教師達が静雄の処分を喧々囂々と話し合う一方で、騒がしいのは校長室だけではなかった。
「平和島が先生殴って半殺しにしたんだってさ」
「うわ、怖ぇ〜…やっぱりあいつ化け物だな」
「でも教師殴ったらヤバいだろ」
「ついに退学か?」
耳聡い生徒が聞きつけた噂が制御役の教師がいない事も手伝って瞬く間に教室に広まっていたのだ。

心無い噂話が情報を生業とする臨也の耳にも当然のように入り、彼の脳内には昨日の出来事が浮かび上がる。


自分のせいだ。

臨也が犯されている場面を目撃したから静雄はあの男を殴ったのだ。彼は誰であろうと人が蹂躙されているのを放っておけない、そういう男だから。

そしてそんな気質を持つ静雄が、頑として昨日の全貌を語らないだろう事も簡単に予測出来た。それによって自らが窮地に立たされようとも。

想像に違わないであろう現実を思って蒼白な顔で机の木目を見つめる臨也の肩を見かねた門田が叩く。
「おい、臨也…お前顔が真っ青だぞ」
「…ドタ、チン…。大丈夫、ちょっと保健室行くから、後よろしく」
「ついて行かなくて大丈夫なのか?」

口元を抑えてふらふらと立ち上がる細い身体を支えた門田を手で制し、言外に大丈夫だと告げると教室を出て行く臨也。
その背中を心配そうに見つめる門田からは、臨也の決意を込めた瞳は見えなかった。






***










「平和島か?あー…お前への処分の話なんだが、あれは無しになった。明日から通常通り学校に来なさい…先生達も誤解をしてたようで悪かったな」
「は?…あ、はい…、…?」
そしてその日の夕方、静雄は自宅で奇妙な電話を受ける。

決定した処分を言い渡すはずの電話が自分の無罪放免を言い渡すものに変わっていたのだ。昼間とは打って変わってやけに優しい口調の教師の声に首を傾げながら電話を切ると、そう間を置かずにインターホンが軽い電子音を響かせる。

「はい、どちらさ」
「開けないで」
どうせ集金か勧誘の類だろうと対して確認もせずドアノブに手をかけた静雄の耳に飛び込んできたのは、聞き慣れた涼やかな声。強い口調と共に反対側からも押さえられているのだろうドアを、無理矢理開けるのは静雄にとって容易い事だ。
けれど、それは何故か躊躇われた。


「そのままでちょっと聴いてよ。シズちゃんは単細胞だからさぁ、責任取って自分から学校辞めるとか言い出すんじゃないかと思ったんだよね。まあシズちゃんの学力と出席率じゃ出来るか怪しいけど、せっかくまぐれでも入れた高校なんだから精々頑張って卒業しなよ」
流れるようにつらつらと紡がれる言葉に次第に苛立ち眉間に皺が寄る自分を感じていた静雄だったが、ふと、ドア越しに聞こえる声が普段通りのようでいてどこか違う事に気付く。
「臨…」

「…あと……………

…嬉しかった。ありがと」


それを問い掛けようとした瞬間に被さるように紡がれた素直な礼に止まる思考。言葉を飲み下し、意味を嚥下している間に、ドアの前の気配が消えた気がした。

「臨也!!」
勢いよくドアを開けてもつい先程までそこにあったはずの人影はなく夜の静寂が横たわるばかりで、冴え冴えとした宵闇は過ぎる程に見慣れた光景を作り上げる。










数分後、焦りを帯びた新羅からの電話で静雄は全てを知る事になった。

臨也が教師達の前で、自分が芹沢に犯された事実を話したことも。

静雄に非はないと再三訴えて、それによって静雄の退学の話が消えたことも。

しかし、静雄が過剰に暴力をふるったという拭えない罪の元凶として責任を取り、退学届けを出したことも。


ほとぼりが冷めるまで姿を消すということも。

すぐに向かった臨也の実家に既に求める姿はなく、一人暮らしをすると急遽出て行った事実だけが転がっていて。


そうして折原臨也は、平和島静雄の前から姿を消した。



















捏造甚だしくて申し訳ありません…!!






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