「ん…」
柔らかな朝の光を浴びて静雄が目を覚ました時、腕の中の温もりは既に消えていた。
昨日数回に渡って求め合い、後処理を済ませると二人は糸が切れるようにして眠りに落ちたのだが、静雄は思いの外深く寝入ってしまったらしい。
いつの間に臨也が抜け出したのかも帰ったのかも全く覚えがない。

猫のような奴だ、と思う。
甘える仕草で擦りよったかと思うと此方が撫でる前に身を翻して去ってしまう。

そんな取り留めのない事を考えながら身支度を済ませ、いつも通りに学校へと向かう。
昨日あった事は全て覚えている、が別に臨也との関係が変わる訳ではない。

いつも通りだ。

いつも通りに喧嘩して、昼飯は休戦していつものメンバーで屋上に行って食べて、昼寝でもすればいい。幸い今日の麗らかな日差しは昼寝向けだ。

しかし周りの状況は静雄を日常へと返してくれる気はなかったらしい。
校門をくぐった瞬間、校内でも比較的体格の良い男性教諭達が静雄を取り囲んだのだ。

「…何スか。先生」
「な、何じゃないだろう!いいから校長室に来なさい…っ!」
突然の事に状況を掴めず目を白黒させる静雄に教師の一人が上擦った声を上げる。いつもは生徒を威圧する立場の彼らも静雄の尋常ならざる力は何度も目にしている為に強くは出られないのだろう。

静雄も初めは身に覚えがないと怪訝な顔をしていたが、ふと昨日の事に思い至って大人しく教師の後に続いた。






そう広くもない校長室には校長を始めとした教師達が勢揃いして入室した静雄に厳しい視線を送る。
「平和島くん。昨日旧校舎で生物の芹沢先生が殴られて大怪我を負う事件が起きた。単刀直入に聞くが、あれは君がやったのかね?」
「……はい」
素直に言葉を返すと途端にざわつく室内。中には露骨に侮蔑の視線を向ける者もいたが静雄はそれを何も言わず受け入れた。
「芹沢先生は君が突然部屋に入ってきたと思ったら殴られたと言っているが、それに対して何か言う事はあるかい?」


言いたい事は、当然ある。

あいつは殴られて当然の事をしたと思っているし、静雄はいっそ殺してやろうとまで思っていた。それ程までに臨也は傷つけられたのだ。
しかしそれを口にすれば芋づる式に臨也の件も話さなければいけない事になる。

それは、出来なかった。

「何もありません」
「弁明も言い訳も?」
「はい」
迷いのない返答は教師達に絶望混じりの嘆息を漏らさせた。
「…わかりました。今日はもう帰りなさい、平和島くん。処分は追って連絡します」
「…っス」
一礼して校長室を出ると途端に室内は騒がしくなる。それを気に留めた様子もなく静雄は昇降口に向けて歩き出した。

名の通り、静かな足取りで。











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