手の中の携帯電話がバラバラになって零れていっても、俺の怒りは収まらなかった。
あいつが浮気したというような可能性は微塵も考えていない。昔は色々としていたようだが、今は俺一筋といって憚らないあいつのその言葉だけは信用しているし、常日頃から妙な男共に言い寄られているのも知っている。

だからこの怒りはあいつに絡んでやがるクソ野郎共に向けたものだ。

「トムさん、すんません。今日は先に上がらせてもらいます」
何故か1m程離れた場所にいるトムさんに会釈をして、持ち前の勘であいつの居場所を探す。
感覚に従うまま歩を進めれば程なくしてサングラス越しに見慣れた艶やかな髪が映った。と同時に、細い腕を掴む手と振り上げられた拳も。

人の女に手ェ出してんだ、殺されても文句は言えねぇよなァ?

ぶつりと血管が切れる音を聞きながら手近にあったポストを根元からへし折る。
俺が歩いてきた時点で周りから人波は遠退いていた為に思いきり振りかぶったそれを目標めがけてブン投げると、それは予測通りの軌跡を描いてあいつを掴んで殴ろうとしていた男に当たった。

それから先は、正直言ってあまり覚えてない。

キレちまった後にはよくある事だがまあ当然の如く周りにはあいつに絡んでいた男共が転がっていて、我に帰った瞬間にナイフの切っ先が鼻先に突きつけられていた。

「これくらいの奴ら、私一人でも十分だったんだけど?」
挑戦的な視線に憮然とした表情の原因は俺が一人で男共を伸したからだけではないことはわかっている。
「あー…悪かった。次からはちゃんと着信気をつけるから、手前も俺の携帯の着信音もう勝手に変えんなよ」
「元に戻せの間違いじゃないの?」
「違ぇよ。さっきまで使ってた携帯は……もうねぇ」
「はぁ?!」
これを言ってしまえば聡いこいつの事だ、理由を推測されるのは時間の問題で自然と語尾が小さくなる。

「!…へえぇ、成る程ねぇ」
「うるせえ。言うな」
案の定気付いたらしく嫌らしい笑顔を向けてくる女の顔を覆うように乱雑に髪を撫で乱して、元来た道を引き返す俺にひょこひょことヒヨコのようについてくる姿は可愛くないとは言えない。

「ね、シズちゃん。買い物ついでに携帯も見に行こ?次は私のとお揃いにしよっか」
あとご飯はシズちゃんの奢りね、なんて飄々と言う様すら可愛くないとは……可愛いと思えてしまう俺は相当毒されてると晴れ渡った池袋の空に吐き出した溜め息は、煙草の煙と混じって溶けていった。






(次の携帯は絶対壊せねぇ)








予想以上のバカップルっぷりに自分でもびっくりしました。あれ?これシズイザ?
イメージは某曲だったのですがそれすら原型がどこかに吹っ飛んでいます\(^O^)/









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