「中学の時の臨也?」
小学生からの付き合いになる男の予想だにしなかった質問に、新羅はその丸い目を更に見開いた。そんな新羅の様子にやはり羞恥が湧いたのだろう、静雄はバツが悪そうに目を逸らす。
「…ああ。クラスの奴らが中学の時のあいつは凄かったとか何とか…どういう意味だ?」
「凄かった…凄かったねぇ…?ああ、言うなれば凄い美少年だった、かな。」

思案するように腕組みした新羅が発した台詞に今度は静雄が目を見開く番だった。
「美少年?」
「うん、臨也って顔は凄い綺麗だろう?今は背もだいぶ伸びたがら美青年って感が強いけど中学の時はまだ背も低くって、あの華奢さだしまさに明眸皓歯の美少年って感じだったよ。学ラン着てなかったら確実に女の子…いや、着ててもか」
まくし立てるような言葉を受けて静雄は彼なりに想像を膨らませてみる。

今は華奢ながらもそれなりに身長のある臨也を少女と見る事は難しいが(しかし女装でもすれば美女が出来上がりそうだ)確かに、あの顔立ちで背が低ければ少女めいて見えるどころかその辺の芸能人に引けを取らない美少女に見える事は間違いないだろう。

「ま、性格は顔には出ねぇしな」
「そうそう。その性格を知らない猛者共がそりゃもうたくさん臨也に告」
苦々しくぼやいた静雄の言葉に調子に乗った新羅が更に言葉を続けようとした時だった。

不意に後ろから白い手が伸びたかと思うと新羅の顎を捕らえて上向きに固定し、無防備になった喉元に銀に光る刃が突きつけられる。
「新羅、何か楽しそうな話してるね。俺も混ぜてくれない?」

絶対零度の微笑をその整った相貌に乗せて手は固定したままの臨也に覗き込まれた新羅は引きつった笑みを浮かばせて手を上げた。
「いやー、僕もちょっと記憶が曖昧になっちゃって。セルティの事なら一つ残らずよく覚えてるんだけどなぁ」
「そう。それは残念」
新羅がこれ以上余計な事を喋らないと判断した臨也はどう見ても残念そうではない口調で呟き、あっさりと手を離すと前後に掛ける静雄達の隣の椅子へ腰を降ろす。
「おい、告…ってなんだよ?」
「あー!そういえば私は委員会の呼び出しがあったんだったよ!じゃあ二人とも、また明日!」

そこに曖昧なまま言葉を切られた静雄が不満げに両者へと問いかけるが先程の威圧が効いているのであろう、新羅は早々に話題を切り上げて教室を出て行ってしまう。
時刻は放課後で元々人もまばらだった教室は静雄と臨也の二人が揃った時点で彼らを除く生徒達が退避している。つまり、必然的に二人が取り残されていた。

「シズちゃんさぁ、俺の事嗅ぎ回るなんてどういうつもり?俺の真似して情報収集でも始めたの?それともそんなに俺が好きな訳?まぁ前者はシズちゃんの単細胞な頭じゃ無理だろうし後者は俺が拒否するけどね」
「うるせえ」
「だってシズちゃんの頭じゃせっかく仕入れた情報生かせないでしょ。あ、それ以前に聞いた側から忘れたりしてね」
「〜…いい、加減にしろよ臨也ァァ!!」

そして例に漏れず、来神高校の騒がしい放課後は始まるのだった。









「…って訳さ。まぁ俺が帰ってからの話は予想に過ぎないけど十中八九、同じ経緯で喧嘩になってると思うよ」
一方、賢い生徒達と共に無事騒ぎから逃げおおせた新羅はもちろんあるはずもない委員会の集まりには出る事なく自宅で愛しい黒衣の女性ライダーに放課後の出来事を語っていた。
『しかし、静雄は何で突然臨也のことを聞きたがったんだろうな』
「セルティ、それは…」
パソコンに打ち込まれた文字を見て新羅は少しの間逡巡する。

あの二人の関係性をセルティは上辺だけしかしらない。普段接する機会など喧嘩で怪我をして新羅の治療を求めてくる時くらいだから当然だろう。
しかし新羅は違う。
普段から身近で二人の事を見ている彼には妙な確信があった。

静雄が臨也の話をしてたっていうクラスメイトを見た時の表情の動きだって、臨也が僕を押さえ込んだ時に聞こえた鼓動の速さだって、理由は自明之理なのにね。

そして彼は、愛しい彼女の顔があったであろう部分に向けて一つ得意気なウインクを送ったのだった。



「つまり、夫婦喧嘩は犬も食わないってやつさ」







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