「ノミ蟲、手前…勝手に人んち入って人の弟に何してやがる」
「ストップ、シズちゃん。確かに勝手に上がったのは悪かったけど何かしたりはしてないから。雑談してただけだって!」
料理の準備をしかけていた為だろう、手近なコンロの上にあったフライパンを掴んで掲げるシズちゃんに俺は即座に制止をかける。ただでさえ凶器になりえるのにそんな物をシズちゃんにふるわれたら俺は確実にセルティの仲間入りだ。

「兄貴。臨也さんは本当に何もしてないよ」
「……幽が、そう言うなら」
そこに幽くんの言葉が入ってようやく納得の色を見せたシズちゃんはフライパンを置いてくれた。このブラコン。なんて事を口にすると本気で首が飛びそうだからついた悪態は心中に留めておく。

そんな言葉が聞こえた訳ではないだろうが、口で納得しながら視線の鋭さが変わらないシズちゃんは大股で俺達の側まで歩み寄ると俺の腕を強く引いた。
「い…っ!痛いってシズちゃん」
「うるせぇ。とりあえず離れろ」
馬鹿力で引かれた俺の腕に鋭い痛みが走るがそれをもたらした人物は相変わらずの仏頂面で。

何だかいつもより数倍機嫌の悪いシズちゃんは苛々とした様子で俺を立ち上がらせる。
「もう、シズちゃんは乱ぼ…うわっ?!」
しかしそれを許さなかったのは目の前の男が溺愛する弟で、彼は彼で俺のもう片方の手首を掴むと自らの方に引き寄せ、バランスを崩した俺を腕の中に迎え入れた。

「幽くん、さっきからなに…」
「兄貴」
いつもは大人しい弟の意外なまでの強引さに対応出来ずシズちゃんは茫然と佇む。そこに投下される更なる爆弾。
「この間買い物付き合った礼がしたいって言ったよね」
「あ…あぁ」
「お礼、臨也さんがいい」
凍ったのはシズちゃんだけでなく俺の思考も同じだった。

え、お礼?何の?ていうか何で俺がシズちゃんのお礼にされなきゃいけないの?幽くん、俺は物じゃないよ?

疑問符が次々と浮かんでは消える中で突如俺の視界は白一色になる。何かと思えばそれはシズちゃんの着てた部屋着で、そういえば視界が覆われる瞬間何かに焦ったようなシズちゃんの表情が見えた気がした。
幽くんは相変わらず後ろから俺の腰元を抱き込んだまま離していないし、シズちゃんはその長い腕で前から俺の上半身を包み込んで。

つまり、俺は二人に挟み込まれるように抱きしめられていて。

なに、この状況。



「あ、あのさ…二人ともちょーっと落ち着こ」
「幽」
「だからちょっと離し」
「悪ィ、こいつだけはやれねぇ」
俺、今日遮られてばっかりだよね。言葉は俺の武器だっていうのにそれを取り上げられてちゃしょうがない。

幽くんもシズちゃんもまるで人を物扱いだし、やれねぇって、やれね………え?

その言葉を脳が処理した瞬間、俺は一気に顔が集まるのを感じた。

シズちゃんは素直じゃないから普段そんな事を口にはしてくれない。口を開けばノミ蟲だの死ねだのそんなのばっかりだ。
だから、正直言って、嬉しかったりする。物凄く。

「こいつはプリンみたいに代わりがきくもんじゃねぇからな」
「プリンも俺が貰ったけどね」
だから浮かれていた俺は気付かなかった。普段はブラコンと認識される平和島兄弟がお互いに剣呑な空気を醸し出すと共に腕の力も強まっていたなんて。







どうか息をさせてくれ
(痛い痛い痛い!!)









満月様から頂きました『平和島サンドで臨也の取り合い』というリクエストでした。
一度は書いてみたかった平和島サンドを妄想出来て大変幸せでした。ちなみにこの二人は付き合ってる設定でシズちゃんの買い物は初デートの服に迷ったシズちゃんが幽を頼ったという裏話があったりします。

満月様、素敵なリクエストありがとうございました!









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