津軽海峡CDパロ(?)








「今度キャラクター…ソング?だかの収録があんだよ。練習付き合え」
シズちゃん、ちょっとは俺の都合とか聞いてくれないかな。そのうちジャイアニズム100%どころじゃなくなっちゃうよ。400%越えだよ。ジャイアンと融合だよ?

そんな心の訴えなど聞き入れられるはずもなく、俺は今シズちゃんと某カラオケ店にいる。普段ならばシズちゃんのお誘いは迷わず受けたいところだけど今回ばかりは勘弁してほしい。
何故なら、

「ほら、いれろよ」
「いや、あの、シズちゃんの練習なんだからシズちゃんがいれなよ。俺はじっくりゆっくりたっぷりシズちゃんの歌声を堪能させてもらうからさ。ていうか、もういっそ俺は空気だと思ってくれていいから」

俺は歌が苦手なのだ。すごく。



素敵で無敵な情報屋さんの唯一の欠点といってもいい。とかく俺は歌が嫌いだ。普段の声は褒められることが多いのに歌を歌って褒められた試しがない。
自分自身でも正直上手くないことがわかるので極力歌いたくないのだ。

それをこの男は何故よりによって俺をここに誘う。いるだろう。新羅とかセルティ…は無理にしてもドタチンとか茜ちゃんとか。
まぁ練習なんてするって事はシズちゃんも歌に自信がない口だろう。そんな風にたかをくくりながら曲検索の為の電子版と格闘するシズちゃんを眺めていた俺は、30秒後には深く後悔する羽目になった。

「上野発の夜行列車降りた時から〜」
「………」
え、何、これシズちゃん?
あれ?シズちゃんてどんな生物だっけ。

思わずゲシュタルト崩壊を起こすくらいの衝撃。
低く心地良い調子で響く艶のある声。外すことなくメロディに合わさる音程。曲に合わせて拳まで効かせて、

そう、シズちゃんは歌が上手かった。それも相当。

今の「ゆきーのーなかー」なんて上がり下がりあって苦労するのに何てことなしに歌いこなしている。何なのもうこいつ。普段粗暴な癖に繊細で、でも力強い歌い方するし。

思わず茫然と聴き惚れている間に一曲目は終わって、そして次々に入れる曲のどれもをシズちゃんは見事に歌いこなした。練習全く必要ないじゃん。
これはもう絶対シズちゃんの前でなんて歌えないなとか美声を耳に入れながら考えていると軽快なポップスを歌い終えたシズちゃんがずいと手を差し出してきた。
その手の先には、曲検索の電子版があって。それは、もしかして。
「俺ばっか歌ってんのも飽きた。手前も歌えよ」
「いや、無理。無理だから。いいからシズちゃん歌ってて。俺はそれを有り難く天にも昇れる気持ちで拝聴させて頂きます」
「な…ッ!いいから歌え!ほら、これなら高校の音楽でやっただろ」
この上手さともなると自然に敬語になってしまう。しかしそれを嫌みととったのか力の込められたシズちゃんの手によって電子版がみしりと嫌な音を立てた。
こうなるとシズちゃんは梃子でも考えを曲げなくて、勝手に曲を入力してしまう。ちなみにその高校の音楽の授業に俺は殆ど出ていないのだが、それは有名なポップスの曲だったので知らない事もなかった。

ないのだが、歌うとなると話は別で。

緊張を隠しきれずに歌い始めた俺は音程を外すは歌い方はか細くなるは散々だった。
シズちゃんはそれを笑うでもなく真剣な表情で聴いている。いっそ笑われた方がマシな気がした。
「…臨也」
「何だよ、もう…これで満足したでしょ?わかったらカラオケなんて誰か別の人誘っ」
「違ぇよ。お前勿体ねぇ。せっかくいい声してんだから歌い方変えればもっと上手いはずだ」
「…え」
シズちゃんのその言葉に俺は再び茫然とする羽目になった。物心ついた時から下手と疑わなかった歌が、上手い?そんな馬鹿な。そんな俺の疑念に満ちた表情に気付いたのだろう、シズちゃんはいつになく真剣な瞳を向けてきて。
「いいから俺を信じろ。絶対上手くしてやる」

そんな男前な事言われたら、信じるしかないじゃない。

かくしてシズちゃんの練習時間は俺の特訓時間へと取って代わったのだった。
















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