服をしっかりと着込んでいて、嬉しいような残念なような気分に陥る。
どうせ夢なら既成事実くらいあってもいいだろ。現実には叶わないんだから。

そう自分の脳を叱咤していると臨也さんの方から小さなうなり声が聞こえた。どうやらバサバサとやったせいで起こしてしまったらしい。
「ン……あれ、静ちゃん、起きた?おはよ」
寝ぼけ眼にふにゃりと笑う臨也さんは可愛くて、思わず見とれた俺は身体のバランスを崩して壁に頭をぶつけてしまう。
「いッ、て…!」

そこで、気付いた。

痛いということは、夢じゃ、ない?


「す、すいません!臨也さん!俺何か粗相を…!」
次の瞬間俺は頭の痛みも忘れてベッドの上に平伏す。
頭を下げているので表情は窺えないが、臨也さんは暫く無言で俺を見つめていた。しかし、
「ぶは…ッ!」
「へ…?」
間抜け面で顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは腹を抱えて笑う臨也さんの姿。
「そ、粗相って、静ちゃん古風だなぁ…っはは…!別に酔いつぶれて寝ちゃったから、うちに連れてきただけだよ」
「酔い…つぶれ、た?」
「そ、静ちゃんちあそこからは遠かったからさ。まぁベッドに運ぶまでが限界で着替えとかはさせられなかったんだけどそこは勘弁してよ」
ひとしきり笑って満足したのか目尻に溜まった涙を拭きながら、いつもより低い位置にある俺の頭をぽんぽんと撫でる臨也さんの言葉にどうやら俺は無体を働いたりはしていない事を知って安堵する。

しかし迷惑をかけた事には変わりない。
「いや、勘弁なんて…すいません。ご迷惑おかけして…」
「いいのいいの。若い内はよくある事なんだから気にしない!」
「若い内って…俺と臨也さん同い年じゃないスか」
冗談混じりに朗らかに笑う臨也さんに暗い気持ちで満たされていた俺の気持ちは一瞬で晴れやかになって、この人のこういう所が好きだなと再認識させられる。

そんな風に心中でだけ勇気を奮う俺は全く気づいていなかったのだ。
昨夜自分が一世一代の告白をしている事も、その行方も。







アンチヒーローは眠らない
(目の下に隈二つ)











前進したかと思えば鈍感静雄さんのおかげで後退しそうな勢いです。頑張れ静ちゃん!








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