「すみません、乗ります!」
エレベーターの扉があわや閉まるかというところで駆けてくる見慣れた制服の宅配員を目にして臨也はボタンに手をかけた。
「…はぁッ、すいませ…ありがとうございます」
「いいえ。何階ですか?」
向こうから走ってきた男はエレベーターに滑り込むと小包を小脇に抱えて乱れた息を整える。普段から仕事上、宅配便を利用することの多い臨也がその職員たる男に問う調子は普段より柔らかい。

予め臨也が押していた階と同じ階だという男にボタンを押せばエレベーターは緩やかに上に上がっていく。
程なくして着いた目的の階で先程のお返しとばかりに開のボタンを押して待つ宅配員に遠慮なく先に降り、数歩進んで自分の部屋のドアに手をかけたその時、臨也は初めて違和感に気付いた。


自分は角部屋で此方来る必要はないのに、何故宅配員がぴったりと後をついてくるのか。



それに気付いた時にはもう遅かった。

半開きになっていたドアが男の手によって強引に開けられ、臨也の痩身は雪崩れ込むようにして玄関先の床へと押し付けられる。
「…ッ…い…」
背中を強かに打ちつけて息を詰まらせる臨也の目に写ったのは先程の穏やかさとは打って変わってギラギラと獣のような視線を送る宅配員の姿だった。

「臨也…臨也、ずっとこの時を待ってたんだ」
男は臨也に馬乗りになったまま細い手首を一纏めに戒め、恍惚とした表情と共にもう片方の手で白い頬を撫でる。その手つきに明らかな情欲を感じて背筋を震わせた臨也が身を捩って抵抗を試みても、この状況では殆ど意味を成すことがなかった。

「ふざけるな…ッ離せ!」
ならばと言葉で威圧してみようとするが男の瞳から狂気は消えない。その上男が側に置いていた小包から取り出した物を見て臨也は双眸を見開いた。
「そ、れ…は、」
ピンクや紫のグロテスクな形状の玩具達には見覚えがある。それは数日前に臨也の元に送られてきて、その日の内にゴミに出された小包の中身だ。

「『これで君を犯したい』。…ようやく現実に出来る…」
「お前が、最近付きまとってた変態か…っ!」
確かにこの男ならば怪しまれず郵便ポストへ細工することも容易だ。電話番号は臨也宛ての荷物から簡単に割り出せる。小包を送ることだって。

「変態だなんて酷いな。俺は臨也を愛したいだけなのに」
「生憎、一方的な愛はお断りしてるんだ」
一見余裕のある臨也だがその手首に小包の中身である手錠が嵌められたことにより、背には冷たい汗が伝っていた。
「大丈夫。俺の愛を感じればきっとわかるさ」
散々罵倒されているというのに変わらず妙に柔らかく愛しげなその言葉を皮切りに、彼の日常は容易く壊されたのだった。






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