※暴力表現注意












それを見たのは偶然だった。見知らぬスーツ姿の男と緩やかに口付けを交わす黒衣の仇敵。
道路を隔てたそう遠くはない場所で繰り広げられる光景は静雄の心に一点染みを作り、半紙に墨汁が落とされた時のようにじわじわと広がっていった。











妙にひらひらとした動作で男に手を振り別れる臨也を捕まえるのは容易だった。いつもならば物が飛んでくる場面で伸びたのが素手の掌だったからだろうか、臨也は直前までそれに気付くことなく捕らえられる。
狭い路地に押し込んで乱暴に壁に押し付けられれば紅い瞳が驚きに見張られた。
「…っシズちゃん…?な…、…ッ!」

いつものようによく回る口を開こうとしたが言葉は腹部にめり込んだ静雄の拳に遮られる。
「か、は…っ……ッう…!」
それでも手加減していたのだろう、意識を失うには至らず苦しげに腹部を抱える臨也の頭部を鷲掴むと静雄は今度は壁へと打ちつけた。立て続けに訪れた衝撃に臨也の視界が霞み、薄れる。
その中で見えたのは初めて見る天敵の表情で、その理由を問う暇もなく彼の身体はゆっくり弛緩していった。












次に目覚めた時、そこには見慣れない部屋の天井が広がっていた。
頭と腹が痛い。どうしてか手足も重い。
何故俺は此処にいるんだろう。何故俺は生きてるんだろう。

煙草のせいか黄味がかった天井は暫しの逃避に走っていた臨也の思考回路を否が応でも現実へ引き戻していく。とりあえず現状を把握しようと未だに痛む頭部を支えながら起き上がりかけたところで臨也は手足の違和感の正体を知った。

痩せぎすの白い手首には鈍く銀色に光る手錠が嵌められていて、足首も片方ずつ同じもので戒められている。更に足首に繋がるそれはパイプベッドの脚に鎖で縫い付けられていて、鎖の長さから判断すれば稼働範囲はせいぜいこの部屋を出るか出ないかという位置までのようだった。
「…な、に…これ、」
やけに冷静に分析する頭とは裏腹に漏れ出る声は酷く掠れている。
冷静に見えてもそんな中響いたドアの音に反応出来ない程には臨也は混乱していた。

「目ぇ覚めたか…」
問い掛ける静雄の声はこの異様な状況にそぐわない程に落ち着いていて、名の通りに静かなものだった。
「シズちゃん、何だよ、これ…何の冗談?笑えない、よ」
一方の臨也も取り繕おうとはしているが普段に比べ覇気のない声音は弱々しく静雄の耳に響く。
「冗談じゃねぇよ。手前はこれからここで暮らす。それだけだ」
問いに対する静雄の答えは過ぎる程簡潔で、しかし裏腹にその瞳は飢えた獣のようにギラついていて、臨也の背筋に冷たい汗が伝った。













ヤンデレシズちゃん。後編はR18注意となります。









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